こんにちは!インターンの川野です!
「生成AI起業のヒント」では、ANOBAKAが注目している海外の生成AIスタートアップを取り上げて、生成AIの活用方法を分析・解説していきます。
生成AI領域で起業を考えられている方にとって事業のヒントとなれば幸いです。
前回から「世界のトップティアVCが投資する生成AIスタートアップ」というテーマで紹介しており、皮切りとしてVC業界のレジェンド・Sequoia Capitalのポートフォリオにスポットライトを当てています。
「生成AI起業のヒント」としては第23弾、「Sequoia Capitalが投資する生成AIスタートアップ」というテーマとしては第2弾となる本記事ですが、超高速・格安LLMプラットフォームを開発するFireworks AIというスタートアップを紹介します!
1. Fireworks AIとは
■企業情報
- 会社名:Fireworks AI
- 本社所在地:レッドウッドシティ(アメリカ)
- 最新の調達ラウンド:Series B
- 資金調達総額:7,700万USD
- 主な株主:Sequoia Capital, Benchmark, NVIDIA, Sheryl Sandberg(Meta COO)など
- カテゴリー:生成AI, LLM開発
- 公式ホームページ:https://fireworks.ai/
Fireworks AIは、業界最高水準の高速処理と実用化に適したAIモデルの実行・カスタマイズ機能を提供している生成AIの推論プラットフォームです。ユーザーは、Llama3やMixtral、Stable Diffusionといった人気のあるAIモデルを使用ししながら迅速にAIアプリケーションを作成することができます。
このFireworks AIのプラットフォームには「FireAttention」というFireworks AIが開発した独自の高速化技術が用いられています。この技術によってAIの推論速度および精度が従来よりも大幅に上昇するとされており、例えば、LLMの推論を高速化するために開発されたvLLMというオープンソースライブラリと比較しても、4倍ほどのスピードかつ高精度を維持しながら推論することができるのが大きな特徴です。
また、もう1つFireworks AIの大きな特徴として、APIを介したシステム統合があります。ユーザーは、APIを通じてFireworks AIのモデルにアクセスし、自動化されたトークン生成、コスト管理、使用状況のモニタリング機能を利用することができます。開発コストの最適化はもちろんのこと、プロジェクトの進行状況をリアルタイムで追跡することもできるため、企業はリソースを効率的に運用しながら、短期間で市場に投入することが可能になります。
2. Fireworks AIの独自技術
Fireworks AIに限らず、企業が生成AIアプリケーションの開発業務を効率化することができるプラットフォームというのは多数あります。例えば、有名なところではDifyやHagging Faceといったオープンソースプラットフォームがありますし、Amazon BedrockやGoogle Cloud AIなどテックジャイアントたちも独自のものを提供しています。
基本的に従来のプラットフォームを利用して生成AIアプリケーションを開発する際に、特に直面することが多い課題がレイテンシーでした。もちろん上記で挙げたような有名なプラットフォームはレイテンシーとコストの低減を謳ってはいるのですが、Fireworks AIの方が圧倒的にパフォーマンスが高くなっています。
なぜそれが可能になっているのかを紐解く上で、重要なキーワードの1つになるのは、AIモデルの性能をカスタマイズし、最適化するための「FireOptimizer」という独自エンジンです。このエンジンは、特に生成AIの推論速度を向上させるために設計されており、ユーザーごとのユニークなユースケースに合わせてレイテンシと品質を最適化するための複雑なチューニング作業を自動で実行します。そのため、通常のモデルよりも処理が3倍ほど高速化し、開発フロー全体にかかる時間を大幅に削減することができるというメリットがあります。
さらに特筆すべきは、ユーザーに合わせてAIモデルを自動適応させることができる点です。FireOptimizerではユーザーのデータやユースケースに基づいてモデルが自動でカスタマイズされ、ユーザーが手動で調整することなく最適なモデルが動作するため、パフォーマンスが最大化されるという強みもあります。
使用されている生成AI周りの技術についてはまだまだ深掘りの余地があるのですが、文量の関係で表面をなぞるだけとさせてください。
興味のある方はこちらから技術ブログを読んでみてください。
3. 過熱する競争
上述してきたように、近年AI推論プラットフォームを提供するプレイヤーが数多く登場し、市場が急速に成長しています。GAFAのようなテックジャイアントに始まり、Hugging FaceやOpenAIといった新興企業まであらゆる企業が競争を繰り広げています。
一方、この競争が激化する中で市場は供給過剰に陥り、既に価格競争に持ち込んでいるようなプラットフォームも出てきています。このような状況が現在引き起こされている裏には、LLMが普及し技術自体がコモディティ化してきていることが要因の1つとしてあります。以前は、LLMの開発や運用に莫大な資金と技術力が必要でしたが、最近ではオープンソースプラットフォームの発展により、多くの企業が比較的簡単にLLMを利用できるようになりました。技術自体がコモディティ化してきているため、プラットフォームとしての差別化も困難になってしまっており、ユーザーとしては「結局どこのプラットフォームを使っても得られる体験は同じ」だと認識しまい、サービスの選定基準が「価格」や「ブランド力」に偏りがちになってきています。
しかし、市場が過当競争に陥っているからこそ、新しい差別化の方法が求められています。単に安価で標準的なサービスを提供するのではなく、より高度なユーザー体験や特化型のソリューションを提供するプラットフォームが今後の競争を制するでしょう。
その一例が、Fireworks AIです。Fireworks AIは独自の推論高速化技術やエンジンをプラットフォームに搭載することで、他のプラットフォームと比較しても圧倒的に速く開発コストが格段に抑えられるという価値を顧客に提供しています。
また、Hugging Faceのようなオープンソースプラットフォームも、独自の強みを活かして競争に参入しています。Hugging Faceは、誰でもAIモデルを自由に共有し、カスタマイズできる環境を提供することで、研究者や開発者のコミュニティを強力にサポートしています。このオープンなアプローチにより、Hugging Faceは新しいAIプロジェクトやイノベーションの中心に位置づけられ、特にAI技術者やデータサイエンティストからの支持を集めています。オープンソースを武器にした競争戦略は、クラウドサービスを提供する大手企業とは異なる層に訴求することで、異なる市場ニーズを満たしています。
Fireworks AIのような推論プラットフォームが今後勝ち残るためには、激化する競争の中でも単なる価格競争ではなく、特化型のソリューションなのか、モデルのカスタマイズ性なのか、あるいは顧客とのパートナーシップを築くのかなどより独自の戦略が必要になります。Fireworks AIが示すように、圧倒的な機能面は確かに競争優位性を高める鍵とはなりますが、技術は日々進化していくものなので、中長期的な持続性のあるものかどうかは疑問が残ります。これからのAI推論プラットフォーム市場では、企業がどのように新しい価値を創出し、顧客の期待に応えるかが、成功の大きな要因となるので注目していきたいです。
執筆者:川野 孝誠
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