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AIが開発を変える—誰もがソフトウェアを作れる時代へ

2025.3.22

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執筆者:鳥海俊輔

現在、デジタル社会が進化し続ける中、企業はデジタルサービスの展開を加速させ、個人でも自分のアイデアを形にするための手段として、ソフトウェア開発の需要は爆発的に増加しています。そして実際、たくさんのソフトウェアが世界中で次々に生み出されています。

しかし、ソフトウェア開発を行うためにはPythonなどのプログラミング言語を学び、開発したいソフトウェアに合わせたコードを書く必要があります。この難易度は高く、世界でプログラミングができるのは世界の人口の1%未満です。そのため、多くの人にとってソフトウェア開発は依然として高いハードルとなっています。技術的な知識以外にも時間やコストもかかるため、アイデアを形にすることが難しいという現状があります。

そこで今、注目されているのが生成AIを活用したソフトウェア開発です。AIが自動でコードを生成し、ソフトウェア開発を支援することで、プログラミングの知識がなくてもソフトウェアを作成できるようになってきました。これにより、プログラミングができない99%の人の素晴らしいアイデアをより迅速に形にし、新しいデジタルサービスを誰もが生み出せる時代が到来しています。

特に、スウェーデン発のスタートアップ「Lovable」は、独自の「AI Full stack Engineer」というコンセプトを掲げ、ソフトウェア開発のハードルを下げるための画期的なソリューションを提供しており、AIによるコード生成やデバッグ支援を通じて、開発者や非エンジニアでもソフトウェアを効率的に作成できる環境を構築しています。

本記事では、Lovableの機能や活用方法を詳しく解説し、同じくAIを活用したノーコード開発ツール「Bolt.new」と比較しながら、生成AIがもたらすソフトウェア開発の新しい可能性について掘り下げていきます。

「生成AI起業のヒント」では、ANOBAKAが注目している海外の生成AIスタートアップを取り上げて、生成AIの活用方法を分析・解説していきます。
生成AI領域で起業を考えられている方にとって事業のヒントとなれば幸いです。

Lovableの事業内容

Lovableとは?

Lovableは、「誰もが迅速かつ簡単にソフトウェアを開発できる世界を目指す」ことを掲げたスウェーデン発のスタートアップが提供するAI活用型開発プラットフォームです。プログラミング経験の有無を問わず、アイデアを効率的にソフトウェアとして形にできるようサポートしてくれます。具体的には、要件定義からコード生成・デバッグ・テスト・デプロイまでワンストップでサポートする仕組みを構築しています。
Lovableの大きな特徴は、自然言語でアイデアや要望を入力するだけで、AIが自動的にコードを生成し、さらに問題点を検出して解決策を提示してくれる点にあります。プログラミング未経験者や非エンジニアでも、まるでプロのエンジニアが隣にいるかのようなサポートを受けながら開発を進められるのです。

資金調達と成長の背景

2025年2月、LovableはプレシリーズAラウンドで1,430万ユーロ(約20億円)を調達し大きな話題を呼びました。欧州のスタートアップニュースサイトEU-StartupsやArcticStartupの報道によれば、今回の資金調達は研究開発体制やマーケティング強化、さらにはグローバル拡大を視野に入れたものとされています。
また、企業情報を見ると、すでに欧州を中心とした多くの企業がLovableを採用しており、今後は北米やアジア市場にも積極的に進出していく見込みです。こうした資金とユーザーベースを背景に、LovableはAI技術の高度化と迅速なアップデートを実現できる強固な体制を整えつつあります。

「AI Fullstack Engineer」のコンセプト

1. 全ての開発工程を一貫して支援

Lovableが提唱する「AI Fullstack Engineer」は、単にフロントエンドやバックエンドのコード生成を行うだけではありません。要件定義やアーキテクチャ設計などの上流工程から、デプロイやスケーリングといった下流工程まで、AIが包括的にサポートしてくれる点が最大の魅力です。

2. 自然言語でのやり取り

たとえば、「ユーザー管理機能を実装して」「データベースのスキーマを最適化してほしい」などを文章で伝えると、LovableのAIがバックエンドのコードや必要な設定を自動生成。想定外のバグやパフォーマンスの問題が発生しても、問題箇所を指摘しながら修正案を提案してくれます。開発経験が浅いユーザーでも、対話を通じてスムーズに品質の高いソフトウェアを作り上げられるのです。

3. チーム開発にも適した拡張性

権限管理やバージョン管理など、大人数で開発を進める上で必要な機能が充実しているのも特筆すべき点です。特に、企業レベルのセキュリティ要件やワークフローをAIが補完しつつ実装できるため、スタートアップから大企業まで幅広い規模で導入が検討されています。

実際に使ってみました

まず、Lovableの公式サイトでアカウントを作成し、チャットボックスにタスク管理(締切日を表示できる)と入力し、指示を出してみました。

するとものすごいスピードでコードを書き始め、数十秒である程度の形になりました。実際に使ってみるとタスクの締め切り日や重要度などがすぐ分かるシンプルなタスク管理Webアプリが作られており、その完成度に驚かされます。

機能を修正したい時は画面左下から指示を入力すれば、即座に修正結果が反映されます。英語からの日本語への翻訳指示や色変更なども容易です。最後に右上の「publish」ボタンを押すだけで公開できるため、プログラミングの知識がなくても数分で簡単なWebアプリを世に出すことができるわけです。

今回使ったものは無料プランですが有料プランもたくさん種類があり、無料プランと比べてメッセージ制限の緩和やプライベートプロジェクトの作成、カスタムドメインの利用など、開発の柔軟性と効率性が向上します。

類似プロダクトBolt.newとの比較

Lovableは「AI Fullstack Engineer」というコンセプトを武器に、開発工程のほぼすべてをAIがサポートする点が最大の特徴です。一方で、同様にAIを活用したノーコード開発ツールとしてしばしば比較対象となるのが「Bolt.new」です。

1. 導入・学習コスト

Lovable: 豊富なAI機能を駆使すれば複雑な要件も短期間で実装可能。ただし、機能を使いこなすには多少の学習が必要になるケースも。
Bolt.new: テンプレートやドラッグ&ドロップのGUIで、とにかく簡単に始められる。一方で、細かいカスタマイズや大規模化には限界がある場合も。

2. サポート体制・コミュニティ

Lovable: 公式サポートが充実しており、AIによるエラーチェックに加え、メールやチャットによる相談も可能。資金調達後のグローバル展開でユーザーコミュニティも急拡大中。
Bolt.new: コミュニティ主導のフォーラムが充実しており、初心者向けドキュメントが多い。ただし、大規模システム向けの詳細事例はまだ少ない印象。

3. 価格プラン

Lovable: フリートライアルや小規模プランもあるが、AIのフル機能やエンタープライズ対応には有料プランへの加入が一般的。大規模チーム向けプランも柔軟に調整可能。
Bolt.new: 無料プランや低価格なスタートプランが中心で、小規模開発や試作段階には最適。一方、より高度な機能や大人数での利用では費用や機能面を追加検討する必要がある。

4. セキュリティと拡張性

Lovable: 権限管理や監査ログ、厳格なセキュリティ要件に対応しやすい体制。機能追加や仕様変更の際もAIがコード全体を検証してくれるため、拡張性が高い。
Bolt.new: 一般的なクラウド基盤によるセキュリティ対策が施されているが、金融や医療などハイレベルな要件には追加カスタマイズが必要な場合もある。

5. ブランド力とユーザー事例

Lovable: 大型資金調達を背景にブランド力が向上し、企業導入の実績も積み上がりつつある。グローバルに展開しており、欧州以外の地域でも注目度が高まっている。
Bolt.new: 教育機関や小さなスタートアップでの採用実績が豊富。コミュニティの盛り上がりもあり、プロトタイプ開発や少人数チームには選びやすいイメージ。

Lovableは、ノーコード・ローコード開発ツールの領域において、単なる「プログラミングが不要」の枠を超え、AIが開発工程を包括的に支援するという革新的な価値を提供しています。要件定義からコード生成、デバッグ、デプロイまでのすべてを1つのプラットフォームで完結できる利便性と拡張性が「爆発的な成長」の原動力となっているのは明らかです。

一方、Bolt.newのように軽快なGUI操作を強みに持つ競合ツールがあるのも事実。それぞれに利点や得意分野が異なるため、導入を検討する際にはプロジェクト規模やチーム構成、予算、セキュリティ要件などを踏まえて比較することが重要です。

顧客のユースケース:Lovableが解決する課題と活用事例

ではここでLovableが使われている実際の例を見てみましょう

個人の業務効率化

Lovableを活用することで、個人ユーザーが自身の業務を効率化する事例が増えています。特に、エンジニアではない個人が自分の業務フローを最適化するツールを短期間で作成できる点が大きな魅力です。

例えば、デザイナーLovableを利用して自動ポートフォリオ作成ツールを構築した例もあります。クライアントに提出するデザイン作品をWeb上で即座に整理・更新できる仕組みを作成し、煩雑だったポートフォリオの管理作業を大幅に効率化することができます。

さらに、学生や研究者リサーチ補助ツールを作成し、研究論文や資料の整理を自動化するケースもあります。Lovableを活用してPDFの論文を読み込み、自動で要約し、キーワードを抽出するアプリを開発することで、情報収集の時間を短縮し、研究の本質的な部分に集中できるようになりました。

また私のように、自分専用の日々の業務タスクを管理するアプリを作成し、それをデザインなども自分好みにして使うなど個々が自分専用のツールを作ることができます!

スタートアップの場合

スタートアップや個人事業主にとって、Lovableは短期間でプロトタイプを作成し、アイデアの検証を行うための強力なツールとして活用されています。ある創業者は、「Lovableを使えば1週間でスタートアップを立ち上げることができる」と述べており、MVP(Minimum Viable Product)の開発をスピーディに進めることが可能です。特に投資家向けのプレゼンテーションや市場テストのために、素早く動くプロダクトを形にすることが求められる場面で、Lovableの開発スピードが大きなメリットとなっています。

Lovableの競争優位性

スタートアップには競争優位性を確立し、市場での優位なポジションを確保するために活用すべきさまざまな要素があります。Lovableは、以下の2つの競争優位性を持つことで、競合との差別化を図り、長期的な成長を可能にしています。

1. ユーザーが使うほど成長するAI基盤

Lovableの強みの一つは、ユーザーが増えれば増えるほどAIの精度が向上し、より高品質な開発支援を提供できる点にあります。AIが生成するコードやデバッグの精度は、使用データの蓄積によって進化していきます。そのため、Lovableを利用するユーザーが増えるほど、AIが学習し、さらに使いやすくなるという好循環が生まれます。

また、Lovableのプラットフォーム上では、開発者や非エンジニアが作成したプロジェクトのナレッジが蓄積され、コミュニティとしての価値も向上します。ユーザー間でのノウハウ共有やベストプラクティスの蓄積が進むことで、新規ユーザーも参入しやすくなり、さらなる成長が期待できます。

ユーザー増加に伴いAIの学習データが蓄積され、精度向上につながるため、新規参入者がLovableのAIの精度に追いつくことが困難になります。このネットワーク効果により、競争優位性が強固になります。

2. 乗り換えが難しくなる圧倒的な統合環境

Lovableのもう一つの大きな強みは、一度プラットフォームを導入すると、他の開発ツールへ移行することが非常に難しくなる点です。Lovableは、要件定義、コード生成、デバッグ、最適化、デプロイといったソフトウェア開発の全工程を一貫してサポートするプラットフォームを提供しています。これにより、一度Lovableを利用して開発を進めた企業や個人開発者は、他のツールに乗り換えるメリットが少なくなります。

特に、AIがユーザーの開発スタイルを学習し、個別に最適化した支援を提供するため、一度Lovableを使い始めたユーザーにとっては、同じ精度での開発支援を他ツールで再現するのが難しくなります。さらに、権限管理やチーム開発の機能も充実しており、企業単位で導入した場合、Lovableからの移行はよりコストの高いものになります。

開発の全工程をカバーすることでツールの切り替えが困難になり、AIがユーザーの開発スタイルを学習することで、他ツールでは同じ精度を得られなくなります。これにより、高いスイッチングコストが競争優位性をさらに強化しています。

市場規模と最後に

世界的に生成AIを活用したソフトウェア開発の市場は2030年までに255億ユーロに達すると予想されていて年平均成長率(CAGR)も20~30%となると予測されるなど、急拡大が続いています。MicrosoftやGoogleといったIT大手が同領域に注力する動きも加速しており、競争は激化する一方、市場そのものは急速に拡大する余地があるとされています。

また日本市場のノーコードツールの市場は、DX推進や慢性的にIT人材が不足しているという背景もあり、市場規模が年々拡大しています。ITRの調査では、一年間最低でも100億以上市場規模が拡大していくとの見込みです。

Lovableは、ノーコード開発やローコード開発の域を超える「AI Fullstack Engineer」を提供することで、あらゆる人がアイデアを迅速にソフトウェア化できる未来を実現しようとしています。ボタン1つでコードを生成してくれるだけでなく、エラーを検出すれば修正案まで出してくれる、まさに“エンジニアが隣でサポートしてくれる”ようなプラットフォームです。

プレシリーズAの大型資金調達に支えられたLovableは、今後さらに強化されたAI技術を実装しながら世界中でユーザーベースを拡大していくでしょう。Bolt.newのようにシンプルさを重視したツールももちろん魅力的ですが、要件定義からデプロイまでトータルにカバーできる点でLovableは一歩先を行っている印象があります。

急拡大するデジタル社会の中で、開発の需要はますます高まるばかり。Lovableが提供するシステムは、その需要を誰もが手軽に満たせる強力なソリューションになり得るでしょう。特に「コードはよくわからないけど、こんなサービスを作りたい」というアイデア段階から、企業が大規模プロジェクトとして運用に乗せるまでの道のりを、一貫してサポートしてくれるのがLovableの真骨頂です。これからのアップデートと、ユーザーコミュニティの活発化に期待が高まります。

企業情報

  • 会社名:Lovable
  • 本社所在地:ストックホルム(スウェーデン
  • 最新の調達ラウンド:シード
  • 資金調達総額:1.700万ドル
  • 主な株主:Creandum
  • 公式ホームページ:https://lovable.dev

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