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LEGO Venturesが賭ける教育とエンタメの未来

2021.11.15

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著者: たかはしゆうじ( @jyouj__ )



Leg Godt

上の言葉はデンマーク語で「よく遊べ」を意味します。この言葉を略して、”LEGO”というブランド名ができました。誰もが、幼い頃あるいは自分の子供を通して一度は触れたことがある知育玩具として馴染みが深いでしょう。

想像力を刺激し、自由自在にブロックで世界を表現することができるLEGOはもはやおもちゃの域を飛び越えて大きな経済圏を作り出しています。アーティストの表現として、”LEGOLAND(レゴランド)”というテーマパークとして、大人の童心に火をつけ、熱狂的なファンを今なお獲得し続けています。

しかし、どれだけ拡大し続けても“LEGO”は当初からのコンセプトであり、由来でもある”Leg Godt”を忘れてはいません。子供達に遊びを通して成長してもらうという変わらない未来のため、変わる世界に投資しているのです。

この記事では、LEGOの立ち上げたCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)である“LEGO Ventures”とその投資先について見ていきます。


#01. LEGO Venturesとは

LEGOは1932年、デンマークで創業されました。当初は看板商品として有名なレゴブロックではなく、ヨーヨーや家具などを製造する家族で経営する木工所から始まりました。転機が訪れたのは第二次世界大戦後の話です。時代の変化をめざとく観察していたLEGOは木製のおもちゃからプラスチック製のおもちゃを作るようになっており、組み立て可能な結合ブロックに目をつけます

当初は小売業者から受け入れられなかったが、徐々に人気を得るようになりました。そして、順調に拡大し、さながらヴァイキングのようにグローバルで戦えるブランドとなったのです。一方で、LEGOは現在も創業家一族が株を大きく保有する非上場企業です。そのため、LEGOの経営史では幾度か経営不振を招いています。主に環境変化に対応できなかったことが原因です。

再びそうならないためには、LEGO自身が未来を先取りして、未来にベットしなければいけません。かつて木からプラスチックで、おもちゃの未来に賭けたように。そして、LEGOは2018年に”LEGO Ventures”を設立しました。

LEGO Ventures

LEGO Venturesの投資対象は本体のLEGOとシナジーのある教育と遊び(主にデジタルを使ったもの)に絞られています。サイト上では、教育分野では特に在宅学習、スキル評価などに興味があるとしており、遊び分野では遊び心のあるデジタルとつながる体験やデジタル上のエンタメの作成サービスなどを挙げています。

シナジー投資を行うこともあり、彼らの支援は資金援助だけにとどまりません。LEGO Group全体と密接にリンクし、サプライチェーン・マーケティング・製品開発の知見を存分に享受することができるようになってます。そのため、LEGO Venturesのチームにはマーケティングおよびバリュークリエーションのポジションにつくメンバーが数名います。Value Creation部門の責任者であるEleanor BonenはMBAを取得しており、LEGO Venturesに参画する前は10年以上にわたって、複数のエドテックスタートアップに在籍していました。

LEGO Venturesのトップは2021年にジョインしたCecilia Qvistという女性です。彼女はSpotifyが世界展開をする際に、グローバル戦略を監督しました。現在は、LEGO Venturesの責任者としてだけでなく、複数のスタートアップの取締役でもあります。

Our strength comes from concentrating on the idea. Dig deep, range wide – and the ideas will come.

Godtfred Kirk Christiansen
Second generation owner of the LEGO Group, 1955

LEGOは遊びを通して学ぶという哲学を持っています。このアイディアの中核を成すのはたった5つの概念だけです“積極的に関与する”“意味を持つ”“反復的である”“社会的インタラクション”、そして単純に“楽しい”。彼らLEGO Venturesが求めているのはこのアイディアを拡張あるいは影響を受けたスタートアップなのです。それでは、LEGO Venturesのポートフォリオを見ていきましょう。


#02. LEGO Venturesの投資先

LEGOが具体的にどのような企業に魅力を感じているのか、3社ピックアップして詳しく見ていこうと思います。

Piepacker – レトロゲームが遊べるプラットフォーム

piepacker

拠点: アメリカ
設立: 2020年
累計調達額: $1,490万

PiepackerはWebブラウザ上でレトロゲームを遊ぶことのできるプラットフォームです。他のユーザーと一緒に遊ぶことができるため、一見ソーシャル志向にも見えますが、ローテクで昔ながらのゲーム性により優しい遊び心と創造性に触れ合うことができるようになっています。この点で、昨今のApexなどに代表されるバトルロワイヤル系のゲームとは異なるアプローチです。

80以上のゲームタイトルが用意されており、”Worms World Party“や”Sensible Soccer“といったゲームをプレイできます。アカウントは無料で作成でき、部屋を作って他の人を招待し、ビデオチャットをしながら楽しめます。このアプローチの仕方はおそらく、リビングで友達や兄弟と一緒にテレビの前でゲームを遊ぶ集まりをオンライン上に再現する試みでしょう。

このプラットフォームの特徴は“過去”性の強いレトロゲームと”現在”のテクノロジーの進歩をかけ合わせていることです。プレイするのに必要なのはChromeブラウザとメールアドレスとインターネット接続環境だけです。クラウドゲームの技術発達もサービスの実装に大きく寄与しています。ビデオチャットには3Dマスク機能が搭載されており、“近未来”性も感じ取ることができます。

マネタイズモデルはプレミアム会員からのサブスクです。プレミアム会員は所有する独自のゲームをPiepackerプラットフォームにドラッグ&ドロップするだけで、オンラインでプレイすることができるようになります。そのほかにも開発中の様々な機能が使えるようになる予定です。

全ての世代を通して楽しめるレトロゲームを使って離れている家族とコミュニケーションを取るのもいいかもしれませんね。


FreshGrade – 教育進捗管理プラットフォーム

FreshGrade

拠点: カナダ
設立: 2011年
累計調達額: $1,590万

FreshGrade学生、保護者、そして教師向けに対面および遠隔授業においてデジタル管理できるツールを提供しています。三者それぞれが日々の課題、目標、評価をオンライン上でコミュニケーションすることができます。

教師はFreshGrade単一ツールで生徒データ・進行状況管理、生徒と保護者とのコミュニケーションなどを行うことができ、生徒はビデオや音声、フィルタリングなど多様な手段を用いて学習を可視化することができます。そして、基準をもとに効率よく評価をつけることができるようになっています。また、校長が月次のレポートを通して、教師・生徒・保護者がFreshGradeをどう使用しているか分析する機能まであります。

学校教育現場に広く使われるように細かいところまで配慮したプラットフォームとなっているため、2021年4月の時点で130万人ほどの学生、8万人以上の教師、180万人程度の保護者に使用されていると同社は述べています。

FreshGradeのテクノロジーは評価され、アメリカのHigher Ground Educationによって金額非公開で買収されました。Higher Ground Educationはモンテッソーリ教育を専門とする学校ネットワークを運営しています。


mod.io – ゲームとUGCを繋げるプラットフォーム

mod.io

拠点: オーストラリア
設立: 2017年
累計調達額: $3,090万

mod.ioはゲームスタジオとユーザーが作成したコンテンツ(UGC)を繋げるプラットフォームです。Modについてはマインクラフトなどのゲームを遊んだことがある人には馴染みが深いでしょう。主にPCゲームの改造データのことで、導入することによってグラフィックやデータを別のものにすることができます。中には、ゲーム自体を根本から変えるものまで幅広く存在しています。

2,000万個にのぼるUGCが毎月300万人ものユーザーにこのプラットフォームを通して供給されています。80以上のゲームをサポートしており、クロスプラットフォーム対応となってます。

多くのゲームが熱心なファンのUGCによって人気になっていった歴史があります。ゲームのエコシステムにとって欠かせない要素です。同社によると、メタバースはUGCを基本要素として構築されるだろうと発言しています。ゲームにおけるクリエイターエコノミーの発展、メタバースの部品構築に向けてmod.ioは重要なポジションとなり得るかもしれません。

LEGO Venturesが参加したシリーズAラウンドはテンセントが主導しました。ゲーム業界におけるステークホルダーを巻き込めている点でもmod.ioの今後の展望に注目せざるを得ないでしょう。


参考

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