ANOBAKAのアソシエイトの松永です。
スタートアップの現場では、事業の成長に伴い毎月毎月新たなメンバーが増え続けていきます。
簡単に馴染んですぐに活躍する人も一部いるかもしれません。しかし、多くの場合は最初は新しい環境に戸惑い、やがてその組織特有のカルチャーや雰囲気に適応し、徐々に居場所を獲得していくものです。
学術的に、その過程を「組織再社会化」といいます。
組織再社会化とは
前所属組織を去った個人が、新組織の一員となるために、新組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を獲得し、新組織に適応していく過程(長谷川2003)
つまり、転職者が転職先に適応し、活躍していくまでのプロセスを指しています。最近よく使われるようになった「オンボーディング」とは、組織適応支援策のことを指します。
組織再社会化で生じる4つの課題
転職後初期に生じる課題はたったの4つしかありません。
1 人脈学習課題
2 学習棄却課題
3 評価基準・役割学習課題
4スキル課題
それぞれ簡単に説明します。
1 人脈学習課題
例えば
「稟議を通すのにキーマンがだれかわからない」
「他部署に連絡する相手がいない」
などです。
転職によって、社内人脈はリセットされるので転職者は新たな社内人脈を1から作り上げなければなりません。難しいのが、「役職者=キーマン」というわけではなく、「影響力がある人=真のキーマン」が誰かということは、組織図を見ただけではわからない場合があるというところです。
2 学習棄却課題
「現在の職場では通用しない「以前の職場での知識・スキル」を捨てることができなかった」
「過去の職場でつちかった仕事の信念が現在の職場で通用せず困惑した」
というものです。地頭も学歴もピカピカで、採用のときは高評価だった方が、意外に転職先で苦しむケースが多いのはこの部分が多いように感じます。なぜなら知識・技能・経験が豊富な人ほど「学習棄却課題」が生じる傾向が強いようです。
3 評価基準・役割学習課題
「職場では自分が何を期待されているのかがわからなかった」
「この職場では何をすれば評価されるのかがわからなかった」
というものです。
私見ですが
「とりあえず優秀だから採用してみたけど、役割はあんまり決めてなかった」パターン
×
「上司がマネジメントが苦手」パターン
がかけ合わさったときに発生している印象です。
4 スキル課題
「今の仕事で求められる知識が不足していた」
というものです。第二新卒や未経験職種・未経験業種へ転職した際に当然ながらぶつかる課題です。
受け入れ組織ができること・やるべきこと
さて、それでは転職先組織が上記4つの課題に向き合うにはどのような方法があるでしょうか。
オンボーディングの力が強い=転職者を早く立ち上げる力が強い会社(環境)を作る鍵は、
第一に、上司によるモニタリングリフレクション
(部下の様子を定期的に観察(モニタリング)しながら、タイミングをみて内省(リフレクション)を促す問いを投げかけること)
が大切です。
細かい調査内容の説明は省きますが、上記で上げた、
2 学習棄却課題、3 評価基準・役割学習課題、4スキル課題
に対して、正の影響があったと報告されています。
第二に、職場学習風土です。
上司単独だけでは、どうしても
1 人脈学習課題
を補いきれない部分があり、またこういったものは職場のコミュニケーション、知識流通の中で獲得されるものです。
よくないのは、「まずはお手並み拝見」と傍観すること、
最悪なのは、「こいつが活躍すると俺の立場が危うくなる…」とあえて足を引っ張ること
この組織風土さえも上司のマネジメントの責任ともいえます。
転職者ができること・やるべきこと
では、転職者側には何もできることはないのでしょうか。
例え仮に、入社先のオンボーディングがイマイチだったとしても「自分が早く立ち上がれないのは、オンボーディングができていない職場のせいだ」と泣き言を言ってる場合ではありません。
自分で能動的に動く必要があります。
これを能動的社会化と呼びます。
・上司がフィードバックをくれないなら、自分から求めにいく。
・職場の人が話しかけてくれないなら、自分から話しかけにいく。
など、できることはあるはずです。
新しい職場の人も「お手並み拝見」という態度ではなく、「知っていることを助言してしまうと、気分を害されてしまうかもしれない…」という遠慮をされていることも多いと思います。
そこは、もう自分から懐に飛び込んでいくしかないように思います。
最後にスタートアップ転職で覚悟すべきこと(私見)
おそらく2パターンあると思います。
1つめは、放っておいても仕事が死ぬほど降ってくるパターンです。
これは、兎に角「4スキル課題」を克服しないとどうにもならないので、まずは自分自身の仕事効率を上げられるように、上司や周りからフィードバックを求めてリフレクションを繰り返しましょう。
2つめは、放っておかれて何をすれば良いかわからないパターンです。その場合は、まずは「3 評価基準・役割学習課題」を解決しにいきましょう。
ちなみに大事なのは上司と面談で「仕事をくれ、ミッションをくれ」と言うのではなく、「しばらくこの組織にいて、この課題を解決するのが良いと思ったのでやろうと思う。ただこれ以上に優先順位が高いことややるべきことがあればすり合わせていきたいと思っている」という感じで、自分で課題を見つけていくのがいいのではないでしょうか。