こんにちは!インターンの川野です!
「生成AI起業のヒント」では、ANOBAKAが注目している海外の生成AIスタートアップを取り上げて、生成AIの活用方法を分析・解説していきます。
生成AI領域で起業を考えられている方にとって事業のヒントとなれば幸いです。
第20弾となる今回は、AIを搭載したCS(カスタマーサポート)エージェントを開発するDecagonというスタートアップを紹介します!
1. Decagonとは
■企業情報
- 会社名:Decagon
- 本社所在地:サンフランシスコ(アメリカ)
- 最新の調達ラウンド:Series A
- 資金調達総額:3,500万USD
- 主な株主:Accel, a16z, A*, Elad Gilなど
- カテゴリー:CS
- 公式ホームページ:https://decagon.ai/
近年、生成AIの急速な進化により、多くの業界・業種が変革を遂げています。
言わずもがなカスタマーサポートもその1つです。生成AIの導入により24時間体制での即時対応や、多言語サポートの提供が可能となり、従来の人手に依存する対応から脱却し、よりスピーディーかつパーソナライズされたサービスが実現しています。
例えば、大手ECサイトでは、膨大な数の問い合わせに対して瞬時に適切な回答を提供することで、顧客満足度を大幅に向上させています。また、金融機関や通信業界でも、生成AIを活用したカスタマーサポートが普及しており、問い合わせの処理速度が飛躍的に向上すると同時に、オペレーターの負担も軽減されています。
しかし、現在のAIを搭載したカスタマーサポートサービスの多くは、事前に用意されたシナリオに基づいた定型文での応答が主流です。このような現在のツールでは、顧客の多様なニーズや複雑な要求に十分に応えられない可能性もありますが、顧客の質問に対して自由に回答を生成できる高度なシステムはまだ発展途上にあります。
そこで、より”人間らしい”カスタマーサポートの提供を目指して2023年に設立されたのがDecagonです。創業者のJesse Zhang氏によると、顧客と1対1で会話するだけではなく、カスタマーサポートのライフサイクル全体において自律的にサービスを提供することができるAIエージェントを”人間らしい”と表現しているようです。DecagonのAIエージェントは、これまでのような定型文での応答ではなく、AIを活用して回答を自由自在に生成することで、人間のオペレーターと同等、あるいはそれ以上に高品質かつハイスピードでの顧客対応をすることができるということで非常に注目を浴びています。
完全に余談ですが、Decagonは6月にシリーズAの資金調達を終えています。参画している投資家がなかなかにイカついメンツだったので、参考までに下記に記しておきます。
- Accel
- Andreesen Horowitz
- A* Capital
- Aaref Hilaly(Bain Capital Ventures パートナー)
- Aaron Levie(Box共同創業者兼CEO)
- Ed Hallen(Klaviyo共同創業者兼CPO)
- Elad Gil
- Frederic Kerrest(Okta共同創業者兼COO)
- Howie Liu(Airtable共同創業者兼CEO)
- Jack Altman(Lattice創業者兼CEO / サム・アルトマンの実兄)
- Matt MacInnis(Rippling COO)
- Mike Vernal(Sequoia Capital パートナー)
2. Decagonが取り組む課題
Decagonが取り組んでいる課題は2点で、①現状では顧客ごとに最適な対応ができていないこと、②カスタマーサポートと他のチームの連携がうまく取れていないことが挙げられます。
1点目に関しては、前述した通りチャットボットに代表されるような既存のカスタマーサポートシステムは、ディシジョンツリーに基づく定型応答が主流です。確かに、ディシジョンツリーはシンプルな質問ややり取りには効果的なのですが、顧客のニーズが多様化かつ複雑化する現代では対応しきれない場合が多く、顧客が本当に解決したい課題や求めていることに対して最適な対応ができているとは言いづらい状況です。
例えば、顧客が予想外の質問をしたり、問題が複数個絡んでいて複雑になっていたりすると、ディシジョンツリーでは適切な回答を提供するのが難しくなります。その結果、顧客は不完全な情報や不適切なサポートを受けることになり、フラストレーションが生じてしまうかもしれません。
顧客体験を改善し、プロダクトやサービス、ブランドそのものへ愛着を持ってもらうことがカスタマーサポートの本質的な役割だと考えますが、既存の手法では逆に顧客体験を損なってしまいかねないという問題があります。
2点目に関しては、社内でのナレッジシェアやコミュニケーションの断絶などが要因です。通常、ナレッジデータベースは、顧客からの問い合わせや問題解決の履歴を基に情報が蓄積されますが、その更新は手動で行われています。そのため、チャットボット含むカスタマーサポートチームが収集した情報や解決策がデータベースに反映されるまでに多少時間がかかり、最新の情報を共有することが難しくなります。
あるいは、チャットボットは自動で顧客の問い合わせに対応しますが、コミュニケーションの主体が人ではなくロボットにあるからこそ、コンテキストが欠如したデータや正確性に欠けるデータが共有されてしまい、結果的に営業チームやプロダクトチームが効果的に活用することができなくなってしまいます。
Decagonは、これらの課題を解決するために独自のモデルで構築されたAIエージェントを活用し、よりダイナミックで適応性のあるカスタマーサポートを提供しています。
3. 生成AIの活用方法
では、DecagonのAIエージェントと既存のチャットボットは何が異なるのでしょうか。それは、やはりどれだけ顧客ごとに柔軟なカスタマーサポートを提供できるかどうかという点になるでしょう。DecagonのAIエージェントも、会話形式でのサービス提供ではあるのですが、事前にプログラムされたルールベースのシステムではなく、会話の文脈を意識したよりインタラクティブなやり取りを自由に展開することができます。
それはなぜかというと、DecagonのAIエージェントは複数のモデルを組み合わせて構築されているからです。それもカスタマーサポートにファインチューニングされた独自のモデルやサードパーティーのモデルを含む、様々なLLMを組み合わせて構築されています。
さらに、着信リクエストの分類やメッセージの正確性の確認、顧客への最終応答の生成など各タスクに最適なモデルはどれなのかを定期的にテストしており、どのモデルを使用するかを都度選定しています。
これにより、均一の定型文を返すのではなく、顧客ごとにパーソナライズされた対応をすることができます。そして、最適な最終対応を生成する過程で顧客からのリクエストを正確に把握するため、例えば返金の処理や出荷の延期など、顧客に代わってAIエージェントが行動を起こすことができます。
また、DecagonのAIエージェントは顧客との過去の会話やフィードバックから学習するだけでなく、既存のツールやデータソースと統合することで既存システムとの断絶を解消します。
これまでに蓄積してきた社内ナレッジやデータベースを効果的に活用しながらも、新たな顧客との会話を通じてナレッジデータベースを最新のものに更新しながら、顧客対応をより最適なものにするために学習するというフィードバックループが働く仕組みが構築されています。
新しい生成AIアプリケーションなどのツールを導入する際、既存のワークフローやデータベースとシームレスに統合できること、そしてそれによって学習のフィードバックループができていることは極めて重要になります。
4. Vertical AIエージェントは生まれるのか
少し前に読んだニュースになりますが、特定業界に特化したAIモデルが新たな注目を浴びているようです。これまでの汎用的なAIモデルから一歩進み、いわば「Vertical AIモデル」として各業界固有のニーズに応えることができるようなAIモデルが、金融、製造、医療などの業界に進出しています。
中国では、阿里雲(アリクラウド)が開発したプログラミングに特化したAIモデルがすでに大規模な業務に導入されていたり、金融業界向けのAIモデル「天鏡」も導入した企業のマーケティングパフォーマンスを30%以上向上させたりといった実例も出始めています。
日本においても、デジタルガレージ社が飲食業界特化型の基盤を活用した独自の与信リスク評価のAIモデルを開発しています。そして、それを用いたオンラインレンディングの実証実験をりそなホールディングス社と進行しており、日本にも業界特化型のAIモデルの波はこれからやってきそうです。
では、本記事で取り上げたカスタマーサポートという観点では、このような業界特化型AIモデルの拡大がどのような革新をもたらすのでしょうか。
筆者個人の勝手な予測(というより期待)では、デジタルガレージ社のように業界特化型の基盤モデル上に構築された、業界特有のニーズに細かく対応できる特化型AIエージェントが盛り上がるのではないかと思っています。
小売業やECなど顧客との関係構築が重要な業界でこそカスタマーサポートが進化していく余地はありそうですが、一方複雑性や独自性がそこまで強いわけではないので、既存の汎用的なAIモデルでも十分対応可能そうです。ですが、医療や法律など高度な専門知識が求められる業界、あるいは金融や製造など複雑でカスタマイズされた対応が必要な業界では、今後VerticalにチューニングされたAIエージェントがカスタマーサポートを担う未来もあるのかもしれません。
執筆者:川野 孝誠
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