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【生成AI起業のヒント #8】AI× 医療文書 編

2024.7.27

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こんにちは!インターンの古市です!

「生成AI起業のヒント」では、ANOBAKAが注目している海外の生成AIスタートアップを取り上げて、生成AIの活用方法を分析・解説していきます。
生成AI領域で起業を考えられている方にとって事業のヒントとなれば幸いです。

第8弾となる今回は、医師の臨床文書作成プロセスを自動化するTORTUSというプロダクトを提供しているイギリスのスタートアップ・TORTUS AIを紹介します!

1. 会社概要

TORTUS | LinkedIn

・会社名:TORTUS AI
・本社所在地:イギリス、ロンドン
・最新調達ラウンド:Seed
・最新ラウンドでの調達額:330万ポンド
・主な株主:Khosla Ventures
・カテゴリー:医療、ヘルスケア
・公式ホームページ:https://tortus.ai/

TORTUS AI は、医師の臨床文書作成プロセスを自動化するプロダクトであるTORTUSを提供しているスタートアップです。

医師が抱えている問題として患者の治療以外の事務業務に負担を感じ、その結果、医師の燃え尽きや患者治療の質の低下を招いています。
その問題を解決するために、TORTUS は、医師が患者の診察を行う際に AI アシスタントとしてサポートをします。文書作成などの事務関連のワークフローを自動化することで、医師は書類作成に費やす時間を減らし、患者と過ごす時間を増やすことができます。これは、医師と患者の双方の健康にとって大きな恩恵となります。

TORTUS は、録音と書き起こし、要約、紹介状や診療指示の手紙の作成、ディクテーション、病気の分類化を行うことができます。

具体的には、臨床医と患者の会話を聞き、あらゆる電子医療記録 (EHR) システムとシームレスにやり取りすることで、カルテ前要約、診察メモ、検査依頼、疾患や診断の分類など、臨床医による最終承認のための臨床文書作成プロセスを自動化します。

この他にも新たに調達した資金により、検査の予約や処方箋の発注、今までの医療記録の要約などの機能の追加や自然言語インターフェースの改善を行い、臨床医にさらに多くの時間を取り戻すことを目指しています。

2.フォーカスしている課題

今日の医療システムでは、医師、看護師、病院スタッフは大きなプレッシャーにさらされています。NHS(英国の国民保健サービス) は継続的なスタッフ不足、労働力の課題、需要の増加に直面しており、プレッシャーが高まっています。 臨床医が報告する最も大きなプレッシャーの要因の1つは、管理業務の負担です。

あらゆる職種の医療従事者は、 臨床文書の追加や作成に週平均 13.5 時間を費やしています。これは平均的な臨床医の労働時間の3分の1以上となっています。

TORTUS の共同創設者兼 CEO である Dom Pimenta 博士は、16 年間の医師としてのキャリアの中で、同僚の燃え尽き症候群を数え切れないほど目撃し、臨床医の燃え尽き症候群に課題を感じていました。最近の調査によると、電子健康記録(EHR)の使用が臨床医の認知負荷の増加と燃え尽き症候群につながる可能性があります。

TORTUS は、この事務作業の負担が大きいという課題に注目し、負担の軽減により、臨床医が本来時間を使うべき業務に集中できるようにすることと医者の燃え尽き症候群の予防を目指しています。

3. AIの活用方法

TORTUS は、種々の機能で高度な音声テキスト変換 AI と大規模言語モデルを活用しています。AI を活用した疾患や診断分類の提案により電子医療記録 (EHR) システムの煩わしさを軽減することに加え、同僚や患者とのコミュニケーションにも AI を活用することで瞬時に明確かつ効果的なやり取りが可能になります。

4. 差別化ポイント

電子健康記録 (EHR) システムと 医療画像管理システム(PACS)などのコンピューター上のその他のプログラムを制御する機能を構築しているため、複雑なワークフローでも臨床AIソリューションを自動化して提供できます。

5. これまでの実績

TORTUS AI は世界的に有名なグレート・オーモンド・ストリート病院と共同で、臨床現場で同社の技術を評価する初のパイロット実験を行うことを発表しました。研究者らは、患者の体験と臨床作業負荷に対する同技術の影響に関するデータを収集し、分析します。

また、TORTUS AI はセキュリティやデータ保護の認証をいくつも取得しています。

TORTUS AI は、英国で初めて NHS DTAC(デジタル技術評価基準)コンプライアンス標準を達成した生成AI企業であり、EU のデータ保護とプライバシーに関する規則である GDPR に準拠し、英国政府が支援するサイバーセキュリティ認証スキームであるCyber​Essentials PLUS 認定を取得しています。加えて、ソフトウェアは情報セキュリティ分野の国際的な認証機関である CREST の認定ベンダーによって侵入テストも実施され、基準をクリアしています

6. 考察

日本でも管理業務の負担の大きさは課題になっており、生成AIを活用した医療業界の文書作成支援ツールはいくつか出ています。また、文書作成以外の用途への生成AIの活用についても議論が活発になっています。

電子カルテの作成支援や医師の退院時サマリー作成業務や看護師の退院時間後の要約作成業務、医療事務スタッフによる退院サマリー作成、主治医意見書・診療情報提供書作成補助業務などの文書作成支援に加えて、患者の問診にチャットボットや医師の姿をしたアバターが対応するような活用方法も出てきています。他にも画像診断などにAIを用いる動きも出ています。

医療分野の管理業務においては患者の医療情報を扱うことから前回ご紹介した金融業界のEilla AIと同じようにセキュリティやプライバシーの保護が重要になってくるため、広げていくには安全性を確保していることをアピールする必要があると考えます。TORTUS AI ではサイバーセキュリティやデータ保護の認証をいくつも取得することによってアピールを行っています。

認証の取得以外で TORTUS AI が行っているMoatを築く戦略としては、プラットフォーム化によるスイッチングコスト上昇とハードウェアを含む垂直統合戦略が挙げられます。

管理業務に関わる様々な機能を一括にプラットフォーム上で提供しています。それにより、TORTUS のサービスがいくつもの業務に関わり、スイッチングコストが大きくなっています。管理業務の一部ではなく、幅広く管理業務を捉えて広く業務に関わるAIツールを作ることで競争優位性の確保につなげています。

TORTUS AI はサービスを 1 年間利用したユーザーには、200 メートルの範囲でクリアな音声をキャプチャできる、大規模な臨床環境に最適な最先端のマイクを提供しています。これにより、ハードウェアにもTORTUS AI が関わることで他社の参入障壁を高めることができると考えます。このマイクというハードウェアを皮切りに他のハードウェアにも拡大するのではないかと予想します。

医療に限らず、AI とハードウェアの融合による参入障壁の高め方は参考になると思います。

執筆者:インターン 古市健太郎


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