著者: たかはしゆうじ( @jyouj__ )
1. 犯人は物語の最初に登場していなければならない。ただし、心の動きが読者に読み取られている人間であってはならない。
Knox’s Ten Commandments
2. 探偵方法に超自然能力を使用してはならない。
3. 犯行現場に秘密の抜け穴・通路が2つ以上存在してはならない。
4. 未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。
5. 主要人物として「中国人」を登場させてはならない。
6. 探偵は偶然や第六感をによって事件を解決してはならない。
7. 変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。
8. 探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
9. いわゆる探偵の助手は自分の判断を全て読者に知らせねばならない。また、その知能は一般読者よりもごくわずかに低くなければならない。
10. 双子・一人二役は予め読者に知らさなければならない。
西洋ミステリー小説の世界には「ノックスの十戒」という基本指針があります。もちろん十戒を故意に破った作品で名作もありますが、概ねほとんどのベストセラー作品がこの指針に沿っているのに気づくでしょう。数学でも公式をもとに発展させていくように、把握しておかないといけない定説があります。
それはスタートアップの世界にも当てはまります。既に成功している先行企業から”法則”を見つけることができるでしょう。ここでは一例ですが、 Tim Ferriss氏とReid Hoffman氏が人気ポッドキャスト”Masters of Scale“の人気回である”THE 10 COMMANDMENTS OF STARTUP SUCCESS“で語った十戒について紹介・説明していこうと思います。
なお、この十戒のほとんどは”Master of Scale”に登場した起業家たちが語った経験則や体験談、教訓を元にTim Ferriss氏が体系化したものです。登場エピソードの例としてはAirbnb(Brian Chesky)、Google(Eric Schmidt)、Facebook(Mark Zuckerberg, Sheryl Sandberg)、Netflix(Reed Hastings)などです。そのため、論理的というよりは主観的なものなので、その点については理解した上でお読みください。
1. “No”を恐れない
原文は”Expect Rejection“です。会社を設立したらいくつもの拒絶に行き当たります。顧客や従業員から投資家、パートナーシップを結びたいと考えている企業まで長い期間でさまざまな立場の人から否定的な疑問が投げられることはそう少なくありません。その度に立ち止まっているのはもったいないですし、そんな時間は起業家にはありません。
優れたアイディアは育つ前は常々否定されるものです。Googleは最初の資金調達までに300回以上ピッチしたと言われていますし、著名キャピタリストの多くはAirbnbの可能性について考えようともしませんでした。”No”と言われることはある意味今の常識とは違った未来であることを示しています。誰も予想していなかった、既存の業界を覆すシナリオに行き着くかもしれません。
一方で、”No”が単純にイケてないアイディアである場合もあります。その場合は”No”の理由について尋ねてみると良いかもしれません。相手が投資家であれば、その答えによって単純にその業界の知見を持っていない素人でしかないと判断して聞く耳を持たなくても良いです。あるいは、前例や実践の結果などを知らされれば、アイディアをもう一度考え直す判断をする必要があるかもしれません。”No”を過度に恐れる必要はありませんが、”No”から学ぶ姿勢を持つことは大事です。
2. 人生を賭けて採用をする
原文は”Hire like your life depends on it“です。どのような企業でも採用というものは今後の成長の鍵を握る非常に重要な要因ですが、スタートアップにとってはそれがさらに強く意識されます。採用した最初の十数人がその会社の文化や未来を決定づけるからです。
成功する起業家は適切な時に適切な人材を採用できています。初期の時期には創業者自らが採用に工数をかけることが望ましいでしょう。このPodcastではAirbnbの例が紹介されていました。Brian Cheskyは最初の500人のメンバー全員の面接を自分自身で行なっています。
しかし、組織が拡大した時はどうでしょう。CEO自身が全てに関与することができないため、何らかの採用基準と採用プロセスを各社構築しなければなりません。Googleであれば、「粘り強さ」と「好奇心」の持った人物を、Facebookであれば、「自分より優れていて、自分と異なっている」人物を採用しています。採用の成功は事業の成功に直結しているのです。
3. 急がば回れ
原文は”Do things that don’t scale“です。直訳すると「スケールするにはスケールしないことをしろ」になります。一見矛盾しているようにも見えるこの言い回しですが、日本の諺にも同じようなものがあります。「急がば回れ」です。
成長しているスタートアップはキラキラしてて、まるで”神の見えざる手”のように自然と指数関数を描いているように錯覚させられます。しかし、ほとんどの企業がその裏で地道でとてつもない量の努力を行なっています。例えば、一人一人の顧客からヒアリングを受けてプロダクトを磨いたり、一人一人声をかけてプロダクトを触ってもらったりといった行動です。
店頭展示しているiPad一つ一つに手作業でダウンロードさせていた”Pinterest”。カメラで写真を撮るという口実でホストを直接訪問していた”Airbnb”。Dropbox、Stripe、Lemonade、Zoom、Buzzfeed……。気が滅入るような地道な作業の連続がこうした企業を作り上げたのです。
4. 必要以上の資金を調達する
原文は”Raise more money than you think you need“です。この戒めについては反対の意見を持っている人も多いでしょうし、ティモシー氏も議論の余地があることを認めています。
スタートアップは予期せぬ出来事の連続です。例えば、”Robinhood”はGamestop事件の際に資金が枯渇しかけて、急遽調達に動きました。スタートアップ特有の問題だけでなく、業界や経済全体のリスクにより資金の供給が止まることもあります。リーマンショックが起きた後に調達することが容易ではないということは想像に難くないでしょう。必要な時に必要な資金が手元になく、途方に暮れ倒産するよりは十分な備えを持っておくに越したことはありません。
一方で、資本政策に関しては慎重にならざるを得ません。十分な資金を得ることは重要ですが、それを必要以上の対価と引き換えに行うのは注意するべきです。
5. 完璧主義を捨てる
原文は”Release your products early enough that they might embarrass you“です。これはよく言われていることなので馴染みがある人は多いでしょう。
失敗を恐れず、不完全なままお披露目することで、市場からの適切なフィードバックを受けられます。重要なのはスピードです。機動力こそスタートアップが大企業に勝る武器です。恐れるべきは完璧を求めるあまり市場から出遅れること、リリースして市場に受け入れられないことです。
ザッカーバーグ氏のマントラは“move fast and break things”です。世界で最も成功している起業家たちが使用してきた由緒ある武器です。初期のユーザーの声に耳を傾け、実験しプロダクトを磨いていくことが基礎的ではありますが効果的な戦法です。完璧主義者の仮面を捨てることから始めましょう。
6. とにかく決断する
原文は”Decide decide decide“です。決定を下さないことより間違った決定を後で修正する方が良い場合が多いです。「しない後悔よりする後悔」という言葉があるようにこの教訓は古今東西不変なものなのでしょう。
起業家はその人生で様々な選択肢に行き当たります。その度に迅速に意思決定をしていくことで会社を速く大きく立ち上げることができます。GoogleがYouTubeを買収することを決断するまでにかかった期間はわずか10日です。
世の中には意思決定をするための意思決定が多すぎます。迅速な意思決定だけでかなりの差別化要因になるでしょう。
7. 計画を立てることと壊すことの両方に備える
原文は”Be prepared to both make and break plans“です。多かれ少なかれピボットする覚悟を常に持っていなければなりません。自身のアイディアを殺すことはアイディアを立ち上げることと同じくらい重要なのです。
スタートアップは常に新しいライバル、新しい脅威、新しい市場に直面しています。環境によっては構築したビジネスアイディアとモデルを完膚なきまでに破壊しなければならないでしょう。会社の成長のため、ミッションの実現のためそれを決断できる覚悟がありますか?
そして、それはプロダクトだけではありません。会社の組織制度やサービスを立ち上げるプロセスに至るかもしれません。意思決定を支える強靭な覚悟を持ち合わせることを痛感させられます。手段は変えても目的は変えるな!
8. 従業員の自由な発想に委ねる
原文は”Don’t tell your employees how to innovate“です。これはぱっと見だとピンと来ないかもしれません。しかし、Googleが社員に業務時間の20%を好きなプロジェクトに費やしてもいいという規則を定めたことを例に出すと、なんとなく意味が分かってくるでしょう。
創造性の豊かな創業者のアイディアに頼って会社を前進させるのには限界があります。そして、会社のメンバーに創業者直伝の手法を教え込み、マニュアル管理するのも創造性のない退屈な組織にしてしまいます。従業員に自由な発想を出してもらうためには、自由に働いてもらう必要があります。
Googleの従業員はいわゆる”20%プロジェクトの時間”から、GmailやGoogle Map、Google Adsenseに関わるアイディアを生み出しました。会社全体から自由闊達で前進的なアイディアを創出するには、ある程度は管理しない時間を作って自主性に委ねるべきなのかもしれません。
9. 勝てる企業文化を醸成する
原文は”Create a winning company culture“です。これもよく言われていることですが、成功するかどうかは会社のカルチャーも少なくない貢献をもたらします。文化の方向性によって、会社のメンバーの力の発揮加減も変動します。
ただ単に社内で競争させるだけでは業績は良くなりません。それは組織の文化が間違った方向に推移してしまっているからです。高い水準で従業員のパフォーマンスを維持するには寛大で創造的、協奏的な文化を定着させなければなりません。そして、新規で獲得する人材に関してもそのカルチャーにフィットしている人でなくてはならないのです。
Netflixの創業者ヘイスティング氏が採用のため、Slideshareにカルチャーデッキを公開したところ、彼らの文化に共鳴した求職者たちが彼の予想以上に集まりました。良い文化は会社をより成長させ、会社の求めている人材を引き寄せるのです。
10. やり抜く力を持つ
原文は”Have grit and stick with your hero’s journey“です。全ての成功者に共通することは最後までやり抜いたということです。アイディアが不発だったり、会社が資金不足で倒産する可能性が出てきたりと辛いことが起業すると出てきます。
しかし、それでも進み続けられるかどうかが試されます。英雄にはどの物語を見ても常に悲劇が立ちはだかっています。苦難の連続です。それでも、立ち上がったからこそ英雄になったのです。大きなものを手に入れるのか失うのか、それはやり抜いた人にしか見えない景色なのでしょう。