こんにちは!インターンの古市です!
「生成AI起業のヒント」では、ANOBAKAが注目している海外の生成AIスタートアップを取り上げて、生成AIの活用方法を分析・解説していきます。
生成AI領域で起業を考えられている方にとって事業のヒントとなれば幸いです。
第21弾となる今回は、生成AIを用いて個人の支出・貯金管理を最適化するアプリを提供するイギリスのスタートアップ・Cleoを紹介します!
1. Cleoとは
・会社名:Cleo ・設立:2016年 ・本社所在地:イギリス、ロンドン ・最新調達ラウンド:シリーズC ・最新ラウンドでの調達額:6580万ポンド ・主な株主:Sofina ・カテゴリー:フィンテック ・公式ホームページ:https://web.meetcleo.com/
Cleoは個人の支出・貯金管理を生成AIチャットを通して最適化するアプリを提供するスタートアップです。今までにもAIを利用した支出・貯金管理のサービスは多くあったものの、結局最終的には「エージェントにお繋ぎしますか?」となってしまっており体験として悪くなってしまっていたため、そこを改善しようとしたのがCleoの始まりだそうです。
Cleoの無料プランでは、予算を立て、貯蓄し、支出を追跡し、AIとのチャットを通して支出・貯金管理を行うことができます。それに加えてCleoの有料プランに入ることで、クレジットカードの作成やローンを組む際に返済能力を示す時などに参考にされる信用スコアを確認することや、個人に最適化された貯蓄目標、現金前払いのリクエストというようなオプション機能を利用することができます。
2.Cleoの具体的機能
Cleoは無料版と有料版のアプリケーションを提供しています。使い方は非常に簡単で、ユーザーはアプリをダウンロードして、銀行口座やクレジットカード情報を連携するのみで開始することができます。Cleoに残高や支出情報が表示され、収入や必要固定費等を共有すれば、Cleoが貯金目標設定を行うことができ、必要に応じて様々なアドバイスをしてくれます。
また、基本的な機能は無料プランと同じですが、有料プランでは「前払い機能」が使用可能になります。
日本では、ほとんどの企業が月給制を採用しており、月末にならないと給料を受けることができませんが、海外では前払い制度が普及しており、申請当日や翌日に一定額の金額を前払いで受け取ることができます。
従来、前払いサービスを提供する会社では、経理などに申請するなど複雑な手続きが必要であり、非常に手間がかかっていましたが、Cleoにチャットでお願いするだけで簡単に受け取ることが可能になります。
他にもCleoには、家賃、クレジットカードの手数料や金利、自動車保険料の交渉に役立つメッセージを作成するのに役立つ「Haggle It」機能もあります。Cleoが実施した調査では、クレジットカードの手数料や金利を交渉した顧客のうち、約 20% が料金や手数料の引き下げを受けたことが判明しました。
2.戦略の違い
Cleoは2023年10月の時点ですでに米国で700万人の顧客を獲得しています。これはイギリスの三大モバイル銀行の一つであるMonzo Bankの英国顧客基盤全体にほぼ匹敵するほどであります。また、企業価値は約5億ドル(約780億円)となっており、次の資金調達を行えばユニコーン(時価総額1000億円以上)になる見込みとなっており、スタートアップとしてかなり成功していると言えます。
Cleoが米国で成功している要因には、競合との戦略の違いが挙げられます。
競合との戦略で異なるのは銀行になろうとしていないということです。米国においてはN26、Monzo、Revolutのようなフィンテック企業が奮闘してきましたが、それらはいずれも銀行であったり、新しい銀行になろうとしているために規制が厳しかったり、銀行ライセンスの申請が必要になっていました。その中でCleoは既存銀行との提携を行うのみで、銀行ではなくソフトウェア会社として動けたため、取れる動きの面でも資金面でも競争力を確保できたようです。現在もCleoは、本格的な銀行になるためのコストをかけずに、サブスクリプションを通じて十分に収益を上げられている点が強みになっています。
また、銀行に関わる戦略の違いに加えて顧客層を限定する戦略も成功の要因になっています。
Cleoの製品と広告は、18~36歳の若者をターゲットにしています。この年齢層はお金を上手に使いたいが方法が分からないという課題を抱えている人が多いことに加えて、テクノロジーに精通しており利益につながるということがわかれば自分の口座情報の提供も進んで行なってくれるようです。
加えて、ターゲットを若年層に限定することで顧客体験を尖らせることができてもいます。CleoのAIチャットは、顧客の支出習慣を徹底的に調べて会話を始め、その後アドバイスに移ります。そして、皮肉やいじりを言ってきたり支出について叱ってくれるようなモードやユーザーを褒めてくれるようなモードを選択することができ、ユーザーごとのニーズに応えることができます。AIが皮肉やいじりを言ってきたり叱ってくるような体験が若年層のユーザーに好評を受けているようです。
3.「遊び心」重視のプロダクトの体験
Cleoは他の支出・貯金管理系サービスよりもさらに「遊び心」を重視したUI/UXを導入しているようです。
Cleoでは、AIと機械学習を最大限に利用し、まるで友達とのチャットのように資産の管理を手伝ってくれます。同時に、チャット量や口座資金の使用記録が増えるほど機械学習により個人に最適化してくれます。上の画像のように、Cleo側の冗談に「F*ck」と返信しても、文脈に合わせて返事をしてくれるようです。
このように「遊び心」を重視することでユーザー間で話題になりやすく、新規顧客の60%が口コミから登録しているようです。
4. 結論
今回は、支出・貯金管理を生成AIチャットを通して最適化するアプリを提供するCleoというスタートアップを紹介しました。前払いのようなローカライズした機能を入れたり、ターゲットに合わせたAIチャットの調整で差別化できているようです。
また、成功の要因として挙げた銀行戦略やターゲット限定に加えてCleoはマーケティングも巧みです。例えば、TikTokアプリ経由でスタッフを雇ったり、自社のサービスを利用する若者の関心を引くためにコメディー作家を雇ったり(Z世代向けにウィットに富んだ皮肉たっぷりのコピーを書くなど)、さらにはコーヒーショップを占拠して資産運用のロードショーを開催したりしています。
そして、考慮すべきなのはCleoのサービスはオープンバンキングの動きの上に構築されているという点です。オープンバンキングとは、銀行の顧客データなどをAPI経由で利用できるようにし、第三者の企業が銀行機能やフィンテックサービスを拡張的に提供できる試みを指します。その動きによって現在、米国の銀行口座のほぼ3分の2は少なくとも1つのフィンテックとつながっているようです。このような状況があるからこそCleoのようなサービスはスムーズに展開できたと考えられます。
アメリカには欧州や日本と異なり、オープンAPIを規定する法律がないですが、世界のなかでもオープンバンキングの活用がかなり進んでいると言われています。先述した銀行口座のフィンテックとの連携状況に加えて、複数の大手銀行が「月間1億件以上のAPIを活用したトランザクションが行われている」と公表しています。
日本においても2018年の改正銀行法の施行により銀行には2020年5月までに、オープンバンキングに必要なオープンAPIの体制整備が求められたことでオープンバンキングの動きが始まっています。しかし、アメリカに比べるとまだまだ広がりきっていないため、ここからアメリカのオープンバンキングの恩恵を受けた成功事例が日本に適用されるといった成功事例も増えてくることが考えられます。
執筆者:古市 健太郎
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