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「AIが“設計図”を書く時代」― AI×建設で注目のAugmentaとは?

2025.3.27

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執筆者:鳥海俊輔

「設計ミスで1週間、現場が止まりました」
「干渉してることに施工直前で気づいた。すでに配線材は発注済みでした」
「ベテランが引退してから、詳細設計が“読める人”が社内にいなくなってしまった」

──これは、ある大手サブコンの現場マネージャーの声です。

建設業界ではいま、“見えにくい非効率”が現場を圧迫しています。
特に、電気・空調・配管といった「建築設備の詳細設計」は、プロジェクトの生産性を左右するキーフェーズでありながら、未だに手作業・属人性・試行錯誤の繰り返しが主流です。

しかもこの設計は、ミスがあれば現場でのやり直しや納期遅延に直結する地雷領域です。
にもかかわらず、設計図の生成は「数週間」、ルート調整は「ベテラン頼み」、調整会議は「複数回」。
あらゆる業界でAIと自動化が進む中、建設設計だけが取り残されてきたのには理由があります。

しかし、そのできなかったを覆そうとしているのが、カナダ発のスタートアップのAugmentaです。

Augmentaは、建築設備設計において、AIが配線や配管のルートを自動で設計し、複数案をクラウド上で比較・検討できるという新しい支援ツールを提供しています。従来は熟練エンジニアが時間をかけて行っていた作業を、数時間で高精度に完了できるようにすることで、生産性と品質の両面で大きな向上を実現します。

今回は、Augmentaの事業と製品の全体像から、課題とその背景競争優位性、そして日本の市場感の違いまでを多面的にひもといていきます。

1. Augmentaの全貌

Augmentaは、2018年にカナダ・トロントで創業されたAIスタートアップです。建設業界、特に建築設備設計(MEP: Mechanical, Electrical, Plumbing)における課題を、AIの力で解決しようとしています。創業メンバーは、Autodesk社においてジェネレーティブデザイン技術(AIベースのソフトウェアを使用して、指定された条件内で複数の設計案を自動的に生成するプロセス)をリードしてきたエンジニアや研究者たちで構成されており、設計自動化に関する深い知見と実績をもとに、この会社を立ち上げました。

同社が提供しているのが、Augmenta Construction Platform(ACP)というクラウドベースの自動設計プラットフォームです。このプラットフォームでは、電気・配管・空調・構造といった建物の設備設計をAIが自動で行い、施工可能かつルールを守った設計図を、3DのBIMモデルとして出力します。
現在はその第一弾として、電気系統設計(Electrical System Design:ESD)がリリースされており、建物内のケーブルルート(電線管など)を最適化しながら設計してくれます。

引用:Augmenta公式HP
引用:Augmenta公式HP


使い方はシンプルで、建物の条件や制約、配線禁止エリア、接続すべき回路の情報を入力するだけ。すると、AIが数十通りの施工可能な配線プランをクラウド上で生成し、それぞれに材料費・工数・施工時間などのコスト情報も付けてくれます。設計者や施工会社は、コストや工期を考慮しながら、最適な案を選ぶことができます。
設計結果はAutodesk Revit(BIMに特化したCADソフトウェア)と連携可能で、BIMデータとしてそのまま活用できるので、既存の設計・施工フローともスムーズに統合できます。また、クラウド上で動くため、ユーザーのPCに負荷がかからないのも大きな利点です。
さらに、生成された配線プランは他設備との干渉を自動で回避してくれる上に、法規や建築コードも遵守済み。設計変更が発生しても、AIが即座に再設計してくれるため、手戻りや現場でのやり直しを大きく減らすことができます。

このプロダクトの強みは、スピード・正確性・施工性の3点です。従来は数週間かかっていた詳細設計作業が、数分〜数時間で完了し、複数案を並行して比較・検討できる。これにより、設計→レビュー→修正というサイクルが、圧倒的に早く回るようになります。
出力されるモデルには、支持間隔や配線径、配管勾配といった施工性に関する情報も含まれており、現場の手戻りを防ぎ、プレハブ施工の推進(詳細は後述)にもつながります。

また、資金調達の面でも着実に進展しており、2022年に約410万ドル、2023年に1175万ドル、2025年3月にはさらに1000万ドルを調達。累計で2560万ドルに到達しています。出資者には、建設業界に強みを持つ戦略的プレイヤーが名を連ねており、実際のニーズとつながった開発・実装が進められています。

このようにAugmentaは、「AIによる自動設計」というまだ新しい領域で、実用性業界適合性を両立したプロダクトを展開しており、建設業界の自動設計革命を牽引する存在になりつつあります。

企業情報

  • 会社名:Augmenta
  • 本社所在地:トロント(カナダ)
  • 最新の調達ラウンド:シード
  • 資金調達総額:2.560万ドル
  • 主な株主:Prelude Ventures, Montage Ventures, BDC Ventures Capital
  • 公式ホームページ:https://www.augmenta.ai/

2. 市場背景と解決しようとする課題

建設業界が抱える、静かで深刻な問題

Augmentaが挑んでいるのは、大規模建設プロジェクトにおける設計工程の非効率と、それを担う熟練人材の慢性的な不足という、建設業界の根深い課題です。
建設業界は長年にわたって生産性の向上が遅れている領域とされ、ITの活用も他の産業に比べて大きく遅れてきました。中でも特に手間がかかるのが、電気・空調・配管といった設備設計(MEP設計)です。設備同士のルートが互いに干渉しないように、設計者が試行錯誤しながら手作業でルートを調整していく必要があります。

このプロセスでのミスや見落としは多く、施工段階で「通らない」「干渉していた」といった問題が発覚し、現場でのやり直しが発生するケースも多くあります。こうした設計ミスは、工期の遅延・コストの超過・資材ロスといった形でプロジェクト全体に跳ね返ってきます。
一部では、設計段階の不備が原因で資材の30%が廃棄されることもあるとされており、これは建設廃棄物の増加やそれに伴った二酸化炭素排出の増加にもつながっています。

さらに深刻なのが人材の問題です。たとえば電気設備の設計を担える熟練エンジニアはごく限られており、米国の大手施工会社でさえ「経験豊富な設計人材が不足している」といった声が上がるほどです。

こうした背景もあり、設計に時間がかかること・コストがかさむこと・生産性が低いこと当たり前のようになってしまっているのが、今の建設業界の現実です。

なぜこの課題が今まで解決されなかったか

建設設計の自動化というテーマは、実はずっと昔から「理想」として語られてきたものです。けれど、なかなか実現されることはありませんでした。なぜでしょうか?

ひとつは、技術的な難しさです。建物ごとにレイアウトも設計要件も違う中で、すべてに対応でき汎用的なアルゴリズを作ることは、極めて難易度が高いことでした。さらに、国や地域によって建築基準法や配線コードがバラバラなので、単一のルールで処理することができません。

過去にも、CADソフト(コンピューターを使用して設計や製図を行うためのソフトウェア)上でのルールチェック機能や、簡易的な経路の自動生成ツールが試されてきました。でも、あくまで補助的な機能にとどまり、最終的には人間の手作業が前提。結局、「便利だけど、任せきりにはできない」という評価で終わっていたのが現実です。

もうひとつの壁は、業界特有の文化や構造です。建設業界には「経験がものを言う」「大きなミスは絶対に許されない」といった、保守的で慎重な価値観が根強くあります。特に設計作業は、ちょっとした間違いが安全性に直結するため、「AIに任せるなんて怖い」という心理的ハードルも高かったのです。

加えて、設計の非効率によって生じるコストの所在が分散しているという構造的な問題もあります。たとえば、設計ミスによる手戻りコストは施工会社がかぶるけれど、設計者には直接的なペナルティがない、というように。こうした構造のせいで、設計を効率化しようというインセンティブが業界全体で共有されづらい、という問題もありました。
だからこそ、「建設設計をAIで自動化する」というテーマは、長い間、できたらすごいけど、現実的には難しいと見なされていたのです。

「なぜ今」解決できるのか

では、なぜ今になって、この難しかった課題が「解けるかもしれない」と言えるようになったのでしょうか。

まず大きな要因は、AIとクラウド技術の進化です。近年、ジェネレーティブデザインやディープラーニングといったAI技術が大きく進歩し、以前は到底扱えなかったような複雑な設計問題にも対応できるようになってきました。さらに、クラウドコンピューティングの普及によって、数百万通りの配線パターンを一気に検討するような処理も、現実的な時間で実行できるようになっています。

Augmentaが採用しているのは、まさにこうしたテクノロジーの上に成り立つアプローチです。ジェネレーティブデザインの考え方と、生成AIの柔軟性を組み合わせた設計手法は、従来の「部分的な補助」ではなく、設計そのものを自動化することを可能にしつつあります。

もうひとつの背景は、人材不足と効率化の必要性です。建設業界では、世界的に熟練人材の引退と若手不足が進行しており、生産性をどう高めるかが喫緊の課題となっています。加えて、建材価格の高騰や、タイトな工期・予算への対応といった要因も重なり、設計フェーズでのミスや手戻りを減らす必要性はますます高まっています。

こうした状況の中で、「ミスなく、迅速に設計を完了させる」というAugmentaの提案は、まさに時代のニーズに合った解決策として注目されるようになってきました。

さらに、業界の意識そのものにも変化が生まれています。最近では、大手建設会社や不動産会社が建設テック系スタートアップと積極的に連携しはじめており、かつての保守的な業界という印象も少しずつ変わりつつあります。

国レベルでも、イギリスやシンガポールではBIM活用を公共事業で義務化する政策が始まり、日本でも「i-Construction」などを通じてICTやAIの活用が奨励されるようになってきました。こうした制度・文化両面の後押しがある今は、過去とはまったく違う「土壌」ができつつあると言えるのかもしれません。

競合および類似ソリューション

建設設計の自動化というまだ新しい市場において、Augmentaはかなり先進的な立ち位置にあります。ただし、周辺にはいくつかの競合・類似プレイヤーも存在しており、その動きも無視できません。

まず、今も最大の“競合”として立ちはだかっているのは、従来型の手動設計フローです。多くの設計者はいまなお、Autodesk RevitやAutoCADといったBIM/CADツールを使いながら、Dynamoなどのプログラミングツールを駆使して業務を進めています。部分的な自動化はすでに取り入れられているものの、全体を貫くような最適化にはなっておらず、設計作業の属人性や試行錯誤の多さは依然として残ったままです。

スタートアップ領域では、アメリカのTestFitが、住宅やマンションなどの初期配置やボリューム設計を自動化するツールを提供しています。また、Autodeskが買収したSpacemakerは都市計画や建築初期段階に特化しており、どちらもジェネレーティブデザインを活用してはいますが、設計初期フェーズの支援が主目的で、Augmentaのような詳細設備設計までは踏み込んでいません。

一方で、施工フェーズの効率化に注力する企業も存在します。たとえばALICE Technologiesは工事スケジュールの自動最適化、Disperseは現場データの可視化・解析を得意としています。ただしこれらはあくまで施工管理が主眼であり、設計の自動化とは領域が異なります。

日本にも、注目すべき動きがあります。たとえばPlantStreamは、プラント分野で配管ルートの最適化に取り組んでおり、対象分野は異なるものの、設計工程の属人性や非効率をAIで解消しようとする方向性は共通しています。また、大手ゼネコンや設備会社が自社向けの経路自動設計ツールを独自開発しているケースもあり、将来的には競合となり得る存在です。

こうしたなかでAugmentaが目指しているのは、詳細設計の自動化をエンドツーエンドで完結させること。設備レベルで設計図を直接生成し、施工性やコスト情報まで含めて出力できるという点では、明確な直接競合はまだほとんど存在していないと言えるかもしれません。

ユースケース(導入事例)

Augmentaの価値を具体的に示す事例として1つ紹介しようと思います。それはアメリカの大手電気施工会社・Miller Electric社でのパイロット導入プロジェクトです。

引用:Augmenta公式HPより

同社では、オフィスビルの電気設備設計においてAugmentaのESDモジュール(電気設計用AI)を使用。その結果、従来2週間以上かかっていた電気系統の詳細設計が、わずか数時間で完了するという大幅な短縮が実現しました。
全体の設計工数としても約40%の削減につながったと報告されています。

この効果は、単純な効率化にとどまりません。BIMチームを2〜3名増員した場合と同等の生産性向上が得られたとされており、追加の人件費をかけずに設計リソースの最適化が実現したことを意味します。
さらに、AIによって自動生成された配線ルートは、他設備との干渉がすでに回避された状態で出力されているため、現場での手戻りや材料のムダが大幅に削減されました。
これは、設計段階での精度がそのまま施工の安定性と効率化に直結していることを示しています。

もうひとつ注目すべきは、配線ルートが明確かつ定量的に可視化されたことにより、建設現場で行うべき作業の一部を、事前に工場などで製造・組立てしておくことが可能になり、プレハブ化の計画が立てやすくなったという点です。プレハブ化を行うとこれにより、現場での加工や組立にかかる工数も削減できたとされています。

このように、Miller Electricの事例は、AI設計ツールが単なる効率化ツールではなく、「設計品質 × 施工性」を両立できる存在であることを示す好例だと言えるでしょう。

今後はこのような導入事例が、電気設備以外の領域や、他業種のプロジェクトにも広がっていくことが期待されています。導入を検討する企業にとっては、こうした実例が意思決定を後押しする有力な材料になるはずです。

3. Augmentaの競争優位性はどこにあるのか?

1. ネットワーク効果

Augmentaを利用する企業やプロジェクトが増えるほど、設計テンプレートやノウハウがプラットフォーム上に蓄積され、それが新規ユーザーにとっての利便性となって循環します。さらに、業界内の企業が共通してAugmentaを使えば、設計・施工の連携もスムーズになり、実質的な“標準ツール”としての地位を築くことができます。このようにユーザーが増えることで価値が高まる構造は、典型的なネットワーク効果であるといえます。

しかしながら、この優位性が崩れる可能性もあります。たとえば、よりオープンな設計プラットフォームを掲げる新興プレイヤーが登場し、BIMとの高度な連携や他社ツールとの相互運用性を前面に出した場合、ユーザーの流れが分散する恐れがあります。また、業界の標準フォーマットやAPI仕様が変更され、Augmentaがそれに即応できない場合、ネットワーク内での「つながりやすさ」が失われ、選ばれにくくなる可能性もあります。

競争優位性が崩れる例:Facebook→LINE, Instagram

かつてFacebookは、すべての友人・家族・同級生・サークル仲間とつながる「人間関係のハブ」として機能しており、“みんなが使っているから自分も使う”という強力なネットワーク効果を持っていました。
実際、イベントの案内・写真の共有・近況報告など、Facebookひとつで完結できる利便性があり、ユーザーが集まり続ける構造が成立していたのです。

しかし、そこに変化が起きました。
若年層が「親や先生も見ている」ことに抵抗を感じるようになり、よりクローズドな空間で交流できるLINEグループや、気軽に発信できるInstagram・TikTokへと移行
投稿スタイルやコミュニケーション文化の違いも手伝い、徐々に人が分散していきました。

結果として、Facebookに「人がいるから使う」状態が崩れ、ネットワーク効果が薄れていったのです。
このように、ネットワークの一体感が保たれなければ、強固に見える優位性も徐々に崩れていくことがわかります。

2. スイッチングコスト(ユーザーの囲い込み)

一度Augmentaを導入すると、業務フローや設計基準、社内テンプレートなどが深く組み込まれ、他のツールに移行する際には多くの学習コストや再構築の手間が発生します。また、過去のプロジェクトデータとの互換性や、チームの習熟度といった蓄積が、結果として「変えづらさ=スイッチングコスト」となり、顧客の継続利用を後押しします。

この優位性が崩れるケースとしては、競合他社が「Revitとの完全連携」や「ワンクリック移行支援」などを売りにしたツールを展開してくることが考えられます。加えて、もしAugmentaの操作性やサポートに不満が高まり、「この使いにくさに耐えるくらいなら乗り換えよう」という心理が広がれば、スイッチングコストの高さも乗り越えられてしまうでしょう。つまり、乗り換えリスクが可視化され、移行のハードルが下がる状況が生まれると、囲い込みの効果は弱まります。

競争優位性が崩れる例:Skype → Zoom

かつてSkypeは、リモート通話やビデオ会議の定番ツールとして広く利用されてきました。多くの企業や教育機関ではアカウントが整備され、「導入済みのインフラ」や「慣れた操作体系」がスイッチングコストとして機能していました。ユーザーにとっては、「すでに使っているから他に変える必要がない」という心理が働き、乗り換えは起きにくい状況が続いていたのです。

しかし、コロナ禍を契機にZoomが急速に普及します。Zoomは、インストール不要で誰でも簡単に会議に参加できる仕組みや、ワンクリックでの入室、スムーズな画面共有と高音質といった、圧倒的に使いやすいユーザー体験を提供しました。

このような利便性は、従来のスイッチングコストを上回り、「これだけ便利なら切り替えてもいい」とユーザーの判断を変えたのです。当初は「Skypeで十分」と考えていた企業や教育機関も、次々とZoomへの移行に踏み切りました。

結果的に、一度乗り換えが進むと元のサービスには戻らず、Zoomが新たな業界標準として定着していきました。

4. 日本との建設業界の市場感の違い

規制・業界構造・商習慣の違い

日本の建設業界には、海外とはまた違った制度的・構造的な独自性があります。たとえば設計に関しては、建築基準法のほかに電技規程や内線規程など、細かなルールが多く存在しており、それらのすべてを正確に守ることが求められます。さらに、設計成果物には有資格者(たとえば一級建築士)の確認・署名が義務づけられているため、たとえAIが生成した設計図面であっても、最終的には人間の責任でチェックを行う必要があります。

また、業務フローの面でも日本特有の構造があります。ゼネコンを頂点とした多層下請け構造が根強く残っており、意匠・構造設計は設計事務所が、施工に向けた詳細図は設備工事会社(サブコン)が担うという分業体制が一般的です。このため、設計変更が起こるたびに関係者間での情報共有や調整が発生し、時間と手間がかかるのが現実です。

引用:KiND行政書士法人
https://k-kensetu.kyo-ninka.jp/article/work/1353/

さらに、大手ゼネコンや設備会社の中には「自前主義」の傾向も根強く、外部スタートアップのツールをすぐに導入するというよりも、自社開発や実績重視の選定を行うケースが多いのが特徴です。こうした文化の中で新技術を受け入れてもらうには、実績や信頼の積み重ねが何より重要になります。

既にあるサービスは何か、日本におけるそのテーマの重要性

ただし、日本国内でも「設計の自動化」というテーマに対する関心は高まりつつあります。たとえば、先ほど紹介した株式会社PlantStreamはプラント向けに配管レイアウトをAIで自動化するサービスを展開しており、領域は異なるものの、「複雑な経路を属人的に描くのをやめよう」という思想には共通点があります。
また、大手設備工事会社が社内ツールとして自動配線設計機能を独自開発している
といった話もあり、業界内でも「人手に頼りすぎている現状をなんとかしたい」という問題意識が広がってきているのが分かります。

特に日本では、高齢化が急速に進んでいることもあり、設計のノウハウが個人に偏在している状況は深刻なリスクとされています。ベテランの引退が進む一方で、若手の担い手が少なく、属人化した設計業務をどう引き継いでいくのかという課題が浮き彫りになっています。
この意味で、AIによる設計支援ツールは単なる時短ツールではなく、技能継承や品質維持の手段としても大きな意義を持つと考えられます。

日本で類似事業を展開する際に抑えるべきポイントはどこか

とはいえ、日本でこうしたツールを展開していくには、いくつかのポイントをしっかり押さえる必要があります。
まずは規制対応と業務フローへのローカライズ。電技規程やJIS対応、日本語UIの整備など、現地仕様に合わせた設計が不可欠です。
次に、導入モデルの工夫。たとえばサブコン単体での導入は現実的に難しいため、Arentのようにゼネコンと協力して行う全体導入や(発注側であるゼネコンが主導することで、下流のサブコンや設計事務所への浸透もスムーズになり、プロジェクト全体での最適化が図れます)、受託設計(Design Services)としての先行導入→実績獲得→ソフトライセンスという段階的な展開が有効です。

そして何より重要なのが、文化的な配慮です。「AIが人間を置き換える」ものではなく、「熟練者の判断を補助し、品質を保つためのパートナー」であるという立ち位置を明確にすることが、技術者の心理的な抵抗感を和らげる鍵になります。
そのうえで、国内でのパイロット事例をしっかり作り、現地スタッフやパートナーとともに丁寧なサポート体制を構築していくことが、信頼獲得の近道になるはずです。

AugmentaのようなAI自動設計ツールは、こうした要素を丁寧に組み合わせていくことで、日本の設計現場における生産性改革・品質向上・技能継承といった本質的な課題に向き合う存在になれるのではないでしょうか。

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