コロナ収束の時間軸はまだ不透明ではあるが、確実に社会が変容しつつある。このコロナショックを契機にこれからの社会のあり方や経済活動の前提を考え直さなければならない。
この「オンライン経済再評価」のシリーズではKVP投資先の中でいち早くアフターコロナ社会におけるスタンダードを見据えてサービス展開している各社の社長に自社及びオンラインでの経済活動が劇的に変化している最前線をインタビューしていく。
その第四弾として主に農薬・化学肥料を不使用の食品にこだわった食材宅配サービスココノミを展開している株式会社ココノミの石井さんにお話を聞いてみた。また、このシリーズの趣旨に沿ってzoomでのオンラインインタビューという手法を採用しています。
-まずは簡単なサービスの説明をお願いします。
ココノミは「人と食のつながりの最適化」をテーマに
個々の味覚にあわせた、主に農薬・化学肥料を不使用のオーガニック食材宅配サービスを展開しています。
-ココノミさんの野菜は個性があって美味しいですよね。食材宅配サービスが数ある中、ココノミを運営されている理由はなんですか?
ココノミでは主に新規就農者さんの提供している野菜を届けたいと思っています。新規就農者さんは「自分の子供に安心して食べさせる事が出来る野菜を作りたい」「地元だからこそ出来る美味しさを追求してみたい」など明確な動機でサラリーマンなどから就農される方が多く、だからこそ知識0の段階からでも熱意を持って改善を重ね、美味しい個性のある野菜を作られています。
ココノミを提供する上で全ての農家さんと顔合わせを行なっていた時に、サラリーマンなどから転職された新規就農者さんは楽しそうに働かれており、「人はやりたいことをやれている時にストレスが少ない」と感じるようになり、そんな新規就農者さんを応援したいと思って事業を立ち上げました。
ただ新規就農者さんは農業だけで生活を成り立たせるのが難しいレベルで売上が低いのが現状です。地域により大きく異なりますが、自分たちで食材を作っていることなど基本的に生活コストが低くて済む事を鑑みても、農業だけで食べて行くには売上400万円ほどは必要だと聞いています。
売上が全てではないですがもっと売上が上がることで豊かな生活ができると思うので、そこをサポートしたいと思っています。
-新規就農者さんをサポートしたいという思いから事業を立ち上げられたんですね。では他との差別化について教えてください。
差別化要素としてはパーソナライズ化に力を入れています。
コノミリクエストという機能があり、自分の好みを入力するだけで自分にあった食材が提案されます。
野菜などの食品は甘味・塩味・酸味・苦味、旨味の5基本味で構成されており、同じ野菜でも特徴が大きく異なります。自分の好みを入力していくと、人参は甘みのあるものやほうれん草は苦味のあるものが好きなど自分の好み度を把握することができます。
ユーザーさんは毎回の配送で好みの野菜を選択していくと、どんどん自分にあった野菜が自動で届くような仕組みになっています。
-それはすごい仕組みですね。なぜそれが実現できているのですか?
今はやっていないのですが、美食審査員の方を招待して食品のチェックを行なっていました。
地道ですが、1つ1つ食材をチェックすることで膨大なデータベースを構築することができ、現在のパーソナライズ化を実現することができました。
現在は詳細をお伝えすることは出来ませんが、別のテクノロジーを使い以前より効率的に食品のチェックを行なっており、さらに詳細なパーソナライズができるようになっています。
1件1件評価するのが難しかった野菜を評価できていることがココノミの強みだと思っています。
-成長率が厳しい時期がありましたが、現在の伸びを牽引していますが要因はどこだと思いますか?
ココノミを2017年10月に創業する以前に、大前提として一度大失敗した経験から会社を立ち上げています。
その経験から無農薬のオーガニック野菜がオンラインで当たり前に購入されると絶対に思っていました。じゃあその先にどんな要素が必要か?と考えた時にパーソナライズというものが必要だと思っていて、そこを仕込んでいたのでが現在の強みとなり、ユーザーさんに支持されていると思っています。
コロナの影響で当たり前になると思っていたオンラインでの購入の文化が浸透してきた。そこで無農薬のオーガニック野菜はどこが便利で購入できるのか?となった時にココノミが選ばれているんだと思います。
-そこは本当に大切だと思っていて、起業家の大切なことは少し先の未来を予測することで、そこを愚直に信じてやり切ることだと思います。
ではコロナの影響でなぜ加速したのか?を深掘って聞きたいのですが、いかがでしょうか?
理由は大きく2つあると思っています。
1つは飲食店が閉まったことによる自炊が爆発的に増加していることです。
コロナ前では食品小売全体は51.2兆円、生鮮品は12.5兆円だと言われていました。
これは肌感覚ですが、コロナの影響でこの市場がさらに伸びていると思います。そもそもの母体のマーケット自体が伸びていることが大きな要因だと感じています。
ただ、ここに関しては飲食店さんが営業を再開されると需要自体は戻ると思っており、一時的な需要の増加だと思っています。
2つ目は内食需要が高まり、人々がスーパーに殺到した結果、オフラインでの感染を避けてオンラインに流れたことが要因だと思っています。
コロナの性質上、飲食店でもスーパーでも感染リスクはどうしても存在してしまいます。
そこで極力リスクを排除する場合はオンラインでの購買となり、各社オンライン宅配サービスが伸びているんだと思います。
-現在はある程度、特需というお考えなんですね。ではそんな中、今後ユーザーに支持され続けるサービスはどんなサービスだと思いますか?
今後は半年、1年後のスパンで選別が始まっていくと思っています。
結局、新規の獲得というよりはロイヤルカスタマーをどう積み上げていくかが課題でそこが重要ポイントだと感じています。ココノミの解約率は1桁台の前半で、その理由はカスタマーサポートにあります。オンラインサービス特有の難しさは接客の難しさだと思っていて、お客さんとの関係をどう築くのか?でオフラインとオンラインの大きな違いは顧客との関係構築です。
現在、カスタマーサポートを自分がやっていて常に顧客インタビューを行いながら、サービスを運用しています。これはいろいろな意見があると思いますが、少なくとも事業責任者レベルはやるべきだと思っています。
単に意見を聞くだけだとリストをもらうだけで良いと思われがちですが、直接やりとりすることでユーザーさんのことを考える時間が必然的に増えることが重要です。
最前線の一次情報をTOPが取りに行くことが良いPDCAを回せていると思っています。
またココノミでは社員全員がサービスを利用しており、サービス運営の一員でもあると同時にユーザーでいることを大切にしています。
-やはりユーザーさんと常に真摯に向き合うことが重要なんですね。ココノミさんは解約率は1桁台の前半と使っているユーザーさんにかなり支持をされていると思いますがその理由はなんですか?
圧倒的な美味しさと顔の見える農家さんとの繋がりだと思っています。
食品提供者として美味しさは非常に重要な要素だと思っています。
これまで様々な理由で流通しなかった新規就農者さんの美味しい個性的な野菜を提供しているので、美味しさを感じてもらいやすい状況となっています。さらにパーソナライズ化しているので、より自分の美味しいと思う食品を提供できているのが理由だと思います。
また、新規就農者さんは顔の見える人が多く、生産者の顔や人となりが見えることで安心感を与えられていると思います。
日頃、ハードに仕事をされている医療従事者の方から連絡を頂き、「ココノミのお陰で食卓が豊かになって、家族との楽しい時間のキッカケとなり、活力を貰っている」と仰って頂いたんです。めちゃくちゃ嬉しかったです。
どういうことかというと「今日の野菜美味しいね」みたいなところから生産者さんのキャラクターが見えること・背景が見えることでさらに食卓に会話が生まれています。
私たちはユーザーさんの食卓を豊かにしたいという思いもあり、それに共感してくださっているのだと思います。
-なるほど。では次に視点を変えて、大手がネットスーパーに力を入れていますが、なかなかうまく行かない理由はなんですか?
これも大きな理由が2つあると思っています。
1つ目は財務的な観点で、食材宅配サービスは「最初は」利益率が高くないことです。初期の設備投資が必要だったり、特別に人員を割く必要があり、食材宅配サービスは利益率が高くない事業モデルなので、垂直立ち上げを期待することはできません。ロングテールで伸びる事業なのでそこを許容できず、短期での売上が出ない時点で諦めてしまっている会社さんが多いと思います。
2つ目は明確な差別化ができないことだと思っています。多くの会社さんは機能的な面でのみ勝負しています。宅配サービスと聞くと便利なイメージがあると思いますが、実際は不便なことも多いです。例えば、食材を宅配するので宅配ボックスが使えず、時間指定で受け取らないといけないことがあります。
マイナス面も大きくある中で、そこを含めてプラスに持っていくサービス設計が必要になってきます。
-確かに伸びているオンラインサービスは機能的な面ではなく、その先にあるUXをきちんと提供しているサービスが多い印象です。最後に石井さんの思いを聞かせてください。
事業を始めた原点として、新規就農者の方々が成果を出しやすい環境を作りたいと思っていて、同時に絶対にやるべきだと思います。というのが、今まで流通上の問題で知られていなかっただけで、日本では本当に美味しい個性的な野菜が多く存在しています。
サラリーマンの方が農業を行うことは起業だと思っていて、大きなリスクをとって挑戦されています。
起業するからこそ、差別化要素を考えて野菜を作っていたり、美味しい野菜を届けたいという強い思いがあります。
でもそれが流通の問題で現在、遮断されてしまっている。
そういうピュアな思いが流通の問題で遮断されてしまっているのなら、それを解決していくには当然の流れで必須であると思っています。
-インタビューを終えて
正直ココノミに投資をさせて頂いた2018年末から1年くらいはなかなか事業が伸びなくて、石井さんとしてもかなり厳しい時期がありました。ただ、その時期にも新規就農者やユーザーの味覚DBに基づくパーソナライズ化など愚直に取り組んでいて、その努力がようやく結実しつつあります。直近ではKVP投資先の中でも最も力強い成長を遂げている1社となっており、苦しい時期をしっているからこそ今の飛躍をとても嬉しく感じています。ただ、単純に巣ごもり消費の追い風で偶然に成長したわけではなく、急成長にはしっかりとした理由が存在していて、それはこれまでサービスクオリティに真摯に向き合ってきたことが大きかったです。
ココノミは派手なマーケティングや飛び道具で一気に成長するような会社ではないですが、事業を創っていくにあたって最も大事なことを真面目に取り組む地力のある会社であり、それよって着実に成長していける素晴らしいスタートアップだ。そんなことをインタビューを通じて久々に石井さんとゆっくり話して改めて思わされました。
KVPでは引き続き、オンライン経済圏の再評価に関して投資各社と議論を深めていこうと思っています。また投資に関しても以前と変わらず行なっていますので、投資を検討中の方はご連絡ください。