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公共政策としてのスタートアップ投資乗数効果

2021.3.1

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ANOBAKA長野です。

昨年12月にMBOしてからなんだかんだでバタバタしていましたがようやく落ち着いてきました。

ANOBAKAはシードステージに特化したVC Firmを運営していますが、マクロ視点で見た際に、「スタートアップ投資は公共政策として他の財政政策横並びで比較すると乗数効果的にけっこう秀逸なんじゃないか?」ということを最近考えています。

この公共政策としてのスタートアップについて、もう少し深く思考したいなというのが本稿の趣旨です。内容としては実際ポジショントーク満載ではあることは承知の上で、それを加味して読んでいただければと思いますが、個人としては割と本気で思っています。

乗数効果とは?

先ず、日本の財政は昨年末の第3次補正予算で19兆円超もの追加計上があったことが話題になりましたが、結果的に20年度の歳出は175兆円超となっています。20年度についてはコロナ対策という特殊事情があるので、これだけ財政赤字が膨らんでいることへの賛否ありますがやむを得ない状況ではあると思います。

一方、コロナ対策など人命に関わる予算は勿論別軸で判断しなければならないですが、財政支出には乗数効果という概念があります。

乗数効果:

一定の条件下において有効需要を増加させたときに、増加させた額より大きく国民所得が拡大する現象である。国民所得の拡大額÷有効需要の増加額を乗数という。マクロ経済学上の用語である。リチャード・カーンがもともとは雇用乗数として導入したが、ジョン・メイナード・ケインズがのちに投資乗数として発展させた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/乗数効果

要は政府支出がマクロ経済にどれほど効果あるのか?という指標です。

また、乗数効果だけで判断できない雇用創出効果も重要な観点です。マクロ経済政策の効果測定は調べれば調べるほどややこしい概念(限界消費性向、金利、物価など複雑な変数が多い)であり、素人には理解が難しいと感じたので乗数効果と雇用創出効果の肌感覚だけでもまとめてみたいと思いました。

政策とスタートアップの乗数効果

先ず直近の政府支出による乗数効果というものが簡潔ににまとめられたものがなく、ニッセイ基礎研究所のレポートによると1.5から1.0に向けて推移しているとのこと。これは1000億円の財政支出によって1500億円の名目GDPが増えていたが、その効果が1000億円程度まで低減しているということです。

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=61050?pno=3&site=nli

みずほ総合研究所のレポートによると2020年の追加経済対策についてはGDP押上効果は0.7とのこと。

田中角栄内閣の日本列島改造論などが叫ばれていた時代は日本のインフラは未整備なものだらけだったので、高速道路にしても新幹線にしてもインフラ投資すれば効果的にGDPにヒットしていました。

ただ経済が発展しインフラ面での成熟が増すにつれ、不必要な箱物投資などが増え、乗数効果は徐々に低減していっていると言われています。

一方財政政策としてのスタートアップ投資の乗数効果を考える際に

・投資に対してのリターン

・投資先の売上規模拡大

この2つが重要な指標になるんじゃないかと思います。(もっとあるような気もしますが)

投資に対してのリターンは一般的に日本のVCのパフォーマンスという観点では肌感覚で周りのVCのファンドは保守的に見てもファンド期限(10年)で2Xは超えてるはずなので、単純化するための2Xで計算すると

2=(1+IRR)^10

IRR=2^1/10-1

=7%

ちなみにpreqinのデータではネットマルチプル(中央値)は1.5倍以上、ネットIRR(中央値)は14%というデータがありました。

投資リターン単体で見た時に日本のVCファンドから単年で1.07-1.15のIRR(中央値)が期待でき、乗数効果の一部を形成すると考えられます。

投資先の売上規模については色々試行錯誤したんですが、一般的な数字というものを出すのがかなり難しかったので、ANOBAKAのファンドの場合で見てみました。

うちの1号ファンド(5年前スタート)が10億円投資した時点の投資が39社ありました。その各社のその後の売上推移をみていくと(ちなみに投資時点の売上はほぼないケースがほとんど)、39社合計直近通期売上が60億円でした。

10億の投資が5年で単年60億円の波及効果を生み出したことになります。

実際にはANOBAKA以外のVCファンドがこの各社にも投資しているわけで、純粋に10億円のシード投資マネーが60億円の波及効果があったとは言えない部分があります。

しかし、スタートアップはそもそも投資性向が高いため一般的な公共投資に比べて乗数効果が高くなるのかと思います。精緻なデータは難しいですが、乗数効果測定の肌感覚は理解していただけるかなと思います。

雇用創出効果

雇用創出効果は文字通り公共投資によって新規雇用がどれほど生まれたかということです。厚生労働省の雇用誘発係数によれば、公共事業 10 億円が追加されるたびに約120 人の新規雇用が誘発されることになるようです。財源の半分が雇用に使われたとすると妥当な数字かと思います。

スタートアップ投資における雇用創出効果は、これも一般的な数字を出すことはかなり難しく、例によってANOBAKAのファンドの事例を調べてみました。上述のケースと同じく10億円投資した時点の投資先39社の現在の社員数が900名(正社員のみ)でした。

5年間かけての数字なので単年で見ると180名の雇用創出効果です。これもまたANOBAKA以外のVCファンドがこの各社にも投資しているわけで、純粋に10億円のシード投資マネーが900名の雇用を生み出しているわけではありません。

この30年間の世界の時価総額ランキングで日本企業の地盤沈下が激しいという議論がありますが、先ずこの現状を打破しなければならないという一大テーマがあります。

私自身がイチVC Firmを運営しているという主観を置いておいて、客観的に見て公共投資として効果的(であろう)という観点から、国の経済政策におけるスタートアップ投資への財源拡大は、イチ景気対策としてもっと進めても良いのではないかと思います。

このポストについて正直やり始めて想像以上に時間かかることに心が折れて途中でポストしている感が否めないのですが、また時間を見つけてスタートアップの乗数効果についてより精緻な数字をレポートしたいと思います。

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