今回は、化学素材業界向けにAIエージェントを提供するCatalis株式会社の代表・松本氏をお迎えしました。
論文や特許といった膨大な非構造データをもとに、従来は属人化していた「用途探索」や「素材開発」のプロセスを再設計する同社。その背景には、検索・推論の高度化と、業界特有の意思決定フローへの深い理解があります。
AIエージェントが単なる業務効率化にとどまらず、開発プロセスや産業構造そのものをどう変えていくのか。化学産業を起点に、その可能性を探ります。
◼︎ゲストプロフィール
松本 悟志氏(Catalis株式会社・代表取締役CEO)
筑波大学大学院で生物化学工学を専攻し、バイオマス関連の研究に従事。
https://cataris.ai/company
株式会社マクニカへ入社後、ネットワーク/セキュリティ製品拡販事業に携わった後、外資SaaS企業にてIT・製造業向けのプロジェクト管理・業務効率化基盤構築の支援を経験。
その後、生成AIスタートアップにて取締役COOを担い、現在はCataris株式会社を創業。
属人化された用途探索を、AIで構造化する
——まず、事業概要を教えてください
化学素材業界向けに、ディープリサーチ型のAIエージェントを提供しています。化合物データベースや特許・論文などの大規模データを統合し、用途探索と素材開発の示唆出しを行うプロダクトです。
——具体的にはどのような機能ですか?
一つは、ある素材がどの用途に使えるかを探索する機能です。もう一つは、顧客から求められる性能に対して、どのように素材を改良すべきかを、論文や特許をもとに示唆する機能です。
——従来はどのように行われていた業務なのでしょうか?
用途探索は非常に属人的で、展示会や論文調査をもとに仮説を立て、会議で検証するというプロセスでした。半年から数年かかることもあり、知識集約的でDXが進んでいない領域でした。
——AIで置き換えられる理由はどこにありますか?
公開情報として論文や特許が豊富にあり、そこに社内の知見を組み合わせることで推論が可能です。特に検索式の設計や情報取得・解釈の部分は、LLMによって人より高速かつ正確に実行できます。
「用途から開発へ」——業界構造そのものの変化
——プロダクトの導入で見えてきた変化はありますか?
当初は既存素材の用途探索での活用を想定していましたが、新素材開発の初期段階で使われるケースが出てきました。
——どういう変化なのでしょうか?
従来は「素材を作ってから用途を探す」流れでしたが、現在は「用途やニーズを先に調査し、開発リスクを下げてから素材を作る」方向に変わりつつあります。
——その中でAIの役割は
仮に他社の特許技術を自社が持っていた場合、どの用途に展開できるかをシミュレーションできます。用途の広がりや技術的ハードルを事前に把握できる点が価値です。
——どの企業にも当てはまる動きですか?
一定規模以上のメーカーでは特に当てはまります。一方で中小企業は受託ベースの開発が多く、開発体制や意思決定のプロセス自体が異なります。
バーティカルAIの強みと、構造的な制約
——バーティカルAIのメリットはどこにありますか?
同じ用途探索でも、業界ごとに情報源や思考プロセスが異なります。業界特化することで、最適なデータ処理や出力設計が可能になります。
——一方で難しさは?
市場規模(TAM)の制約があります。従来のSaaSのようにマルチプロダクトで拡張する戦略もありますが、ビッグテックが汎用エージェントを提供する中で競争環境は厳しくなります。
——顧客側の導入ハードルもありますか?
あります。業務全体を一社のプロダクトに任せる意思決定は難しく、スイッチングコストやデータ管理の観点から慎重になります。
——では、差別化はどこに生まれますか?
プロダクト単体ではなく、業界知見と営業力を組み合わせた事業としての実装力です。トップダウンで導入を進められる組織が重要になります。
AIネイティブ事業者への進化と、商流への入り込み
——今後の方向性について教えてください
AIエージェント単体の事業としては、この3年が勝負だと考えています。その中でAIネイティブ事業者に移行できるかが重要です。
——AIネイティブ事業者とは何を指しますか?
既存の商流やエコシステムの中に入り込み、実際のビジネスまでつなげられる存在です。例えば、用途探索で得た機会を商社と連携して受注までつなげる、といった形です。
——商社的な役割を担う可能性もある
はい。規制情報に基づく代替素材の提案など、従来商社が担っていた機能の一部をAIで内製化していく構想があります。
——直近1年の目標は?
一つは顧客に深く入り込む実績づくり。もう一つは、商社機能の一部を内製化し、AIネイティブ事業の兆しを示すことです。
いかがでしたでしょうか?
今回の内容はポッドキャストでも配信しておりますので、詳細の内容を知りたい方はぜひ音声でもお聞きください!



