こんにちは、インターンの川野です!
「生成AI起業のヒント」では、ANOBAKAが注目している海外の生成AIスタートアップを取り上げて、生成AIの活用方法を分析・解説していきます。
生成AI領域で起業を考えられている方にとって事業のヒントとなれば幸いです。
第9弾となる今回は、工業デザイナー向けクリエイティブツールを開発するスタートアップ・Vizcomを取り上げます。
1. 会社概要
・会社名:Vizcom
・設立:2021年
・本社所在地:アメリカ・カリフォルニア州
・最新調達ラウンド:Series A
・最新ラウンドでの調達額:2,550万ドル
・主な株主:Index Ventures, Daniel Sturman(Roblox元CTO)など
・カテゴリー:デザイン
・公式ホームページ:https://www.vizcom.ai/
Vizcomは、工業デザイナー向けにAIを搭載したデザインツールを提供しているスタートアップで、2021年に元Nvidiaの工業デザイナーであるJordan Taylor氏によって設立されました。
VizcomのAIツールでは、わずか数秒で手描きのラフなスケッチを高品質でフォトリアリスティックな3Dデザインへと簡単にレンダリングすることができる点が大きな特徴です。
さらに、色や材質、部品ごとのバリュエーションなどに合わせていくつかのパターンを生成し、その中から一番自分のフィーリングに合うものを選択することができたり、生成したデザインに対する細かな修正も描画ツールで修正したい箇所を囲い、テキストでプロンプトを入力することで自動的に修正したりすることができます。生成AIの強みを活かした創造性の発揮や、痒いところに手が届くような機能もVizcomの大きな特徴になっています。
もちろん、「リアルタイムレンダリング」や「3Dペイント」、「描画ツール」などクリエイティブデザインに必要な機能は一通り揃えているほか、作成したデザインを高解像度(4K)でエクスポートすることができたり、ワークスペース機能でデザインを共有し、チームで編集することもできたりします。操作自体も特別だったり複雑だったりするわけでもないので、一般的なクリエイティブツールの使用経験さえあれば、個人・チーム問わずすぐに利用を開始することができます。
2. 解決している課題
Vizcomの創業者であるTaylor氏は、元々ホンダやNvidiaの工業デザイナーとして勤めていました。工業デザイナー向けツールとしては、AdobeやAutoDeskなどの大手企業が開発したツールを使用するのが一般的で、TaylorたちもPhotoshop等を使用してデザインを作成していました。
しかし、何か修正を加えるたびに手作業で図面に対して色を塗らなければいけないことに対して不便さを感じており、テクノロジーを使って何とか業務の効率化を図りたいと考えていました。
また、ChatGPTやMidjourneyといったAIアプリケーションの普及により、クリエイティブデザインが民主化した一方で、プロシューマー向けのAIデザインツールがないことにもTaylorは目をつけました。
通常、プロのデザイナーはAIを用いてゼロベースでいきなりデザインを生成することを好みません。何度も反復して編集を行い、徐々にデザインを仕上げていくようなプロセスを好みます。例えば、車のデザインを行なっているとすると、車の枠組みのスケッチから始まり、ライトやドア、ガラスなどの部品を一つずつ付け足していき、最後にドアの形や内装の色などの細部を仕上げて完成を目指します。デザイン箇所によっては、質感を加えたり、陰影を付けたり、光の屈折度合いを調整したりする必要もあります。
本職のデザイナーたちは、こうした反復プロセスを加速させるツール、そしてテキストだけでなく手描きスケッチや編集によって自由に細部を修正することができるツールを望んでいました。
Viscom創業者のTaylor氏も、自身がデザイナーバックグラウンドの人間だからこそ、既存のツールで不十分な点や本職のデザイナーたちが望んでいることに対して解像度高く向き合うことができたのだと思いますので、Viscomは綺麗にFMF(Founder Market Fit)している事例であると言えます。
3. 生成AIの活用方法
上述した通り、Vizcomでは色や材質、部品に応じて複数のデザインパターンを生成することができます。人間が行うと創造性や発想力が必要になる作業で、最もデザイナーの個性が発揮されるところだと思いますが、Viscomではここを生成AIに一部担わせることで、デザイナーがさらにクリエイティブに働くことができるようなサポートをしています。
また、工業デザイナーたちの創造性をさらに刺激しているのがVizcomの「Technicolor 6」という技術です。これはVizcomの新しいレンダリングエンジンで、色の再現と光の効果を高度にシミュレーションすることで、よりリアルかつより魅力的なデザインを生成します。そして、このレンダリングエンジンを生成AIと組み合わせることで、デザイナーは色の選択や組み合わせの提案を自動的に受け取ることが可能になります。
4. 業績
既に、Fordや三菱、メルセデス・ベンツ、ニューバランス、コカ・コーラ、DELLなど名だたる大手企業が顧客として利用しています。驚くべきことは、Vizcomは特にプロモーションは行なっておらず、わずか数百万ドルの資金だけでこうした企業の獲得に成功しているところです。
また、2024年3月にはIndex Venturesをリード投資家としてSeries Aの資金調達ラウンドを完了しており、現在の売上高は数百万ドル規模だと言われています。
5. 考察
生成AIアプリケーションの成功パターンは2つあると言われています。
1つ目は、ある領域に対する全くの素人でも簡単に”創造的な”業務を行うことができること。Stabel DifusionやMidjourneyのような画像生成AIが代表的ですが、誰でも0→1を簡単に行うことができるようなツールが成功しやすいとされています。
2つ目は、今回紹介したVizcomのようにエキスパート職の業務を大幅に効率化できること。といっても、専門性の高い業務ではなく、特に業務遂行においては専門性を必要としない単調な反復業務などを自動化し、無駄な時間を削減することができる支援ツールも成功しやすいとされています。
これまでの記事でも、Eilla AIやqbiqなどプロフェッショナル向けの業務効率化生成AIアプリケーションを何社か紹介してきましたが、海外でもグロースフェーズに入っているようなサービスはまだ少なく、どちらかというと「初心者でも簡単にクリエイティブな業務を行うことができる」サービスの方が社会実装のスピードは速いように感じます。
しかし、Vizcomが生まれた経緯からも学べるように、汎用性の高いAIアプリケーションはプロフェッショナルにとっては不十分な機能、設計であることがほとんどです。やはり、対象とする業界の特性や業務の特性をきちんと理解し、プロフェッショナルたちに使ってもらえるように最適化する必要があります。
Vizcom創業者であるTaylorがそうであったように、対象とする業務や業界について一定程度の経験があると、かなり有利に働くのではないでしょうか。
これまでの事例では、学習データの独自性やモデルの精度などが重要なポイントになると考察してきましたが、今回の事例を通じて、プロフェッショナル向けのAIツールではファウンダー自身のバックグラウンドも重要な要素になるという考察をして記事を締めたいと思います。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
執筆者:川野 孝誠
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