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「生成AIの最新活用事例と今後の展望」イベントレポート

2024.7.3

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こんにちは!ANOBAKAインターンの古市です。

6月26日に豪華な登壇者をお呼びし開催された「連続起業家とUSのエンジェル投資家が語る 生成AIの最新活用事例と今後の展望」のイベントに関してみなさんにお届けしたいと思います!

今回はUSでエンジェル投資をされている方と連続起業家の方2名がいらっしゃる豪華なセッションになりました。

会場には、起業家や事業会社、VC、CVCの方が多く集まり、大変盛り上がりました!

ご登壇者紹介

▼エンジェル投資家

 シバタ ナオキ 氏

▼PeopleX代表

 橘 大地 氏

▼SpiralAI代表 

 佐々木 雄一 氏

イベントの様子

3名の自己紹介とANOBAKAの紹介が終わり、イベントが始まりました。

イベントでは、主に以下の4つのテーマについてお話いただきました。

  • USの生成AI投資トレンド
  • 生成AIの導入事例
  • 生成AIの導入の際のハードル
  • After生成AI時代のMoat

当日、参加が出来なかった方もいらっしゃるかと思いますので、それぞれのテーマでお話いただいた内容を一部みなさんにもお伝えさせていただきます!

USの生成AI投資トレンド

小林:Crunchbaseのデータでは、24年5月のグローバルの資金調達の約40%がAI系スタートアップというデータもございますが、今アメリカでエンジェル投資をされてるシバタさんに現場感みたいなところをお聞きできればと思います。

シバタさん:月に70件80件ぐらい新規のスタートアップと接触しているんですけど、3分の1ぐらいがいわゆるピュアな生成AIスタートアップです。日本にいる方とお話をすると、「いや、まだ生成AIは全然来てないですよ」って話を聞くんですけど、アメリカはもう生成AI一色みたいな感じです。みんな生成AIのスタートアップをやっていて、生成AIの会社がバリエーションもつく、という感じになってます。全体のトレンドでいくと、非常に数も増えていてバブルに近い状態になってるのも事実です。それはスタートアップだけじゃなくて、株式市場を見ていただければわかると思います。

僕は生成AI のレイヤーを語る時に大体5つのレイヤーに分けて語るんですけども、1番下がチップですよね。皆さんご存じの通り、NVIDIAがすごいことになっていて、NVIDIAが苦手なところをつつくようなスタートアップもたくさん出てます。下から2つ目が、いわゆるクラウドとかデータセンターとか、MLOpsって言われるところで、ここは 基本的にはaws、Azure、google cloudが中心にいて、多分これまでの景色とあんまり変わりがないかなと。その上の3つ目のレイヤーがLLMですね。LLMは皆さんご存じの通り、OpenAI、Anthropic、Metaと大手含めたプレイヤーが出てきておりここはかなり加熱しています。LLMの性能自体はこれからも良くなっていくと思うんですけど、僕はもうここはコモディティになったなと思っています。

コモディティになったというのは、今から第三者が新規参入できるところではないですし、競争の軸が「精度」と「レスポンスの速さ」と「価格」の3つしかない状態なので、もちろんその中で彼らが競争していってどんどん良くなっていくと思うんですけど、 大きな確変が起こるというよりは、割と先が見えてきたかなという意味でコモディティになったと思います。

4つ目のレイヤーが汎用型のアプリケーション。汎用型というのは、例えば
Githubのcopilotとか、あとはadobeとかsalesforceとか、そういう割と業界問わず使えそうなソリューションを出してるプレイヤー、大きなプレイヤーがいて、そこは去年一通りできたのかなと。

5つ目、1番上のレイヤーが業界特化型のアプリケーションで、ここが多分これからの主戦場になるんじゃないかなと思います。なので、私が見てる会社はもちろん全部が全部じゃないんですけど、基本的に業界特化型のアプリケーションが非常に多いかなと思います。

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業界特化型のアプリケーションを語る時に、LLMは賢いからLLMをどこかの業務に導入したらすぐ何かが起こると勘違いしがちなんですけど、全然起こらないんですよね。例えがいいかわかんないですけど、LLMはすごいIQが高い偏差値75の新人みたいなものだと思ってください。賢いんですけど、業務知識がないので、そのまま現場に投入してもワークしないんですよ。なので、 特定の業界の特定のワークフローの知識をきちんと研修、すなわち、マシンラーニング的にはトレーニングをしてあげないと使い物にならないんですよね。その特定の業界の、特定の職種の知識を大量にその偏差値75のLLMに学習させて、ようやく業務に使えるようになるかならないかの勝負を今スタートアップでやってるっていうイメージですね。

日本の生成AIスタートアップはなぜまだ少ない?

橘さん:アプリケーションレイヤーは、若手でもある程度チャレンジできる領域だと考えていて、現にアメリカだと40%の資金調達を受けたスタートアップがAI系というデータも先ほどありました。それに対して、日本って生成AIネイティブなスタートアップって起業家も数えるほどしかいないのが疑問で、そのあたりシバタさんに理由をお聞きしたいです。

シバタさん : アメリカと日本のスタートアップの環境ってこれまでも一定時差はありましたし、生成AIについてはアメリカもここ1-2年で盛り上がったくらいなので日本でもこれから増えてくるとは思うんですよね。ただ、みなさんが思ったよりもアメリカの事例を踏まえて起業をする人が少ない理由は2つ理由があるかなと思ってます。1つは、TechCrunch Japanがなくなったことによってアメリカの情報が日本に伝わらなくなったことが1つかなと。それは別途なんとかしたいなと個人的には思ってるんですけど。

もう1つはアメリカの特にシード/アーリーステージのスタートアップがどんどんステルスでやるようになってるんですよ。昔は資金調達したらメディアに出て、露出を増やしていくスタートアップが多くいました。もちろん今もやってる人もいるんですけど、どんどんステルスで隠れて事業を進めているスタートアップが増えてきている印象です。なので、Crunchbaseなどのスタートアップのデータベースを見てても、シード/アーリーステージの情報ってもうほとんど虫食いなんですよ。そういうのもあって、とにかくアメリカの最新の事例が日本では見えにくくなってるなっていうのはあるかなと思います。

やっぱり日本の場合は、歴史的に見てもアメリカで流行ったものをちょっとも日本用にモディファイして日本で出すみたいなのが多かったじゃないですか。それがものすごくやりにくくなってるっていうのが個人的には1番 大きいかなとは思いますね。ただ、日本において少子高齢化、労働人口減少が起こっているという意味では、おそらく最もこの生成AIによる効率化が必要な国の1つだとは思うので、 どこかのタイミングでスタートアップが増えるのではないかなと個人的には思ってます。

小林:ありがとうございます!そうですね、最近ようやく今までステレスでやっていてシリーズAの調達をしましたみたいなスタートアップが増えてきた印象で、結構今になって事例が出てきたなって思ってます。そういう意味でもどんどん日本でもアメリカの事例をモディファイしたスタートアップが出てくると良いなと思っております。

生成AIの主戦場はTo B? To C?

小林 : ちょっと全然別の視点なんですけど、toB と toC で言ったらどっちが多いんですかね?

シバタさん : 多分95から99対1ぐらいの感じで、To Bが多いですね。多分さっきお話した理由と同じで、まだ今のLLMだとなんでもできそうに見えて結局何もできないので、To Cの利用用途に耐えられないケースがほとんどなんじゃないかなと思いますね。

ChatGPTの次にユーザーが多いサービスは、Character.AIというサービスで、有名人のチャットボットと会話ができるっていうサービスです。今のところ多分C向けで1番伸びてるのは、人間の暇とか孤独を解決するみたいなサービスかなと思います。佐々木さんがやられている介護現場で高齢の方がAIと会話できるサービスなんかもすごくいいと思います。ただ、人間の暇とか孤独を解決する以上のサービスと思うとまだ今のLLMがあまりにもピュアすぎて、知識がなさすぎて、人間側の欲望とか要求がスペシフィックになればなるほど、まだ答えれない問題はやっぱりあるのかなと思います。

小林 : そのあたり佐々木さん、去年調達されてから色々模索しながらと言ったところだと思うんですけど、toC, toBの事業領域の見極めみたいなところではどのようにお考えですか?

佐々木さん : これまでの経験の中で、toBをだいぶ長くやってきたというのもあり、初めはtoBで起業してます。ただ、そろそろ toC もやりたいなと思っているのも1つあってto C寄りの事業をやり始めました。

あともう1つは、起業当初はLLMの精度的にしっかりB向けでしっかり使われるかが結構微妙なラインだったんですよね。今でこそいろんなユースケースの中では使える事例が徐々に出始めてますけど、toB だと人の置き換えになりますっていうストーリーじゃないですか。現職の方も色々やってらっしゃる中で、 じゃああなたの仕事も置き換えますって言ったら、「いやいや、じゃあ僕と勝負して精度を確認させろ」みたいな話もあり、それを説得するだけのビジョンが見えなかったっていうのが当時はありました。キャラクターの皮で被せてあげることによって、人の敵じゃないよ、人の味方だよっていう立ち位置に持ってこうかなっていうのはありましたね。

To Bへの導入がスムーズに進むには?「人のRoleの代替」以外の訴求のストーリーとは?

シバタさん:既存で人間がやっているものとの比較になるってのはまさに佐々木さんの仰る通りで、そういう比較になってしまうと確かに導入の障壁がそれなりに高いんですよね。人間がやるより正確なのかみたいな話になったり、どのぐらいコストを削減できるんだみたいな話になってしまいます。なので、1番さくっと導入されてくケースは、そもそも人材不足が顕在化していて、且つ人間がやりたくない仕事を生成AIによって置き換えもしくは効率化できるケースです。人間があまりやりたくないって思ってる仕事を AIで全て置き換えとまで行かなくても、AI Copilot型で効率化できますみたいなのは導入障壁は低いですね。

小林:シバタさんの投資先に限らず、人材不足の市場にうまくマッチしたスタートアップの例って何かございますか?

シバタさん:2つご紹介させていただきます。1つ目が、エンジニアの1次面接を生成AIで置き換えるというものです。最終面接はまだAIがやるには早いんですが、1次面接って聞く質問は似通ってきますし、選考に通らない候補者って5分くらいで判断がつく一方、規定の時間は面接を続けなければいけないというケースも少なくなく、比較的人間がやりたがらない仕事です。そういう意味では生成AIへの置き換えが比較的スムーズに進みます。

2つ目が、引越し業者向けのバーティカルSaaSに生成AIを組み入れることで売上が爆発的に伸びたという事例があります。その会社では「AI Sales Copilot」と呼んでいるのですが、引越し業者の電話オペレーターの会話をAIが聞き取り、電話オペレーターに裏で指示を出してくれて、電話の中で聞くべきこと/伝えるべきことが会話に網羅されているかチェックしてくれるというものです。引越し業者のオペレーター業務は常に一手不足でバイトを雇うのも苦戦している中、新しく雇ったアルバイトをDay1活躍させるためのサポートをAIがしてくれると引越し業者としてもかなりありがたいです。人手不足を解決するだけでなく、適切な会話をAIが誘導することによる成約率の向上も見込まれ、業社の売上増加にも寄与します。これはCopilot型ですが、人手不足の業界で根深いユーザーの課題をAIが解決する良い例だと思います。また、今後は技術の発展とともに現在のCopilot型から自動化へと進歩する可能性もございます。

HR業界での導入ハードルとは?スタートアップが作る既成事実と規制

小林:導入のハードルという話題に関連づけて橘さんにお聞きしたいのですが、HR領域で生成AIを活用するという方向性について何か顧客側から懸念点や要望等は実際の声としてあったものをご共有いただきたいです。特に、HRの領域の場合機密性の高い情報も伴うと思いますので、その辺と併せて教えていただけますでしょうか?

橘さん:大前提本当にコアの人事マターの情報を生成AIに突っ込むということはしなくて、一旦はオペレーションの最適化という文脈で生成AIを活用する予定なので、現時点で大きなハードルを感じているということはないです。ただ、今後生成AIの守備範囲を広げていく際に、特に採用という観点では規制とかガイドラインがハードルになるのかなと考えております。例えば、ヨーロッパでは生成AIが採用面接をしてはいけないというのがガイドラインで禁止されていたり、国によってはそもそも面接において性別や年齢を聞いてはいけないという規制もあったりします。日本やアメリカでも今後どのようなガイドラインが制定されるか不透明ですが、例えば今後ある企業の採用の判断が生成AIによってなされているということが明らかになった際に、相当摩擦が起きる可能性があるなと見ています。

小林:ありがとうございます。今日冒頭でPeople Xのテーマは「コンパウンド」「生成AIの活用」「グローバル」とお聞きしましたが、HR領域の導入ハードルの一つが規制やガイドラインだとすると、「グローバル」に展開することは各国で規制への対応が発生する可能性もあり、かなり難易度は高いのかなと思います。その上で「グローバル」を掲げられるお考えをお聞きしても宜しいですか?

橘さん:アジアにおいては、ほとんどガイドラインができていないケースが多いので、そこから参入していくことで、どちらかというと「規制作り」をしていきたいなと思ってます。特に、クラウドサインでは50個くらいの法律や規制を変えてきた経験もありますし、生まれた摩擦を社会的コンセンサスを得ながらそれを規制にしていくというのはある意味スタートアップの社会的な仕事/役割の一つだと思っています。小林:まさに、スタートアップが既成事実/市場を作っていくということですね。ありがとうございます。

生成AI時代のMoatの源泉とは?

小林:よくあるテーマではございますが、最後に生成AI時代のMoatの築き方をテーマに議論させていただければと思います。敢えてBefore生成AIと定義して話をすると、よく言われるMoatの源泉は「ネットワーク効果」「スイッチングコスト」「規模の経済性」「ブランド」だったりします。このあたりAfter生成AIにおいては何が重要になってくるか橘さんにお聞きできればと思います。

橘さん:正直ここは変わらないかなと思っています。加えて、ネットワーク効果とかMoatみたいな話は、前半戦の覇者が後半戦で加速度的に成長するためのものだと思ってます。では、前半戦の勝負が決する要素は何かというと資金調達量だと思ってます。Moatの話は各所でされるものの、Moatを築けなかったというより前半戦の勝負が決する前に資金調達量で負けたという話がほとんどなのかなと。LINE、Abema TV、U-NEXT、PayPayなど結局多額の資金を用意できた会社が勝ってきているわけで、なんならPayPayの領域なんてPayPayが参入する5年前からスタートアップが取り組んでいたテーマなわけですよ。なので、生成AIにおいてもMoatとかあまり気にせず資金調達量で勝負して、一気にチャネルを広げて最短でSaaSの覇者になるというのが結果的にMoatになる、そういう話なのだと捉えております。そういう意味で、今回大企業に資金量で負けたくないという考えから16億円の資金調達をさせていただきました。

小林:ありがとうございます。Moatについて、資金調達についてそのあたり、続いて佐々木さんいかがでしょうか?

佐々木さん:Moatについてはまさに橘さんの仰る通りでして、「そのビジネスあなたにしかできないの?」と聞かれればそうでもないし、本質的にMoatを持っていますと言えるスタートアップも数限られてくるのかなと思ってます。ただ、仮にSpiral AIのMoatは何かと説明する場合、独自の言語モデルを持っているというところかなと思います。弊社のモデルは主に雑談に使用することが多いので、細かな言葉のニュアンスを事前に学習させています。例えば、大阪弁の「あかん」という概念・言葉ってChat GPTは理解できなくて、弊社のモデルであれば理解できるといった、プロンプトによるチューニングだけでは達成できない世界があるのでその微妙な差が競争力を生むと考えています。それを生み出すのは複合的な要素でして、テクノロジーだったり、GPUの基盤だったり、心理学のノウハウだったりするわけです。

小林:ありがとうございます。一点追加で、基盤のモデルの進化との付き合い方について教えてください。例えば既存のモデルをチューニングして精度が1上がったとして、そもそものベースのモデルが飛躍的に進化して精度が10よくなるみたいな話もある中でどのようにそれらと付き合っていくか是非お聞きしたいです。

佐々木さん:そのリスクは常にあると思います。ひっくりかえるリスクは常にあって、だからこそMoatは築きづらいのかなと思ってます。ただ、弊社でいうと◯◯さん(例えば野々村真さん)に特化したモデルを用意していて、それってドメイン特化の極みだと思っていて、それって汎用的なモデルの進化があろうが追いつきずらいという構造上のMoatは存在するかなと思います。

小林:お二方ありがとうございます。スタートアップ側のお二方のご意見が聞けたところで、シバタさんに投資家目線で生成AI時代のMoatについてお聞きできますでしょうか。

シバタさん:投資家が考えるMoatって机上の空論だったり後付けだったりすることも多いので、アーリーステージで投資しているということもありますが、投資の判断の際には私はMoatはあまり見ないかなと思います。ただ、生成AI文脈でいうと一つだけ見るところがあって「この会社のクライアントが増加すればするほど、生成AIが提供するサービスの質が改善していく」という構造にあるかについては見るかなと思います。先ほども説明した通り、今のLLMだと偏差値75の新人という状態なので、いかにサービスの構造として顧客が増えれば増えるほど提供価値が向上するという点は重要なのかなと思います。

交流会の様子

セッション終了後は登壇者との名刺交換&交流会です。

交流会では登壇者のみではなく、参加者同士の交流も数多く見られました。

参加いただいた起業家からも、

  • 学びが多くて、参加してとてもよかった! 
  • ゲストが豪華すぎる!
  • こんな勉強会をもっとやってほしい!

というような感想をいただきました!

改めまして、今回ご登壇いただいたシバタさん、橘さん、佐々木さん、そしてご参加いただいたみなさんありがとうございました!

今後もANOBAKAでは、このようなイベントをたくさん企画していきますので、みなさんのご参加お待ちしております!

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