著者: たかはしゆうじ( @jyouj__ )
起業する際の悩みとしてまず一番に挙げられるのが、「共同創業者」をどうするかという問題です。課題や初期の企業に求められる要件が複雑になるにつれ、一人で会社を創業することが難しくなっています。そのため、昨今では複数人での起業がメジャーになっています。
しかし、ビジョンが通じ合い、お互いにサポートしあえる共同創業者をどこから見つけてくればいいでしょうか?また、友人と起業すると分裂して失敗するという都市伝説も界隈では囁かれたりしますが、果たしてそれは本当なのでしょうか?
起業は十人十色なので、はっきりとした答えを提示することはできません。しかし、今成功している企業の共同創業者の出会いを見ていくと何かヒントがあるかもしれません。これらを通して、自分の周囲の人間関係を観察し、最適なビジネスパートナーを見つけていただけると幸いです。
今回、調査対象にしたのは2021年6月末に時価総額世界トップ100位となっている企業(カナダロイヤル銀行を除く)の創業時の人数と創業者間の出会いです。
創業時の人数は?
まずは創業時の人数について調べてみました。設立時から複数人が関わっていたり、2つ以上の企業の(対等に近い)統合によって成立したりした企業は「分離・独立」「合併」として別個に扱っています。また、国有企業(主に中国系の企業)やルーツが国家である企業は「政府系」と分類しています。
一人での創業
一番多いのが一人での創業でした。ただし、会社設立においてはさまざまな人が関わってくるのでここでは一人が主導した企業という言い方が適切かもしれません。
ジェフ・ベゾスが設立した“アマゾン・ドット・コム”、台湾の“TSMC”、米国最大の小売チェーン“ウォルマート”、スイスの“ネスレ”などが挙げられます。歴史の長い企業や一つの発明を契機に設立された企業に多いです。
二人での創業
二人で創業された企業がその次に多いです。もちろん株式の割合は片方に偏っていることが多いですが、お互いがパートナーとして支え合っています。
ビル・ゲイツとポール・アレンが設立した“マイクロソフト”、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの“Google(現Alphabet)”、マーティン・エバーハードとマーク・ターぺニングの“テスラ・モーターズ”が有名でしょう。他にも“アドビ”、“P&G”、“ナイキ”、“ネットフリックス”、“コストコ”なども二人の創業者によって作られました。
三人での創業
割合としてそこまで大きくありませんが、三人での創業も見られます。主にテック企業に見られます。
三人創業で最も成功している企業は“アップル”でしょう。スティーブ・ジョブズ、スティーブ・ウォズニアック、ロナルド・ウェインによって設立されました。ただし、ウェインは設立後すぐにアップルを去りました。他には、“エヌビディア”、“ペイパル”、“ジョンソン&ジョンソン”、“オラクル”、“ショッピファイ”などが挙げられます。
四人・五人での創業
かなり少数派ですが、四人・五人で創業した企業もあります。こちらはインターネット関連企業、半導体、日用品などさまざまな業界に見られます。
世界最大のSNS“フェイスブック”や中国最大のインターネット企業“テンセント”、“コカ・コーラ”、“テキサス・インスツルメント”、“SAP”が挙げられます。
政府系
中国に多いですが、政府主導で設立された企業です。金融や石油などの国家インフラに多いです。“中国工商銀行”や“中国建設銀行”などの中国四大銀行やサウジアラビアの“サウジアラムコ”、ヒトラーの国民車計画によって設立された“フォルクスワーゲン”などが挙げられます。
独立・合併
スピンアウトやスピンオフした独立企業は旧財閥の流れを汲んでいる企業に多いです。アメリカのモルガン財閥から派生している“JPモルガン・チェース”と“モルガン・スタンレー”、ロックフェラー財閥のスタンダード・オイルから分離した“シェブロン”、“エクソン・モービル”が挙げられます。
他にはベル系通信会社のAT&Tから分離した“ベライゾン”やインドの“リライアンス”、AIGから独立した“AIAグループ”などです。
一方、2社以上の企業がほぼ対等に統合した企業は製薬、石油、ファッションなどに見られます。“サーモフィッシャー”、“ノボ・ノルディスク”、“アストラゼネカ”、“LVMH”、“ユニリーバ”などです。
“共同創業者”との出会いは?
さて、二人以上で創業された企業の創業者は果たしてどのようにして出会ったのか?見ていきたいと思います。
同僚・仕事仲間
一番多いのが職場の「同僚」でした。毎日顔を合わせ、仕事を一緒にしていくので相手の思考回路や仕事ぶりを把握できます。ビジネス上の信頼関係を築きやすいのでしょう。また、「仕事仲間」はクライアントや取引相手とともに起業した例です。これも同僚と同じくはじめからビジネス上の信頼関係を構築しやすい関係です。以下、それぞれの企業を見ていきます。
- “ホーム・デポ”。Handy Danのメンバーだったバーナード・マーカスら3名と似たような事業を考案していたパット・ファラが設立。
- “アドビ”。ゼロックス研究所に勤めいていたジョン・ワーノックとチャールズ・ゲシキが処遇に不満を持ち退所して設立。
- “ネットフリックス”。リード・ヘイスティングスが自身が以前設立したPure Softwareの従業員マーク・ランドルフと共に設立。
- “インテル”。ショックレー研究所のメンバーだったロバート・ノイスとゴードン・ムーアによって設立。
- “オラクル”。ラリー・エリソンとボブ・マイヤーがアンペックスという会社で出会い、エド・オーツの会社に二人ともジョイン。その後三人で設立。
- ドイツの”SAP”。IBMのエンジニアだった5人により設立。
- “コムキャスト”。ラルフ・J・ロバーツと取引相手だったジュリアン・A・ブロドスキー、顧問のダニエル・アーロンと共同でケーブルテレビ事業者を買収したことから始まる。
兄弟
次に多いのが「兄弟」です。小さい頃から一緒に育ってきたため、親愛の情だけでなく、考え方・ビジョンが似通ってくるのでしょうか。また、ほとんど裏切らないだろうと信頼関係が構築できる距離にいます。例を見ていきましょう。
- “ジョンソン&ジョンソン”。ジョンソン三兄弟によって設立。
- “ウォルト・ディズニー・カンパニー”。ウォルト・ディズニーと兄のロイ・O・ディズニーによって設立。
- 医療機器メーカー”ダナハー”。レイルズ兄弟が不動産投資会社を設立し、その後製造業者を買収する企業となり今のダナハーとなる。
- 心臓ペースメーカー大手の”メドトロニック”。ミネソタ病院に勤めていたアール・バッケンと義兄のパルマーによって設立。
- “コカ・コーラ”。ベンバートン博士から権利を買収したエイサ・G・キャンドラとその弟、ベンバートン博士のビジネスパートナーであったフランク・メイソン・ロビンソンらによって設立。
友人・友人の紹介
「友人」と起業すると失敗するイメージがなぜか一部ではありますが、成功している企業の中でもかなりの割合で友人との起業が見られます。ここでは「大学」「中学・高校」以外で出会った友人や友人からの紹介で出会った人物をカテゴライズしています。別カテゴリにしている「大学」「中学・高校」も友人に含んでしまえば、一番主流な共同起業スタイルと言えます。
- “アップル”。スティーブ・ジョブズが友人の紹介でスティーブ・ウォズニアックと出会う。その後、アタリで同僚だったロバート・ウェインを入れて3人で創業。
- “テスラ・モーターズ”。懇親会で意気投合したマーティン・エバーハードとマーク・ターペニングがNuvoMediaを設立。売却後、二人で新たにテスラを創業。
- “ペイパル”。ピーター・ティールと友人に紹介され知り合ったマックス・レヴチンが設立したConfinityが前身。その後、イーロン・マスクのX.comと合併し、成立。
- “ボーイング”。ウィリアム・E・ボーイングと友人の海軍技師ジョージ・コンラッド・ウエスターバレットによって設立。
大学
上でも述べたように「友人」ではあるが、知り合ったのが「大学」である企業のみを別カテゴリに抽出しました。学生起業や大学の研究開発する企業の例に多いです。同じ学力や価値観を持っていることが多いです。
- “グーグル”。スタンフォード大学でラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが出会う。その後、論文を共著し、それを取り入れたプロジェクトとして開始。
- “フェイスブック”。ハーバード大学のマーク・ザッカーバーグとそのルームメイトたちで創業。その後、関係性が悪くなっている。
- “ナイキ”。オレゴン大学陸上部の教え子とコーチが設立。
中学・高校
これも上で述べた通り、「友人」ではあるが、出会った場所が「中学・高校」である企業を抽出しました。思春期を共に過ごしていることから、信頼関係と価値観が似てきます。
- “マイクロソフト”。シアトルのレイサイドスクールの後輩・先輩であったビル・ゲイツとポール・アレンが創業。アレンがハーバード大学に進学したビル・ゲイツを説得して起業したと言われている。
- “テンセント”。大学卒業後、深圳の中学校で同級生だった馬化騰、張志東、陳一丹、許晨曄らにセールスのスペシャリスト曽李青が加わり、設立。
親戚・夫婦
最後のパターンは「親戚」と「夫婦」です。兄弟ほど深い関係とは言えませんが、それなりに信頼関係を構築できる間柄です。夫婦に関しては生活上のパートナーは仕事上のパートナーにもなり得るのでしょうか。
- “シスコ・システムズ”。夫婦で起業。しかし、その後離婚している。
- “P&G”。妻が姉妹同士だった蝋燭業者のウィリアム・プロクターと接見業者のジェームズ・ギャンブルが義理の父に協力してビジネスを始めるように言われ創業。
- “ファイザー”。従兄弟で創業。
おわりに
世界の時価総額上位企業の”共同創業者”との出会いを見ていきました。「同僚」との起業が最も多く、次いで「友人」や「兄弟」でした。友人と起業して成功している会社も多いようです。意外にも兄弟での起業での成功例が散見でき、血のつながりはビジネスでのつながりにおいても強固なのだと思いました。
ビジネスは同じ価値観や信頼性がないと失敗します。テンセントのように中学の同級生と大学卒業後に起業することがあるかもしれません。自分の周囲にいる価値観の合う人、信頼できる人は大事にしたいものですね。
今までの出会い、そしてこれからの出会いに幸あれ。
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