ANOBAKAのアソシエイトの松永です。
新型コロナウィルス感染症による世界的混乱は、ワクチン普及による打開に期待をいだきつつも、変異株の影響もありまだまだ終わりが見えない状況です。
長引く自粛生活の中で、精神的/身体的なストレスに対処するために多くのプロダクトが考案され、スタートアップの果たす役割も大きくなっています。
ANOBAKAの投資先の中でも、オンラインヨガ・フィットネス「SOELU」やD2C寝具ブランド『NELL』を展開する「Morgt」など、イエナカでヘルスケアに関わるサービスを展開するスタートアップは、社会的ニーズの高まりと企業努力により、力強く成長しています。
世界中のヘルスケア関連の企業が激しく鎬を削った約2年間でしたが、特にmHealth(モバイルヘルス)領域はおおいに注目されています。
◆mHealthの可能性
mHealthとは、スマートフォンや、携帯可能なモニタリングセンサー、機器にダウンロードするアプリケーションソフトウェアが使用されるもので、テクノロジーを用いる医療の中でも、近年急速に発展している分野となっています。
mHealthの世界市場は、2020年の508億米ドルから2025年には2,136億米ドルに達し、年平均成長率33.3%で成長すると予測されています。
※参照:mヘルス (モバイルヘルス) ソリューションの世界市場 – 2025年までの予測:血糖・血圧計、最大呼気流量計、酸素濃度計
一口にmHealthといっても、様々な領域があり、電子カルテやオンラインフィットネス、診断ツールと多岐に渡ります。
そんな幅広いmHealth領域ですが、特にコロナ禍においてメンタルに不調をきたす人々が増えた結果「メンタルウェルネス/メンタルヘルス」に注目が集まり、複数のユニコーンが誕生しました。
◆mHealthにおけるメンタルヘルス領域が注目される背景
WHOのレポートによれば、世界のうつ病患者は3億人を超えると言われており、これは世界人口の4.4%に相当します。
一般的な精神障害を持つ人の数は、世界的に増加していて、うつ病患者の推定総数は2005年から2015年の間に18.4%増加しました。
そもそも世界全体で大きな課題を抱える分野でした。
しかし、アメリカに限っていっても治療やカウンセリングのニーズが満たされていない人が 1,000 万人以上存在するという推計もあり、個人にソリューションが行き届いているとは言い難い状態です。
また別の問題としてカウンセラー側が、対面での直接の対話を好むということがありました。
私自身、(カウンセリングに用いられている心理学に基づく)キャリアコンサルタントの資格を取っていますが、面談する際にはクライアント(患者)の小さな表情変化や呼吸、動作を見逃さないようにするため、対面の方がよりパフォーマンスが出せるのでは、と感じていました。
しかし、コロナ禍による社会変化の中で、Webでのカウンセリングが当たり前になった世界になりました。
もちろん対面でしか捉えられないような情報はあると思います。
しかし、多くの人と接する仕事はこう感じた期間ではないでしょうか。
「Webでも意外となんとなかなる」
そういった変化が「メンタルヘルスに関するカウンセリングプラットフォーム」の成長をもたらしているように感じます。
また、メンタル不調に陥る前にデジタルツールを使ってセルフケアするような習慣も急速に発達してきたことから、「メンタルウェルネス」サービスの躍進があります。
その「メンタルウェルネス/メンタルヘルス」スタートアップ勢に、昨月激震が走りました。
◆世界最大規模のmHealthスタートアップの誕生
累計調達額2億1,600万ドルのマインドフルネスプラットフォームの雄「Headspace」と累計調達額2億2,000万ドルを超えるオンデマンドメンタルヘルスサービス「Ginger」の統合が発表されました。
合併後の評価額は30億ドルに達し、世界最大規模のメンタルヘルスに関するデータアセットを有する企業になるといわれています。
◆Headspace
企業名:Headspace
HP: https://www.headspace.com/
設立年:2010年
創業者:Andy Puddicombe, Richard Pierson
本拠地:アメリカ ロサンゼルス
累計資金調達額:2億1,600万ドル
評価額:5億ドル〜10億ドルマインドフルネスと瞑想のメディテーションアプリを展開。190カ国以上にユーザーを獲得している。月額13ドル程で、1年契約をすると3.5ドル〜6ドル前後でサービスを受けることができる。
◆Ginger
企業名:Ginger
HP: https://www.ginger.com/
設立年:2011年
創業者:Alex Pentland, Anmol Madan, Karan Singh
本拠地:アメリカ サンフランシスコ
累計資金調達額:2億2,070万ドルオンデマンドでコーチング、セラピー、精神医学を介して感情的なサポートへの24時間アクセスを提供している。患者は雇用主が運用する健康保険プランを通じて、Gingerを利用できる。ケアコーディネーターにアクセスし、トレーニングを受けた担当者からアドバイスを受けることができる。
この合弁により、メンタルヘルスに問題を抱えるユーザーに、より統合的なアプローチが可能になるかもしれません。一部の患者は時間とともに症状も変化するので、様々な治療の選択肢を掲示できるようになることは大きなメリットとなります。
◆ゲームチェンジの号砲/アメリカのマーケットは次のステージへ向かうのか
コロナ禍による社会変容に適応し、強烈にグロースしたアメリカのmHealthのスタートアップ2社が統合し、強大なデータと資本力を有する巨人が誕生することになりました。
昨年末にHeadspaceのライバルのCalm、そしてGingerのライバルであるLyra Healthも20億ドル以上のバリュエーションで資金調達を実施しています。おそらく、今回の統合の引き金の一つになったことでしょう。
Calm
企業名:Calm
HP: https://www.calm.com
設立年:2012年
創業者:Alex Tew, Michael Acton Smith
本拠地:アメリカ サンフランシスコ
累計資金調達額:2億1,800万ドルユーザーが瞑想してリラックスできるように設計された健康とウェルネスのブランドアプリケーションを提供している。2C向けのサービスを年間約70ドル(約7300円)、あるいは月15ドル(約1600円)で提供しており、2B向けのサービスも行っている。
Lyra Health
企業名:Lyra Health
HP:https://www.lyrahealth.com/
設立年:2015年
創業者:Bob Kocher, David Ebersman, Dena Bravata
本拠地:アメリカ サンフランシスコ
累計資金調達額:6億7,510万ドル企業の従業員に遠隔メンタルヘルスケアを提供している。契約企業のメンタルヘルスに悩みを抱えた従業員に対し、Lyra Healthはユーザーの状態に基づいて一連の推奨事項を作成する。その後、何千人ものセラピストのネットワークにつなぎ、患者は遠隔で予約、相談、および診察を受けることができる
アメリカのメンタルウェルネス領域は、自社サービスをグロースさせることにリソースを集中させるフェーズから、データとソリューションを確保するためのM&A/統合の戦いへと移行がはじまったのでしょうか。
今後、対抗するための再編・共闘・吸収の動きが加速するのか。
ライバル達の動きにも目が離せません。
◆日本でもエントリー期間の〆切が迫る
スタートアップが成功するための大きな要因の一つに「タイミング」があります。
未だに「覇権を握った」といえるほどの存在はいませんが、既に日本市場でもmHealth領域で多くのスタートアップが躍進しています。
もしかすると日本の市場においても、mHealth領域・メンタルヘルス/ウェルネス領域への新たなスタートアップのエントリー期間の〆切は近いのかもしれません。
一方で、コロナ禍による行政(法律)とユーザーの意識変容はここ1〜2年の話です。
オンライン診療の解禁/規制緩和が進むことで、今までの日本では存在しなかったマーケットやプロダクトが登場しつつあります。
ユーザーサイドも長引く自粛生活で、メンタル不調を身近な課題として認識された方も多いでしょう。
また同時に、あらゆることが強制的にオンライン化されたことから、自宅でオンライン●●をすることはもはや日常となりつつあります。
(過去に比べれば)劇的に日本国民のITリテラシーは向上しています。
アメリカに比べて、日本にはまだまだ余白地があり、戦いはこれからかもしれません。
もしこの領域への起業を考えている方がいらっしゃれば、是非お話をお伺いさせていただければ幸いです。
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