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ロケット・インターネットの発展途上国における功績

2021.5.19

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著者: たかはしゆうじ( @jyouj__ )



すべての革新的なサービスは既存のビジネスアイディアの派生に過ぎません


よく知られているように、Googleは最初の検索エンジンではなく、Facebookは最初のSNSではありません。中国のテックジャイアントはアメリカの成功した企業をトレースしているし、孫正義率いるソフトバンクはタイムマシン経営で成功を手に入れました。

しかし、一方でドイツの”ロケット・インターネット”は”模倣企業”、”コピーキャット”などとしばしば蔑称を与えられています。大々的に称賛することをどことなく忌避してしまう企業です。

ロケット・インターネットはベルリンに本社を置き、2007年に設立して以降、破竹の勢いで急伸し、2014年にフランクフルト証券取引所に上場しました。当時、ドイツのインターネット企業としては最大規模の企業とされていました。(なお、上場自体は2020年9月に廃止しています。)

同社のビジネスは非常に明快で、シリコンバレーなどで成功したモデルをアメリカや中国以外の場所で立ち上げ、パイオニア的企業が参入する前にシェアを取り切るというものです。これが”コピーキャット”と揶揄される所以となっています。


しかし、“ロケット・インターネット”は単なるコピーキャット企業なのでしょうか?


#01. パイオニアとしてのロケット・インターネット

資本主義のハック

神だの愛だの正義だの、信じるものは人それぞれ違いますが、こと資本主義においての普遍宗教は「金(money)」です。富を持つことは評価され、それがそのまま力になっています。

ビジネスにおいても、尺度は変われど、どれだけ富を生み出せるかによって評価されることは資本主義黎明期から変わっていません。どれだけ会社としてのビジョンが素晴らしくても、利益がもたらされていなかったら最終的には、(市場において)評価はされないのです。


その文脈においては、ロケット・インターネットは至極冷酷に「金」を錬成していきます。“お金を儲けること”という資本主義のドグマに従って、論理的かつ効率的にビジネスを展開していきました。

彼らが生み出した企業のいくつかは彼らに莫大なリターンを与えています。東南アジアにおけるAmazonである“Lazada”は設立から4年で中国のアリババに買収されました。ヨーロッパ版Zapposである“Zalando”やフードデリバリーサービス“Delivery Hero”は欧州市場で成功を収め、アフリカ版Amazonの“Jumia”はニューヨーク証券取引所で上場しました。


もちろん彼らのビジネスモデルでは失敗した企業も多く生まれています。日本においても、日本版”Zappos”としてロコンドが設立されたが、事業の見通しが立たずすぐに手を引いています。(その後、ロコンドは田中裕輔社長ら経営陣の努力で持ち直し、その後上場しています。)

ビジネスとして成り立たなさそうならすぐに撤退してしまうので、ロケット・インターネットにおいてコンコルドの誤謬は起こりません。彼らは決して必要以上の損失を生まないように論理的な経営判断をしていました


ロケット・インターネットが”コピーキャット”と揶揄されようが急成長できたのは、ひとえに資本主義の宗教において敬虔な信者であったからなのかもしれません。


全てのビジネスは既存のアイディアの組み合わせ

結局のところ、どんな成功しているビジネスも既存のモデルを複数組み合わせたものにすぎません

「ZOZO」はオンライン通販という要素にファッションという要素を掛け合わせました。さらに、ファッションをオンラインで買うときの”自分に合うサイズが見つからない”という課題を解決するために”サイズの統一”を行いました。これは近世ヨーロッパの単位の統一、いわゆるメートル法というアイディアを掛け合わせたものです。

既存のアイディアを掛け合わせて新しいアイディアを作っていく、どのビジネスでもアナロジー思考が行われています


しかし、ロケット・インターネットのサービスは一見そのような組み合わせには見えません。アメリカで成功したサービスをそのまま輸入しているかのようです。確かに、サービス単体で見るとその通りです。

Rocket Internet HPより

だが、ロケット・インターネットも仕組みから見ると、きちんと既存モデルから掛け合わされた新しいアイディアなのです。それは、“アメリカで成功したモデル”×”未開拓地域”×”高速で優秀な人材と大量の資金を投下”です。最初二つの要素までは日本ではソフトバンクのタイムマシン経営で馴染みがありますよね。ロケット・インターネットはさらに最後の要素を掛け合わせました。

彼らはサービスを100日で形にします。驚異的なスピードです。それを可能とするのは、コンサル出身の優秀な人材の登用と、大規模資金提供での垂直立ち上げです。


ロケット・インターネットは決して単なる”コピーキャット”ではありません。ロケット式のビジネスモデルのパイオニアなのです。


#02. エバンジェリストとしてのロケット・インターネット

さらに彼らロケット・インターネットは東南アジアやアフリカといった発展途上国のスタートアップエコシステムにおいて大きな影響を与えました。


雇用の創出

ロケット・インターネットの事業は地球規模なため、各地で大きな雇用を創出しました。2021年の段階で、従業員数は全世界で4.2万人を超えているとされています。また、ロケット・インターネットが関与しており、イグジット済みの会社を含めればさらに多くなるでしょう。

たとえば、Lazadaには9,000人の従業員が、Jumiaには5,000人にものぼる従業員がいます。


また、ロケット・インターネットはヨーロッパだけでなく東南アジアやアフリカを主戦場としているため、現地の従業員に先進国のビジネス思考やインターネット知識を輸出しているという側面も持っています。特にマッキンゼーやBCGなどを前職に持つ人物を登用することが多いので、彼らの持つ知識はそのまま発展途上国のビジネスマンに伝導します。

多くの立ち上げられたスタートアップは複数国に拡大してビジネスを行なっているため、グローバルなビジネスの戦略思考も鍛えられていることでしょう。ロケット・インターネットは進出地域のスタートアップ・エコシステムに大きな影響を与えているのです。


ロケットマフィアの輩出

ロケット・インターネットで思考力やビジネスの基礎を身につけた優秀な人物は退職後、自らビジネスを起こしています。もちろん、その中には現地出身だけでなく、ヨーロッパ出身の人物もいます。いくつか見てみましょう。

インドネシアでは食べログのようなサービス、“Qraved”が誕生しました。2013年に設立され、現在は累計で930万ドル調達しています(Crunchbaseより)。他にもインドネシアでは、コスメのEC“Lolabox”や富裕層向けの旅行プランなどの予約サービス“Bobobobo”が立ち上がっています。

注意深く見ていると、東南アジアではロケット・インターネットの設立したファッションECの“Zalora”出身の起業家が活躍が目立ちます。ライドシェアサービス”Go-jek”の共同創業者Nadiem Makarimなどの大物起業家を輩出しています。


また、アフリカ(特にナイジェリア)では、Jumia出身の起業家が目立ちます。従業員への褒賞用ギフトECの“SureGifts”や食料品デリバリーサービスの“Supermart”などの企業が誕生しています。Jumiaの上場は最近の出来事なので、今後ますますアフリカではJumia出身の起業家(= Jumia mafia)が大暴れするでしょう。




ロケット・インターネットの登場は、東南アジアやアフリカのスタートアップ・エコシステムにプラスの作用を及ぼしたことは間違いありません。雇用とエコシステムの形成&発展という面で、彼らの功績は十二分に評価されるべきでしょう。

彼らロケット・インターネットの登場は必然であり、世界のスタートアップの歴史において重要な意味を持つのかもしれません。




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