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SaaSブレークスルーストーリー

2021.6.14

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現在日本でもSaaS勃興期ではありますが、SaaSは立ち上がりに時間がかかることがよくあります。一つの基準になるARR1億円までの道のりはスムーズにいく場合もあれば、タフに検証を重ねて多くの時間を要する場合もあります。外部要因の追い風、本質的なニーズの発見、顕在化、大型顧客の獲得、GotoMarketの戦略などブレークスルーを果たし急成長を実現した海外事例を紹介しながら考えていこうと思います。

バーティカルSaaSの雄 建設SaaS「Procore」

Procore Construction Management Software The all-in-one construction management software built to help www.procore.com

Procoreは2020年に上場し、現在100億ドル以上の時価総額の建設領域におけるバーティカルSaaSを提供するスタートアップです。CEOのTooeyが家を建てる際の非効率さを目の当たりにし、2002年に起業しました。当時、建設業界は技術的な暗黒時代にありました。建築家、建設業者、請負業者、下請業者、およびサプライヤー間のコミュニケーションは、紙の計画書、付箋、電話、ファックス、トランシーバーに依存しており、すべてのプレーヤーがコラボレーションできれば、圧倒的に効率が良くなると確信し、業界初のクラウドネイティブ建設プラットフォームを構築しました。しかし、ITが現場に到達するには早すぎたため、上手くいきませんでした。建設領域はリーマンショックの影響も受け、友人、親戚、仕事仲間は彼に諦めるように説得しようとしたといいます。しかしTooeyは諦めず、アーリーアダプターを見つけ、地道に検証を行っておりました。そしてモバイル時代の到来とともに、建設はついにスマートフォンやタブレットを介して現場でインターネットに接続できるようになり、これがブレークスルーとなりました。複雑なコラボレーションを可能とし、顧客に受け入れられ、Procoreのビジネスは軌道に乗りました。その後2014年の本格的な資金調達を実施、米国のゼネコンをはじめ、世界中のさまざまな利害関係者にサービスを提供する13以上製品を持つ業界全体のプラットフォームに進化しました。

RPAのマーケットリーダー 「UiPath」

Automation Platform – Leading RPA Company | UiPath Reinvent your workplace with the leading robotic process auto www.uipath.com

RPA領域で急成長をしているUiPathは2021年に上場しました。現在363億ドル以上の時価総額で売上も急成長しています。そんなUiPathの創業は2005年で、ルーマニアで誕生しました。初期はDeskOverという社名でソフトウェアアウトソーシング企業に端を発しています。DeskOverは自動化ライブラリとソフトウェア開発キットを構築し、 IBM、Google、Microsoftなど、自社製品に組み込んだ企業向けに展開していました。最初は受託をしながらソリューションを作っており、スタートアップらしいスケールを目指していませんでした。しかし、チームがRPAに適合した市場に気づき、ソフトウェアロボットのトレーニングとオーケストレーションのためのプラットフォームの構築にリソースを投入し始めたのは2012年です。しかし受託からの脱却と、顧客の反応を得ながらスピーディーな開発ができなかったことをUiPathのCEOであるDanielDineは反省しています。そして顧客にニーズがどれほどあるかわからない中で撤退まで考えていた矢先に、大規模なBPO企業のインド支部がRPAテクノロジーの最適なプロバイダーを見つけるためのプロジェクトを実施し、当時まだDeskOverと名付けられていたUiPathがコンペに勝ち採択されました。彼らはインドで没頭し、この経験から「一日中繰り返しプロセスを行うだけの人々の巨大な市場が存在することを理解しました。人が行うことをエミュレートする当社のテクノロジーは完璧です。その瞬間から、物事は私たちにとって劇的に変化し、私たちは成長し始めました」とDinesは説明します。この大型プロジェクトの取り組みが本質的な課題を発見し、ソリューションの方向性を決定付けブレークスルーのきっかけになったのです。そしてRPA市場を対象としたのUiPathDesktopAutomation製品を発売し急成長していきます。2015年には10人だったチームは100人以上に成長しています。

オンラインスケジューリング管理SaaS「Calendly」

Free Online Appointment Scheduling Software – Calendly – Calendly.com Calendly is the modern scheduling platform that makes “findin calendly.com

Calendlyは2021年に入り、評価額約3165億円で約369億円でシリーズBを完了しました。ユーザーの空き時間を確認した上でそのユーザーとの会議を予約でき、その予定をGoogleやMicrosoft Outlookのカレンダーと連携させることも可能で、非常にシンプルで使いやすいサービスです。今年に入って大型調達も驚きましたが、それまで約5800万円しか調達してこなかったというのがとても驚きました。Calendlyは2013年にナイジェリア出身のTope Awotonaがアトランタで設立しました。彼は顧客もすでについてきていたため、VCからの資金調達に動きましたが、黒人創設者に共通の問題に遭遇し、VCからの資金調達は難しかったのです。Awotonaはお金を集めることが嫌いになり、お金を使わずサービスを伸ばすことに集中したのです。そのことが独自のサービスの方向性を決め、独自のスケールをするきっかけになったのです。スケジューリングサービスは当初他にもありましたが、基本企業向けのものでした。彼らは初期決済サービスを使うお金もなかったため、基本無料でサービスを提供し、さらに差別化として一般ユーザー向けに展開。さらにスケジュールを友人と共有することにフォーカスし、ユーザー間でのバイラルを実現し、ユーザー数を伸ばしていったのです。現在ではPLGとして有名な方法ですが、当初はまだあまり参考もなく、dropboxを参考にしていたそうです。お金をかけないグロースに徹底的に追及し、LinkedinやZendeskなどのユーザーに利用が広がり、早期に事業も黒字化し、成長していったのです。

最後に

モバイルの成長に合わせ急成長を実現したProcore、大型案件の受注によりRPAの本質的なニーズを理解したUiPath、そしてVCからの資金調達が難しいことからお金をかけないで成長を模索したCalendry。どの企業も長い時間をかけ、プロダクトのアップデートを高速で重ねながら諦めずに顧客の課題に向き合ってきたという事実がそこにはありました。おそらく多くのスタートアップがその期間で撤退したでしょう。

我々ANOBAKAも多くのSaaSスタートアップに投資をしています。我々はプロダクトがない段階、プロダクトができたタイミングなどにも多く投資をするので、初期の成長の過程をご一緒するケースがほとんどです。実際領域やプロダクトの難易度により、順調にARR1億円を突破する企業や時間をかけ検証しているスタートアップなど様々ですが、一つの基準となるARR1億円まで顧客の幅広い課題の中でもバーニングニーズになる部分を見つけながら、アーリーアダプターへの導入を地道に続ける必要があります。そしてスタートアップは少ないキャッシュをコントロールしながらそれを実現しなければいけません。更には顧客の課題を見つめ、ブレークスルーする道筋に常に目を光らせる必要があります。我々もシードVCとして共にまずはARR1億円までできる限りスムーズに進められるようファイナンスの支援はもちろん幅広い支援を進めていきたいと思います。初期からスタートアップの挑戦する領域の難易度を考慮し、資本政策、事業計画含めディスカッションしたいと思います。そして事業がブレークスルーするきっかけを共に掴めればと思います。

参考記事

https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1611052/000119312520057081/d564161ds1.htm

https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1734722/000119312521094920/d98556ds1.htm

https://fortune.com/2020/11/19/calendly-founder-tope-awotona-startup-unicorn/

https://www.inc.com/magazine/201908/cameron-albert-deitch/tope-awotona-calendly-online-scheduling-venture-capital-nigeria-immigrant.html

https://business-review.eu/news/the-story-of-uipath-how-it-became-romanias-first-unicorn-164248

https://www.bvp.com/atlas/procore-ipo

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