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打撃を受けた宿泊市場、高級民泊スタートアップSonderの戦い方

2021.3.15

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こんにちは、たかはしゆうじ( @jyouj__ )です。


この一年はコロナで観光業は軒並みダメージを受けました。それはシェアリングエコノミーを象徴する2010年代に脚光を浴びた民泊業界も例外ではありません

しかし、Airbnbはその向かい風の中で米国NASDAQに上場し、初値は2倍以上になりました!これは2020年前半にコロナで業績を悪化させたものの、宿泊需要が復活しており、足元の業績が回復傾向によるものに由来するでしょう。今後も民泊市場は成長すると目されているのです。


さて、そんな民泊業界の帝王Airbnbや既存のホテル産業のなかで新たなニーズを発見して、成長を続けているスタートアップがあります。それはSonderです。

Sonderは今では13億ドルの評価額をつけたユニコーンとなっています。コロナ禍においても新たな需要を見つけてさらなる成長を遂げました。


今回の記事では、宿泊業界市場とSonderの戦略、コロナ禍においてはどのような施策を行ってピンチを乗り越えたのかについて取り上げたいと思います。

目次
1. Sonderが取った高級民泊という戦略
2. コロナ禍を乗り越えた小さくて大きなピボット


1. Sonderが取った高級民泊という戦略

まずは宿泊業界全体から見ていきたいと思います。

群雄割拠する宿泊業界

ホテル・宿泊市場はコロナの影響で市場が一時的に縮小したとはいえ、規模としてはいまだに大きく、パンデミック終息後には徐々に拡大していくことが予想されている業界です。

コロナ前の試算にはなりますが、本来であれば2020年には世界のホテル業界の市場規模は2110億ドルに達するという推計も出ていたほどです。


そして、宿泊業界は今やシティホテルやビジネスホテルだけでなくAirbnbをはじめとする民泊も主流となり、多くのプレイヤーが割拠する戦国時代になっています。コロナによる影響も相まって、生き残りをかけた争いが繰り広げられているのです。Dead or Alive.

ポジショニングマップ1
Sonderを除いたポジショニングマップ

これで全てを言い表しているわけではないが、便宜上Sonderを除いたポジショニングマップを作成してみた。

宿泊客は高価格で多様なサービスを追求する場合、リッツカールトンのような高級ホテルに泊まるでしょう。リーズナブルに済ませたい時は品質がそこまで高くないAirbnbなどの民泊サービスを選ぶだろうし、もっと節約したいならきっとカプセルホテルに泊まるでしょう。

(もちろんAirbnbの掲載物件はオーナーによってさまざまなので高品質なものもあるでしょう。ただし、ここでは一般的な民泊物件について話します。)


高価格でも低品質なら客が選ばなくなって潰れるでしょう。低価格で高品質なら費用対効果の面でうまくいかなくなるでしょう。そのため、右上がりの直線上にあるコンセプトのサービスしか生き残ることはできません

一見、新規のコンセプトで入り込む余地がないように見えますが、Sonderはあるところに目を向けました。民泊と高級ホテルの間です。

Sonderを入れたポジショニングマップ

高品質なサービスを受けたいが、Airbnbはオーナーに左右されるから質はさまざま。かといって、高級ホテルに泊まるほどのお金を出したくない」という消費者が実は一定数いました。

このような需要をSonderは発見し、見事サービスとして成功することができました。次の項でSonderの戦略を見ていきます。


ホテルのような満足度を実現した民泊サービス

Sonder Top Page

Sonderのコンセプトは「ホテルのような満足度を実現したサービス」です。前項でも述べたように、高級ホテルとAirbnbの間を取りに行こうと考えています。


そこで、Sonderはこのコンセプトを実現するため、「既存民泊サービスが提供できていないハイエンドな物件提供」という戦略を打ち出しました。つまり、民泊の延長戦である“高級民泊”路線を開拓することにしたのです。

しかし、この路線だとAirbnbのようなオーナーと宿泊者をマッチングさせるマーケットプレイスは適用できません。オーナーによって品質が違うのは死活問題ですからね。


SonderはそれをWeWorkライクな方法で対応しました。一般的には「又貸し」と表現されるやり方です。不動産のオーナーからSonder自身が直接借り、それを宿泊客に一部屋単位から貸し出す方式です。

一度Sonderが直接管理できることによって、どの物件でも一律に高品質なサービスを提供することができます。Airbnbに見られるサービスの質が一律化していないという課題を解決したのです。


しかし、採算は合うのでしょうか。答えとしては採算が合う計算です。それはSonderが短期滞在市場を狙ったからです。長期的に滞在することを想定していないので、少し高くてもストレスの少ない満足なサービスを宿泊客は選ぶだろうという算段です。

そのため、SonderにとってはどれほどAirbnb利用者にとっての課題を埋めて、彼らの効用を最大化できるかが重要になってきます。その目線に立って、Sonderはテクノロジーとホスピタリティーをうまく掛け合わせた施策を打ってます


まず、全てのやりとりはSonderが一元管理します。Sonderが物件を管理しているので当然と言えば当然ですが、これによって、困ったことがあってもオーナーが忙しくて連絡できないということはありません。Sonderが24時間体制でメッセージ対応を行っています。

次にアメニティの充実度です。質のいいタオルやベッドシーツ、バスルーム用品などを用意しており、ホテルのような体験を民泊で味わえるようにしています。食事の宅配業者などとパートナーシップを結んでいるので、それらのサービスを受けることも可能です。

極め付けは、宿泊客にとって利便性の高い場所にある物件を押さえている事です。そのため、Sonderは大手の不動産会社との間で長期リースの署名を最初は結びました。これは多くの宿泊者を引きつけ、満足させることに成功しました。


利便性の高い場所を最初期に獲得するのは競合優位性をSonderにもたらしました。後発で同じモデルを採用し、市場に参入しても立地の良い物件はSonderに取られており、Sonder以上の満足度を実現できないのです。Sonderは高級民泊の第一想起を獲得したのです。


また、Sonderの物件はSonder自身のプラットフォームで予約し、利用可能ですが、AirbnbやBooking.comでも利用可能になっています。競合であり、パートナーでもあるのです。新規流入を既存の大きなプラットフォームで獲得して、Sonderでの満足度のある民泊を体験させることで、継続率を高めていく施策です。


Sonderの順調な成長と急襲したパンデミック

拠点: アメリカ
設立: 2012年
調達額: 約5.3億ドル

Sonderの沿革について見ていきましょう。


SonderはもともとFlatbookという名前で2012年に設立されました。創業者Francisがマギル大学から離れている間のアパートの又貸しからスタートしています。小さなアパートの又貸しプラットフォームとしてしばらく運営されていました。

2014年には11の都市に拡大し、収益は100万ドルを超えました。そんな中、転機が起こりました。一貫性のないAirbnbでの宿泊を創業者のFrancisとLucasは経験したのです。

この時を持って、Flatbookは単なるアパートの又貸し会社からホテルのような快適さを備えた民泊サービスにピボットしたのです。2016年には名称をSonderに変え、シリーズAで1110万ドル調達しました。

その後も順調に成長し、2017年にシリーズBで3200万ドル、2018年にシリーズCで8500万ドルを調達しました。

Sonder SeriesD deck

収益も順調に推移しており、2018年12月には1億ドルを実現しています。2019年にはシリーズDで2.25億ドルの調達を行い、ユニコーンの仲間入りを果たしました。


しかし、栄華は続きませんでした。2020年のはじめにコロナの感染が広がり、海外旅行のストップやロックダウンなどで観光業がダメージを受けました。Airbnbは5月に従業員の25%にあたる1900人をリストラしました。

Sonderも例外ではありません。3月に従業員の三分の一にあたる400人をリストラしました。


2. コロナ禍を乗り越えた小さくて大きなピボット

しかし、Sonderは迅速に方針転換を行いました。

長期滞在にシフト

Sonderはパンデミック初期の3月に長期滞在に目を向けました。利益のため、今まで狙っていた短期滞在主軸の方針からピボットしたのです。

医療従事者、オンライン授業のせいで住居が決まっていない学生などの利用者に重点を置いたのです。彼らは安心した住処を探していたため、この方針は見事的中しました。

KPIの一つである稼働率は70%を超え、平均滞在日数は4日から10日に伸びました。ホテルの稼働率は20%ほどなので驚くべき数字です。もちろん稼働率に対する利益は以前のようではないと思いますが。

Airbnbも長期滞在にパンデミック下では目を向けていましたが、Sonderはカスタマーサービスの質で差別化をはかりました。一元化された質、非接触型の案内など。コロナの不安の中でも滞在者がストレスのないように以前からしていた細やかな工夫が作用しました。また、長期滞在者向けの割引も功を奏したと思われます。


パンデミック下での低迷から一足先に成長曲線に戻ったSonderは2020年6月にシリーズEで1.7億ドルの資金調達を行いました。ヨーロッパでの拡大計画も順調に進んでいるようです。

Sonderは旅行業界だけでなく、不動産業界も救うホープと期待の目が向けられています。


HaaSの未来

それではSonderはどのような世界を目指しているのでしょうか。完全には分かりませんが、一つのヒントとしてはHaaS(Housing as a service)という考え方があります。

HaaSとは単なる住居ではなく、インターネットを通してさまざまなサービスを受けられる住居のことです。自前で家具を揃えたり、水道やガスを契約するのがめんどくさい、長期契約に縛られたくないというニーズに合致します。


Sonderの物件は上で見たようにこの考えに沿っています。インターネットを通して、滞在の日程調整から食事の宅配まで受けられます。

セットアップする手間はかからず、SaaSのような感覚で住居サービスを受けられる世界です。いわば、環境構築なしでプログラミングできる状態なのです。また、一つの場所にとらわれず世界中で同じ品質のサービスを利用可能です。


このHaaSという考え方はAirbnbには不可能です。直接物件を管理しているわけではないので、サービスの質に乖離があるからです。又貸しモデルで民泊を行っているSonderだからできる戦い方です。他にもAnyplaceなどのスタートアップもこのHaaSの未来に向けて事業を行っています。


ウィズコロナ、アフターコロナの時代にSonderはどのような飛躍を遂げるのでしょうか。要注目のシーンです。


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