こんにちは! スペイン とは縁もゆかりもないたかはしゆうじ( @jyouj__ )です。
海外渡航が自由になったら地中海にのんびり旅行行きたいものですね。20歳超えたらワインでも飲みながら。
さてさて、そんな地中海に位置するスペインでなにやらスタートアップシーンが盛り上がっている模様!スペインにとって、二度目の大航海時代の幕開けとなるのでしょうか?リサーチレポートを書いてみました。
目次
1. 太陽の沈まぬ帝国
2. ラテン文化というアドバンテージ
3.エコシステムの成長
太陽の沈まぬ帝国
実はスペインは歴史的にも「起業家」への支援を行っている国でした。
遡ること中世末期、レコンキスタによりイベリア半島を統一したスペインは国外に目を向けました。大航海時代の始まりです。
アジアの富や香辛料の獲得、貿易の利益を求めて多くの冒険家が海に出ていきました。しかし、航海には多くの時間とお金、物資が必要となります。さらには命を落とすかもしれないリスクがありました。ただし、航海に成功すると莫大なリターンが入ってきます。富と名声、そして世界を再定義するかのような発見。冒険家はさながら現在の起業家のようなものだったのです。
そんな彼らを経済的に支援したのがスペインという国だったのです。女王イサベルによるコロンブス支援などが有名です。彼らの情熱と胆力を信じ、成功により入ってくるであろうリターンに目をつけて戦略的に投資したのです。もちろん彼らの中には失敗し、命を落とす者もいました。しかし、成功した航海者が持ち帰る富でそれは損失以上の利益を生み出すのです。
当時の常識を疑って行動するアウトサイダーに投資するスペイン王家は今でいうところのVCのような存在だったのでしょう。
中世末期から近世にかけてのスペインの「起業家」たちが新たな土地、富、文化、技術、知識を持ち帰り、新たな時代を作り上げていました。そのスポンサーであったスペインは時代の中心として繁栄を謳歌し、“太陽の沈まぬ帝国”として君臨しました。
“太陽の沈まぬ帝国”とはポルトガル併合後の覇権国家スペインのことを指し、フェリペ2世の治世期に最盛期を迎えます。たとえある領土で太陽が沈んでも、また別の領土では太陽が出ているほど世界全体に植民地を持っていたことを表現しています。
とりわけ当時のスペインの影響力は凄まじく、ピサロたちによる中南米の征服によってそのエリアをラテン語文化圏に組み込みました。今でもメキシコやアルゼンチンなど中南米の国家はスペイン語を公用語として話しています。
その後、イングランドやフランスの台頭により、スペインは衰退することとなります。そう、太陽は沈んでしまったのです。しかし、今またスペインはのぼろうとしています。
そして、鍵となってくるのは現代の冒険家である起業家です。
ラテン文化というアドバンテージ
スペインという国は国外のスタートアップから注目を浴びている国なんです。実は大きなアドバンテージを抱えています。見ていきましょう。
ラテンアメリカとの関係
スペインはブラジルを除く多くのラテンアメリカ諸国の旧宗主国です。大航海時代以来、スペイン系の人々の侵略や植民によってこれらの地域はラテン文化圏となりました。言語もスペイン語を話し、差異はあれど国民性も似通った部分があります。
ここで重要となるのが、ラテンアメリカ諸国の経済成長が著しいということです。治安や政治状況、ジニ係数などの懸念すべきことはありますが、市場は急速に大きくなっており、国民所得も上昇しています。世界中の企業がこの市場を狙っています。
特にEU諸国は地理的な要因からアフリカと並んで、ラテンアメリカを重要な経済市場に位置付けています。多くのヨーロッパ系のスタートアップが持続的成長のため、この市場に参入しています。
フィンテックスタートアップはその一例です。ラテンアメリカでは人口の70%が既存金融機関の口座を持っていないとされています。数値にすると約4.5億人にものぼります。大きなマーケットとなっているのです。
ラテンアメリカではもちろん地元のフィンテックスタートアップの影響力が強いですが、いかんせん市場のパイが大きいのでヨーロッパ系フィンテックスタートアップもある程度成功を修めています。TinkやAdyenはラテンアメリカ事業が成長に大きく寄与しています。
そして、スペインはそんなラテンアメリカ市場と言語と文化の面でおおまか同じです。ラテンアメリカ市場でのPMFを狙うヨーロッパ系スタートアップはまずスペイン市場でテストすることになるでしょう。ラテンアメリカへのゲートウェイとして重要な立ち位置にあるのです。
また、これはスペインの起業家にとっても大きなチャンスです。スペインとラテンアメリカが似通っているならば、国内市場での成功はラテンアメリカでの成功につながる可能性が高いからです。
マドリードとバルセロナ
スペインに対するスタートアップ投資額はイギリスやフランス、ドイツなどEU主要国には及びませんが、主要なヨーロッパのスタートアップハブランキングでは2都市が上位にランクインしています。
マドリードとバルセロナです。多くの多国籍企業が存在しており、政治あるいは金融の中心となっているこの2つの都市はスタートアップにとっても好まれる都市となっています。ラテン文化、海沿いの土地、多くの技術者の存在、後述する政府の政策などが理由となっています。それに、優雅な地中海生活に憧れている起業家たちも集まっているのかもしれませんね。ワインと葡萄の世界です。
また、上記のヨーロッパからラテンアメリカとは逆の矢印が発生しています。ヨーロッパ市場に目を向けるラテンアメリカのスタートアップがEU事業の本社をスペインに設立しているのです。
これは文化的同一性とは他に政府の方針が大きく影響しています。詳しくは後述の「エコシステムの成長」で述べますが、ここでもざっくりと取り上げます。スペイン政府は2016年に海外のスタートアップを誘致する”Rising Startup Spain”を立ち上げました。
プログラムでは、海外の起業家へビザの発行、助成金、マドリードおよびバルセロナでの無料ワークスペース使用を提供しています。多くのラテンアメリカスタートアップが採択されています。
結果的に、マドリードやバルセロナはラテンアメリカとヨーロッパを結ぶ重要なハブとなりました。ブラジルの”Creditas”やアルゼンチンの”VU Security”などがスペインをヨーロッパ本社に選択しています。
エコシステムの成長
ラテンアメリカや他のヨーロッパ諸国からスペインに起業家とスタートアップが入ってくることはエコシステムの発展およびスペイン人起業家への大きな刺激に繋がっています。
未成熟だったスペインのスタートアップ
地理的・歴史的な優位性から注目を集めているスペインですが、少し前まではスタートアップ不毛の土地でした。これにはいくつかの理由があります。
- 国内VCの慢性的な資金不足
- 国内市場が十分大きいため、ある程度で満足してしまう
- 代表的なスタートアップが存在しない
1はスペイン国内のVCが資金をあまり持っていないため、大きな資金調達が行えず、スタートアップが十分に加速できないという問題です。また、これはアーリーステージに資金を獲得できても、レイターステージではスペイン内では機会が少ないことを意味します。
2に関しては、スペイン国内である程度会社を大きく育てることができるため、そこで欲求が終わり、うまくいったら少額イグジットをするという打算的なスタートアップが多いということです。グローバルな展開には興味がなく、悠々自適にビーチでワインを飲みたい起業家が多かったのです。
3については、ロールモデルとなるスタートアップが存在しなかったということです。アメリカでいうGAFA、中国でいうアリババ・テンセント、日本でいうDeNAやメルカリのような存在です。2に関連するのですが、海外の成功したビジネスをコピーしてスペイン国内で興し、国外に出ず利益を出すというコピーキャット戦略が人気でした。
しかし、今では全てがガラリと変わりました。
無敵艦隊となったエコシステム
スペインにはラテンアメリカとの密接な繋がり以外にも長所があります。
最も大きな利点の一つは教育水準が高い割に人件費が安いことです。スペインは他のヨーロッパ主要国と比べると水準は低いですが、技術者は豊富にいます。デジタル人材の数はヨーロッパで6番目です。バルセロナには72,500人以上のプログラマーがいて、その数はヨーロッパの都市では第二位です。
パリやベルリンなどの他のスタートアップ拠点に比べると、人件費がかなり安価です。そのため、スタートアップにとって開発コストの面で大きく貢献しています。また、失業率も一定程度あるので、スタートアップにも雇用機会が訪れています。
そして、前項で欠点として指摘されていたポイントも大幅に改善されています。スペインの国内VCは積極的にファンドレイズを行い、Seaya Venturesなどはラテンアメリカに投資するほど規模を拡大しています。さらにはシリコンバレーやドイツのVCもスペインのスタートアップエコシステムに参入し、レイターステージの調達で大きな役割を演じています。
また、ラテンアメリカやEUの企業やスタートアップがスペインに多く参入してくることで、スペインの起業家も国内だけではなく国外の市場に目を向けるようになりました。
その流れでスペインを代表するユニコーン企業がいくつも出てきています。国内市場を飛び越えて、積極的に海外市場を狙っていくロールモデルとなっていくのでしょうか。ユニコーンを一つ見ていきましょう。
配車サービス「Cabify」です。Uberはスペインで規制当局やタクシー業界の反発で事業を頓挫させましたが、Cabifyは審査を通過したプロの運転手を採用することで規制の枠組みの中で事業を続けることができました。
CabifyはUberとは違い、天候に左右されない固定料金性や最適ルート料金を導入しており、単なるUberコピーキャットサービスとは一線を画しています。また、日本の楽天グループが大きく投資を行っています。
サービスはラテンアメリカでの使用が大多数を占めており、ペルーやチリなどの都市によっては物流や自転車サービスも行っています。スペインからラテンアメリカへ進出するスタートアップのロールモデルとなるでしょう。
2020年はコロナの影響や大きな調達ラウンドがなかったため、前年に比べてスペインのスタートアップへの投資額が56%減少し、5.25億ユーロになってしまいました。しかし、それでスペインのスタートアップ環境が冷え込んではいません。むしろ、政府を中心に積極的にエコシステムは発展しています。
政府の支援
スペイン政府は大航海時代のイサベル女王を彷彿とさせるほど、スタートアップの支援に乗り出しています。果たして、香辛料を探し当てることができるのでしょうか。
すでに述べましたが、Rising Startup Spainプログラムにより多くの外国人起業家を誘致しました。ビザ、無料のコワーキングスペース、助成金の給付など特典が山盛りです。
国内のスタートアップに関しては低金利の長期融資を無担保で行う国家イノベーション公社(ENISA)が以前から存在していました。Cabifyと並んで、スペインを代表するスタートアップである配達代行プラットフォーム「Glovo」もこれを利用しています。
そして、スペインは2020年12月にスタートアップ法の導入について発表しました。スタートアップ法はスタートアップに関して税の軽減や国外からの投資に奨励金を出すといったものです。スペインのスタートアップエコシステムに残っている問題点をスペイン政府が率先して解決していこうとしています。国家の命運をかけてスタートしている肝いりの法案です。
スペイン政府はスタートアップの活性化を国家戦略と置き、それらを推進するポストも設置しました。国にとっても、多くの雇用を生み出し、GDPを大きく上げることができればかなり美味しい結果となります。今後法案だけでなく多額の経済的支援も予想されています。
具体的には2030年にこの戦略の成功を目標としているようです。タイムラインに沿って、アクションが実行されていくことでしょう。今後のスペインが楽しみです。
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参考
- 急成長でユニコーン企業が初めて誕生(スペイン)
- The Spanish Start-Up Ecosystem — an Investor’s Perspective
- スタートアップを経済の推進役に据えるスペインの10年計画
- 20 European fintechs taking on LatAm
- The 10 biggest funding rounds in Spain 2020
- How Spain Attracts Latin American Startups Looking For Growth
- Madrid or Barcelona: which startup ecosystem would you choose?