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【生成AI起業のヒント #22】AI × ゲームスタジオ編

2024.9.9

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こんにちは!インターンの川野です!

「生成AI起業のヒント」では、ANOBAKAが注目している海外の生成AIスタートアップを取り上げて、生成AIの活用方法を分析・解説していきます。
生成AI領域で起業を考えられている方にとって事業のヒントとなれば幸いです。

さて、今回から少しだけ記事の趣旨にアップデートがあります!ANOBAKAでピックした注目の海外スタートアップを紹介する点は変わりないのですが、特定のテーマに沿って数社ピックアップしてあるので、何回かに分けて1社ずつ紹介していこうと思います。

最初は、「世界のトップティアVCが投資する生成AIスタートアップ」というテーマで紹介していきます。まずは、スタートアップ業界なら知らない人はいないであろうVC業界のレジェンド・Sequoia Capitalのポートフォリオについて数回に分けて見ていきます。

Sequoia CapitalはAI特化型ファンドではありませんが、Appleに始まり数多くの世界的な企業を輩出してきたファンドであり(多くの説明は要りませんね)、数多のスタートアップを見てきた粒揃いのキャピタリストが所属していることは間違いありません。そんな歴戦の猛者たちはどのような領域の、どのようなアプローチをしている生成AIスタートアップに投資をしているのでしょうか。

ということで、AI主導のゲームスタジオを展開するIconic.AIというロンドン発のスタートアップを紹介します!

1. 巨大なゲーム産業

全世界で何十億人もの人々がプレイしているというゲーム。アメリカにおいては、ゲーム産業がハリウッドや音楽産業を合わせてもなお4倍近くの収益力を誇っており、グローバルにも影響力を持つ一大産業となっています。

特にゲーム産業の中でも、大手ゲーム制作会社が多額の開発費をかけて開発しているAAAタイトルと呼ばれるゲームタイトルが膨大な収益を生み出しています。有名なAAAタイトルで言えば、『GTA(グランド・セフト・オート、通称グラセフ』や『エルデンリング』、『ホグワーツ・レガシー』、『ディアブロ』などがあります。

しかし、近年では、こうしたAAAタイトルは数億本もの売上を超える世界的ヒット作品となっている背景で、開発費用の高騰という壁にぶつかっています。大規模な予算・人員で開発しているからこそ、グラフィックやサウンドデザイン、アニメーションなどには最高水準の技術が使われており、ユーザーとしての体験も非常にリッチではあるのですが、数億ドルものコストと何千人もの人員を必要し、開発には数年かかる重厚長大な産業になってきています。

このモデルはもはや持続可能ではなく、収益性も低下し、サービス終了に追い込まれたゲームや閉鎖されたスタジオが相次いでいます。具体的には、MicrosoftやPlaystationといった大手企業も莫大なコストに耐えきれず、従業員の解雇やスタジオの閉鎖に踏み切っており、まさに今業界として変化を迎えることが強く求められています。

さらに、こうした大規模な資金と人手を必要とする開発体制は90年代からほとんど変わっておらず、むしろ過去30年にわたってゲームがより複雑化してきているからこそどんどんコストが膨れ上がってきています。プレイヤーがより少ないコストでよりリッチなゲーム体験を求めている中で、重大な供給ボトルネックが存在しているのがゲーム産業なのです。

2. AI駆動のゲームスタジオ『Iconic.AI』

■企業情報

  • 会社名:Iconic.AI
  • 本社所在地:ロンドン(イギリス)
  • 最新の調達ラウンド:Pre-seed
  • 資金調達総額:400万USD
  • 主な株主:Sequoia Capital, Atomico, Deepwater Asset Management, FOV Ventures, HodlCo, Interface Capital
  • カテゴリー:ゲーム
  • 公式ホームページ:https://www.iconicgames.io/

巨額のお金も人手も必要とするAAAタイトルの開発において、AIを活用することでイノベーションを起こそうとするスタートアップが、今回取り上げるIconic.AIです。

Iconic.AIはAAAタイトルの開発に焦点を当てており、AIを活用して開発コストと開発時間を削減することができるゲームスタジオです。インディーゲームとは異なり、AAAタイトルは規模も予算も莫大で、開発の各フェーズにおいて必要なToDoなども多岐に渡るためソフトウェア開発の中でも最も複雑な形態と言われていますが、Iconic.AIはここにAIを組み込むことでインパクトを生み出そうとしています。

2023年にロンドンで設立されたスタートアップで、現在は2025年公開に向けて1本目となるゲームを開発しているようなフェーズになっているため、具体的にどのようにAIを活用していくのか詳細は明らかになっていませんが、小規模なチームでも効率的に開発できることが強みとしています。

通常、AAAタイトルの開発においてはゲームデザインやキャラクター・背景の3Dモデリング、システム開発といった開発タスクを実行するプロダクションと呼ばれる段階が最もコストと時間を要すると言われています。特に、キャラクターや背景、アイテムなどの3Dモデリングやテクスチャといったアセットの制作であったり、膨大な量のコードと複雑なシステムを含むからこそのデバッグであったりが、プロダクションにおいては膨大なリソースを必要とする作業だと言われています。ですので、Iconic.AIが特に重点を当てて効率化に取り組んでいくのは、こうしたプロダクション段階の作業ではないかと考えられています。

また、AIを活用することでの恩恵は開発チームだけにもたらされるものではなく、ゲームプレイそのものの体験も大きく変わるため私たちのようなユーザーにも恩恵がもたらされることになります。例えば、プレイヤーの選択やプレイスタイルによって環境が動的生成されたり、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の行動が変わったりなど、ゲーム体験そのものがよりパーソナライズされ、没入感のあるゲームを開発することができるようになるかもしれません。

3. 生成AIが変えるゲーム開発の未来

生成AIの進歩により、ゲーム開発は従来の形から大きな変革を迎えると言われています。しかし、この分野におけるAIの活用方法は実は以前からも存在していました。

例えば、基本的な構成要素をアルゴリズムによってランダムに配置し、マップやロケーションを生成するPCG(Procedural Content Generatioin Framework)と呼ばれる技術はその1つです。日本語ではプロシージャル生成などと呼ばれていますが、Minecraftのようなプレイヤーが自由に世界を作り上げ、探索し、創造的にゲームを楽しむことができる「サンドボックスゲーム」にあるマップの自動生成が代表的な活用事例です。

しかし、生成AIのよりクリティカルな活用方法として期待されていることとしては、ビジュアルデザインやオーディオ、キャラクターに動きを付ける仕組みをつくるリギングと呼ばれる作業、アニメーションからゲームメカニクスに至るまでのアセット制作における制作費用や開発時間の削減があります。先述したように、ゲーム開発における従来のアセット制作は最もコストと人員を要する重たい制作フェーズでしたが、生成AIにより頭の中にあるアイデアを具現化したり、そもそもゼロから概念化したりするプロセスを大幅に短縮することができます。

これらはあくまで開発/制作側に対して生成AIがもたらすインパクトですが、Iconic.AIがそうであるように、生成AIによって変化するゲーム開発によって、ユーザー体験側にも大きなインパクトをもたらすことが期待できます。

例えば、従来の分岐型ストーリーでは限られた選択肢しかなかったのに対して、AIによって無限に分岐するストーリーラインを用意することが可能となりました。ユーザー体験としては、自身の選択がゲーム展開に影響を与え、より自分自身にパーソナライズされたストーリーやゲーム内イベントが展開されるようになると考えられます。

また、パーソナライズ化はプレイヤーの行動だけでなく、プレイスタイルによっても可能になります。例えば、「Middle-Earth:Shadow of War」というワーナーブラザーズから発売されているRPGゲームでは、プレイヤーの戦闘スタイルに基づいて敵キャラクターの行動パターンや戦闘戦略が動的に変化するように設計されています。

このように、ユーザーのアクションに基づいたコンテンツをリアルタイムで生成し続けるような、より没入感のあるゲーム開発が可能となり、同じゲームをプレイしているのにユーザーによって違うゲームをプレイしているかのような新しいゲーム体験が未来では訪れるかもしれません。

執筆者:川野 孝誠


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