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Shield AI: アフガン戦争を支えたユニコーン

2021.8.30

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著者: たかはしゆうじ( @jyouj__ )



2021年8月、ついにアメリカ史上最も長かった「アフガン戦争」が終結しました。アメリカ軍によるアルカイダ壊滅作戦は一定の成功を修めた一方で、アフガン現地政府の汚職やアフガン正規軍の士気の低下、部族間の利害関係からタリバンの勢力が次第に復活していました。そして、バイデン大統領によるアメリカ軍の撤退宣言を契機に、タリバンは次々と要所を攻略し、短期間のうちにほぼ全土を掌握しました。

アフガン戦争はアメリカにとって極めて理想的でない形で終了したのです。グレートゲームの時代に三度の戦争を行ったイギリス、冷戦末期に軍事介入したソ連に続き、アフガニスタンで合衆国の墓標が建てられることになりました。多くの人命とお金と努力が失われる事態になったのです。


一方で、この戦争遂行はアメリカの軍需企業に莫大な利益を与え、イノベーションを起こさせました。今回、フォーカスする”Shield AI”もこの戦争で頭角を表したスタートアップです。戦争での活躍から終結後に彼らが見据える未来について見ていきます。


軍事大国とアフガン戦争

アメリカにとって軍需産業は大きな存在です。広義の軍需経済はGDPの約3%を占める巨大な産業です。ロッキードやボーイング、レイセオンといった巨大な軍事企業がアメリカの覇権を支えています。アメリカが「世界の警察」として君臨できているのは軍事費が世界の軍事支出の4割を占めているからなのです。2位の中国の3倍以上の数字です。

圧倒的な軍事力を武器に、第二次世界大戦、朝鮮戦争、南米への軍事介入、冷戦の軍拡競争、湾岸戦争など中東で起きた一連の紛争を勝ち抜いてきました。戦争によって、大きなお金が軍事企業に流れてきます。それにより、多くの研究が実行され、新たなイノベーションが絶えず起きてきました。アメリカの軍事企業は文字通り”屍”とともに成長してきました


21世紀に入り、アメリカは新たな脅威と向き合わなくてはならなくなりました。そう、テロリストです。2001年に起きた”9・11同時多発テロ”を発端にして、対テロ戦争の渦に飲み込まれていきます。テロの実行組織であるアルカイダの司令官オサマ・ビンラディンの身柄要求を拒否したアフガニスタンにアメリカと同盟国が侵攻を開始したことから「アフガン戦争」が始まります。当時のアフガニスタンの支配者がタリバンです。

「不朽の自由作戦」によって、タリバンとアルカイダは一度は事実上壊滅しました。2011年にビンラディンはパキスタンにてアメリカ軍の特殊部隊によって殺害されています。タリバン勢力を掃討する一方で、アメリカは民主的なアフガニスタン政府を作る努力を行いました。また、徐々に外国軍が撤退を始めていきました。

しかし、タリバンはさまざまな要因から勢力を吹き返していきました。また、新アフガニスタン政府では汚職が蔓延しており、軍隊の強化もうまくいっていませんでした。アメリカ社会の中からも、この終わりなき戦争に対しての支出に辟易している声が出始めます。

アメリカでトランプ大統領が誕生し、アメリカ第一主義がとられると、アフガニスタンからの撤退の機運が高まりました。そして、バイデン大統領になってもこの方針は引き継がれ、2021年8月末に撤退することが決まりました。

そして、このタイミングでタリバンは全土攻勢を行います。多くの州を掌握し、最終的に8月15日に首都カブールが陥落しました。タリバンの復権という形でアメリカの20年戦争は終結しました。


Shield AIの歩み

この戦いで中東に派遣されたアメリカ軍は多くの危険と隣り合わせでした。タリバンらはゲリラ戦などを行っており、アメリカ軍は建物の中に潜伏した戦闘員や兵器などの脅威に晒されていました。

これを解決したのが“Shield AI”でした。彼らが開発したAIソフトウェアを搭載したドローン部隊が人間に先行して建物に侵入し、待機している兵士に建物内部の地図や写真を送信するソリューションを軍に提供しました。米軍は同社の技術をアフガニスタンだけでなく、シリアやイラクでも利用しています。


Shield AIは2015年に、海軍出身のBrandon Tsengと同僚によって設立されました。彼らが現場で体験した課題を解決するために技術が開発されました。2016年にシードで200万ドル調達しました。その後もa16zなどの著名VCから資金調達を行っています。

同社の成長は凄まじく、2020年には約1700万ドルにものぼる軍事契約を国防総省と締結しました。合衆国政府との取引をさらに進めるため、政府関係の部署を設置し、ロビイストを雇い、ロビー活動を積極的に推し進めています。

また、買収も積極的に行っており、今年の7月には2社の軍事企業を傘下に収めました。“Heron Systems”は戦闘機向けに制御ソフトウェアを開発しており、“MartinUAV”は垂直離着陸無人航空機を開発しています。Shield AIは二つのシステムの統合を行おうとしています。

そして、2021年8月24日に、Shield AIはシリーズDで2億1000万ドルを調達し、ユニコーンとなりました。軍事スタートアップでユニコーンとなっている例は割と稀有です。しかし、アフガンでの戦争は終わります。果たして、Shield AIはいかなる展望を描いているのでしょうか。


アフガン戦争後の未来

アフガニスタンからの撤退により、アメリカの対テロ戦争はとりあえずの区切りができました。もちろん、シリアやイラクにはいまだに駐留している部隊もありますが、時代の節目が来たことは確かでしょう。アメリカは戦争をやめ、軍備を縮小するのでしょうか。

アメリカにとって、現在最も脅威になっているのが中国です(あるいは、ロシアかもしれません)。最近では、中国の軍事力はアメリカを超えている、あるいは近い将来超えるのではないかという言説がよくみられます。真偽はともかく、アメリカの中国に対しての関心の度合いは21世紀初頭に比べると格段に上がっています。

いま世界は対テロ戦争から大国間の軍拡競争の時代に回帰しつつあります。そして、競われる軍備は空母や戦車ではなく、人工知能やドローンといったハイテク技術です。Shield AIはその中で重要なポジションを狙っています。実際に戦争が起こるかどうかは低いと予想されますが、冷戦期のような大国の政治対立による地域紛争が起こる可能性は否定できません。


現在のShield AIの製品は兵士に危険を教えたり、兵士と連携するものです。ミッションは「兵士と民間人を保護するAIの開発」です。今のところ、兵器の製造に深い関心があるわけではありません。防衛以上の技術を開発できる素養は既にあります。

大きな力が平和をもたらすことは否定できません。Shield AIは世界を平和にするのでしょうか、それとも世界を恐怖に落とす要因の一つとなるのでしょうか

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