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100Thieves−eスポーツ市場の成長の鍵を握る異色のスタートアップ −

2021.7.26

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皆さんこんにちは。ANOBAKAでインターンをしています、武内樹心です!前回の記事では日本のeスポーツ市場の課題とその解決策についてリサーチしてみました。今回はこの異色のeスポーツ企業である100 Thievesについて考察してみようと思います。早速本題に入っていきます!

サービスの紹介とビジネスモデル

企業名:100 Thieves
設立年:2017年
創業者:Matthew Haag
本拠地:アメリカ ロサンゼルス
累計資金調達額:6000万ドル
評価額:1億9000万ドル

サービス

100 Thievesは「Nadeshot」としても知られる元プロゲーマーのマシュー・ハーグ氏が設立した企業で、eスポーツ部門、エンターテインメント(メディア)部門、アパレル部門の3つから成り立つエンターテインメントサービスを提供しています。現在評価額は1億9000万ドルであり、Forbesによれば世界第5位の評価額を持つeスポーツ企業ということになります。

eスポーツ部門では『Call of Duty』部門のほか、『リーグオブレジェンズ』、『フォートナイト』など合計6個の部門があり、何回かの変遷を経た結果現在のチームメンバーとなっています。しかしeスポーツチーム結成当初はチームの実績は芳しくなく、一度は『Call of Duty』部門を解散するほどチームは結果を残せていなかったようです。しかし2018年に新チーム結成後、2019年にCall of Duty World League Londonで優勝、その試合を皮切りにフォートナイト、リーグオブレジェンズなど多くの大会で実績を残しています。

エンターテイメント部門ではyouTubeやポッドキャストなどを用いて自社メディアに力を入れています。特にYouTubeでは複数にわたるチャンネルを持っており、他のeスポーツチームよりも発信力が強いことが特徴です。このYoutubeチャンネルについては後ほど詳しく説明したいと思います。

次にアパレルです。ここで考えなければならないのは単純なチームのグッズ販売ではなく、商品単体としても売れるような優れたデザインのアパレル商品を発売していることです。シーズンごとに新しいデザインのプロダクトを展開しており、発売された瞬間にすぐに完売し、高額で転売されるほどの人気を誇っています。

これらの3つのコンテンツを柱に100Thievesは海外のZ世代から大きな支持を集めています。

ビジネスモデル

eスポーツチームの主な収益はスポンサーからの契約料です。そのほかに大会での賞金やメディア(YouTubeなど)の広告料、細かいところで言えばファンからのグッズ購入料や投げ銭が収益となっています。しかし最も重要なのはスポンサー収益です。当たり前ですが、スポンサーは自社の宣伝にならなければ契約を結びません。つまりスポンサーから選ばれるeスポーツチームには知名度が求められます。

この知名度を得る方法は公式の大会で優秀な成績を納めることです。しかし大会で優秀な成績を収めるには選手のトレーニングに必要な設備を購入したり、多くの大会に出場する必要があるなど莫大な資金が必要です。このように考えるとeスポーツチーム(従来のスポーツチームにも言えることですが)が他のチームを抑えて安定したスポンサーを手に入れることは簡単ではないと言えるでしょう。

では100Thievesはどのようなサービスをビジネスモデルを展開しているのでしょうか。冒頭で述べたように100Thievesにはeスポーツチーム・メディア・アパレルの3つのコンテンツを中心にサービスを展開しています。従来のeスポーツチームと比較するとeスポーツチーム実績のみに頼り切っていないことが特徴です。

100Thievesの収益経路は多岐にわたります。eスポーツチームの部門であれば、大部分を占めるのはスポンサーとの契約料です。従来の競技と同じく、プレイヤーのユニフォームにスポンサー企業のロゴを載せることでスポンサー契約料をもらっています。代表的なスポンサーはCash AppレッドブルTotino’sなどの企業です。

またメディア、特にYouTubeの広告料も非常に大きいと言えるでしょう。さらにアパレル単体での売り上げは他のeスポーツチームと比べても圧倒的に大きいと言えそうです。これらのeスポーツチーム、アパレル、メディアは単体で収益を得ているわけではなさそうです。次章ではいかにしてeスポーツチーム、アパレル、メディアを中心にして収益を得ているのか分析していきます。

なぜ100 Thievesはここまで大きく成長できたのか

eスポーツプレイヤーがインフルエンサーに?
他社と差別化する100 Thievesのメディア

eスポーツチームが独自にメディアを持つこと自体はそこまで革新的なことではありませんでした。eスポーツはゲーム実況などYouTubeにすでにあるコンテンツと非常に相性が良かったためです。実際多くのeスポーツチームは自社のチャンネルを持ち、ゲーム実況動画を配信しています。

しかし100Thievesは自社のエンターテインメントチャンネルを持つものの、ゲーム実況動画を投稿していません。チャンネルを複数持ち、eスポーツチームの大会の様子をドキュメンタリー調にして緊張感のあるストーリーを提供する、またYouTubeメンバーを選定し、プロゲーマー同士のトークショー的なものや、エンターテインメント分野で活躍するビジネスマンへのインタビューなど、その複数のメンバーによる企画動画なども挙げています。

さらに人気のメンバーが個人でチャンネルを持っていることも特徴です。100 Thieves関連の総チャンネル登録者数は約150万人以上に登ります。さらに100 Thievesの関係者が個人でもインフルエンサーとしてチャンネルを持っていることを考えると大きな影響力を持っていることが分かります(100 Thievesの創設者のNadeshotのチャンネル登録者数は328万人)。

そもそも100 Thievesは設立者であるハーグ(Nadeshot)氏がインターネット上でも人気の高いインフルエンサーであったことから、既存のeスポーツチームのようなメディアではなく、インフルエンサーやチームメイトのパーソナリティに注目したコンテンツを発信しようと考えたのでしょう。

テレビに出てくる完全に作られた清廉潔白なキャラクターではなく、eスポーツプレイヤーやインフルエンサーが自分たちと同じように日常を過ごしたり楽しくコンテンツを発信する、さらに真面目にキャリアや恋愛について語る姿は既存のメディアよりも魅力的に写っているのです。

これらはTikTokやYouTubeがZ世代に人気である背景でもありますが、Nadeshotのメディア施策は100 ThievesのファンであるZ世代の心を強く掴んだと言えるでしょう。

自社内で完結してしまうインフルエンサーマーケのサイクル

100 Thievesには前述した動画コンテンツの他にもう一つ大きな特徴があります。それはeスポーツ、アパレル、エンターテインメントメディアが相互に知名度を大きくする相互作用を持っているということです。

かつて若者に影響力のあるインフルエンサーが特定のアパレルブランドの商品を身につけることでそれが爆発的に流行するという現象はこれまで多くありました。カニエウエストやジャスティンビーバーが着用したことで爆発的に流行したsupuremeやoff-whiteなどはその際たる例ではないでしょうか。

100 Thievesのアパレルラインはスタイリッシュに着こなせるストリート系のデザインであり、そのデザインの洗練度からアパレル単体でも相当な知名度を誇っています。その点では他のスポーツクラブの「いかにもそのクラブのサポーター」といったグッズとは一線を画してると言えるでしょう。

さらに100 Thievesのアパレルラインでは、様々な有名ブランドとのコラボも実施してします。2018年にはスポーツブランドのNikeと、そして2021年にはラグジュアリーブランドのGUCCIとのコラボレーションも予定しています。今後より多くのアパレルブランドとのコラボも実現していきそうです。

100 Thieves のアパレルラインはモデルとして100 Thievesのeスポーツプレイヤーやインフルエンサーを起用しています。100 Thievesのアイコンであるハーグ氏や、所属するプロゲーマーやクリエイターたちは、100Thievesのチェンネルに登場する際には全員が100 Thievesのアパレルグッズに身を包んでいます。そのため、100 Thievesのアパレルグッズは非常に注目度が高く、発売から数分で売り切れることも多いそうです。

またアパレルラインのファンだった人々がアパレル商品の購入をきっかけにYouTubeやポッドキャストを視聴するようになることも多く、強い相互作用が働いていることがわかります。従来のインフルエンサーマーケはあくまでインフルエンサー知名度を利用するだけのものであり一方通行だったと言えます。しかしこれは従来のインフルエンサーマーケとは異なる手法であり、インフルエンサーとアパレル相互にメリットがある形となっています。

動画から入ったファンはeスポーツチームとアパレルへ、アパレルから入ったファンは動画とeスポーツチームへ、eスポーツチームから入ったファンはアパレルと動画へ。100 Thievesが数あるeスポーツチームの中で頭ひとつ抜けた理由はこの事業の相互作用をうまく利用したことでは無いでしょうか。

100 Thievesの歴史

前述の通り100 Thievesは「Nadeshot」としても知られる元プロゲーマーのマシュー・ハーグ氏が設立した企業です。ハーグ氏はプロゲーマーとしてキャリアをスタートし、その後YouTube上でインフルエンサーとして活躍しました。ハーグ氏は自身のeスポーツプレイヤー、そしてインフルエンサーとしての経験を活かし、eスポーツ・YouTube・ストリーミング・アパレルという異なる分野を結びつけたエンターテインメント企業として100 Thievesを立ち上げたわけです。

CEOのハーグ氏

100 Thievesが最初に大きな活躍を見せたのは2017年の後半のことでした。名だたる有名企業がバックについたeスポーツチームと同じく、League of Legendsのプロリーグに参戦することとなります。その後、100 ThievesはフォートナイトやCall of Dutyといった人気タイトルのeスポーツチームも持つようになり、同社の3つの軸である「ゲーム」「コンテンツ」「アパレル」をそれぞれ独自の方法で拡充しています。

しかし100 Thievesの初期のアパレルグッズは他企業のものよりも少し優れている程度で、映像コンテンツもドキュメンタリー風の緊張感のあるものではあったものの、特に新しいものではなかったようです。

これについてエンターテインメント部門を率いるジャクソン・ダール氏によれば、初めは他社が制作する映像コンテンツのクオリティに近づけるだけで精一杯でしたが、徐々に自社オリジナルのコンテンツを考えるようになったそうです。

FortniteやMinecraftといった人気コンテンツのプレイ実況ではなく、プレイする人や関係者のパーソナリティに焦点を当てたコンテンツを取り扱う現在のYouTubeチャンネルは100 Thievesが独自の方向性を模索した結果のようです。

アパレルラインでは2019年7月にはストリートブランドのReigning Champからダグ・バーバー氏を引き抜き、100 Thievesのアパレル分野の副社長に就任させています。バーバー氏はReigning Champで洋服のデザインからブランドの管理、小売店の監督まで行っていたようで、100 Thievesでもハーバー氏はブランド全体の監修を行なっています。

100 Thievesのアパレル現象をより大きく持続的なものにしていくことこそがバーバー氏の目標だそうで、「我々はeスポーツビジネスをサポートするための商品を作成しようとしているだけでなく、本当のアパレルブランドを作りたいと思っているのです。それこそが100 Thievesを他のeスポーツ団体と差別化する手段になると考えています」と、アパレル部門の担う役割の重要さについて語っています。

ハーグ氏とラッパーのドレイク氏

また、2018年10月には人気ラッパーのドレイク氏が100 Thievesの共同オーナーとなるなど、eスポーツ関係者以外の著名アーティストを迎え入れ特徴的な経営を行っています。

このように100 Thievesは、CEOのハーグ氏がeスポーツ、メディア、アパレルの3つを中心にコンテンツを作ることを決定して実行していただけではありません。メディア、アパレルなどのそれぞれの責任者がいかにして他社と差別化するかを考え抜いた末に生まれた形であるようです。

資金調達とまとめ

資金調達

1.SeriesA
 調達日:2018年10月23日
 調達額:25M$を調達
 出資者Sequoia CapitalCounterpart Advisors
     Green Bay VenturesMatthew Haag
Sequoia CapitalはApple、Google、zoomをはじめとした名だたる     スタートアップに投資しています。

2.SeriesB
 調達日:2019年7月16日
 調達額:35M$を調達
 出資者:Artist Capital ManagementMarc Benioff
     Sequoia CapitalDrew HoustonChris M. Williams
     Aglaé Ventures
Marc BenioffはDrop boxの創設者兼CEOです

※太字はリードインベスターです。

まとめ

前回執筆した、日本のeスポーツ市場の問題について、この100 Thievesは解決の手掛かりを与えているかもしれません。eスポーツ関連のスタートアップは大会などの運営に特化したものと、eスポーツチーム、またはメディアやツール関係に大別されます。日本のeスポーツプレイヤーは世界のeスポーツプレイヤーと比較すると圧倒的に知名度が無いことが特徴です。

もちろん国や企業の支援が成長には必要ですが、eスポーツ企業自体がeスポーツのコンテンツを開発していくことが必要不可欠です。いかにしてeスポーツを注目させるのかということを目標に新たなビジネスを作り出していかなければいけません。そのような意味で言えば、差別化されたメディア、そのブランド単体でも人気を誇るクオリティの高いアパレルブランド、そして何よりもコンテンツの相互作用の利用は非常に挑戦的で、eスポーツの新しい可能性を示すものでは無いでしょうか。

100 Thievesのハーグ氏の考える新しいeスポーツ団体というのは、ただ大会で勝つだけでなく、自分たちが作り上げたコンテンツやソーシャルメディア上のチャンネルに多くの人々がアクセスする、巨大なファン層を持った団体になることだったそうです。現在の100 Thievesは実際にその目標に近づきつつあります。eスポーツコンテンツの新しい形を目指す100 Thievesに今後も注目です。

引用・参考
eスポーツ業界で最も成功した企業「100 Thieves」とは?
【猿でもわかるeスポーツ経営学】eスポーツチームの運営に必要なこと
HOW 100 THIEVES BECAME THE SUPREME OF E-SPORTS
最弱と呼ばれた‟100 Thieves”の軌跡 ‟CWL London”優勝までの道のり
Gucci To Step Further Into Gaming With 100 Thieves Capsule Collection
The news comes straight from the 100 Thieves camp this morning, detailing the addition of Doug Barber as Head of Apparel.
Nadeshot Reveals Why 100 Thieves is Exiting CS:GO

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