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旧ソ連地域のスタートアップ

2021.9.29

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著者: たかはしゆうじ( @jyouj__ )



1990年代は二つの歴史的な出来事によって、世界がより一帯化、緊密化しました。ソ連および東欧社会主義国家の崩壊とインターネットの普及です。ソ連の崩壊により資本主義市場は新たなフロンティアを見つけ、旧社会主義国家の中枢に瞬く間に入っていきました。

旧社会主義国家は途端に外資系企業の質が良く、安価な商品に飲み込まれていきます。そして、自由な気風を肌で感じることなります。不幸中の幸いとも言うべきことでしょうか、社会主義国家は国家威信の掲揚を目的として、教育や科学技術、スポーツの振興に力を入れていました。

このことは逆に共産主義圏に閉じ込められていた秀才たちを世界市場に解放することを意味していました。そして、当時のトレンドでもあったインターネットの普及と相まって、旧共産主義圏で起業家たちが次々に名乗りを上げていくのです。

この記事では各地域を代表する起業家およびスタートアップを見ていきたいと思います。


#01. エストニア

IT業界に造詣の深い人ならおそらく旧ソ連圏でスタートアップの盛んな地として真っ先にエストニアを思い浮かべるでしょう。バルト海周辺に位置する小国で、日本の一地方都市としか人口の変わらない同国ではあるが、国家政策としてITの振興を行っています。

エストニアを代表する成功企業はSkypeです。当時革新的であったP2P技術を使ったクロスプラットフォーム対応の通話機能を提供して、一気に脚光を浴びました。Skypeは実際のところ、本社はルクセンブルクにあり、創業者もデンマーク人とスウェーデン人というように、エストニアと関係なく思えます。しかし、Skypeの開発拠点はエストニアのタリンであり、エンジニアメンバーの多くがエストニア人であったことから、エストニアがSkypeを産んだと言っていいでしょう。

そして、Skypeの従業員であったエストニア人が創業したWise(旧名: TransferWise)”は今最も注目を浴びているスタートアップとして名高いです。国際送金サービスではありますが、実際には国家を超えない非常にユニークなサービスです。仕組みは送金者から受取人に直接送金するのではなく、それぞれの国で同じ送金ニーズを求める人をマッチングさせ国内で完結させてしまうというものです。同社も拠点はエストニアにはありませんが、創業者がエストニア人であることが注目される点です。

エストニアは他にも注目すべきスタートアップがいくつも立ち上がっています。ユニコーンとなった“Bolt”は配車サービスとタクシー会社向けに車両管理サービスを提供しています。“Skelton”は電気自動車向けに充電時間とコストを削減できる「SuperBattery」を開発しています。また、配達ロボットを開発する“Starship”などディープテック寄りの企業が多いのも特徴的です。


#02. アルメニア

アルメニアは耳馴染みのない国かもしれません。ソヴィエト連邦の構成国家で、崩壊後成立しました。幾度となく紛争を経験しているこの国ですが、徐々に安定を取り戻し、米国や西欧に散った才能ある起業家の帰還やロシアおよびウクライナから多くのエンジニアが流入することで活気を取り戻しています。

最も有名なスタートアップはPicsArtです。日本でも使っている人の多いこの画像編集アプリはアルメニアから生まれました。本社自体はサンフランシスコにあるのですが、従業員のほとんどはアルメニアにいます。同社はユニコーンになったばかりで、従業員の半数近くが女性ということもあり、テクノロジー企業の中でも一際注目を浴びています。

PicsArtもそうでしたが、創業者が元々学者であったというスタートアップがアルメニアには多くあります。“2hz”は米国帰りの起業家とエレバン州立大学の学者が共同設立しました。同社はバックグラウンドのノイズを抑え、通話体験を向上させる技術を開発しています。

アルメニアには他にも、ビデオ制作ツールの“Renderforest”“D’efekt”が生まれました。D’efektはPicsArtが2020年に買収しています。


#03. ロシア

ソヴィエト連邦の主要構成国であったロシアは教育水準が高いことで有名です。かのGoogleの創業者セルゲイ・ブリンもロシア出身のユダヤ人であることはかなり知られているでしょう。そんなロシアでもアメリカに負けず劣らずのスタートアップが出てきています。

ロシア発のサービスで馴染みがあるのは“Telegram”でしょう。2013年に開発された秘匿性の高いメッセージアプリです。現在はベルリンに拠点を置いていますが、たびたびロシア政府からの規制を受ける憂き目に遭っています。Telegramはその秘匿性の高さからテロリストや犯罪集団にも愛用者が多いとの評判です。かつてはGoogleが買収を検討したこともありました。

また、高い技術力を有するスタートアップの多さも特筆すべきところです。Rock Flow Dynamicsは石油ガス開発向けのモデリングソフトウェアを、“SCONTEL”は超薄膜超電導フィルムを用いた検出器を開発しています。他にも画像解析、AI分野などに秀でた企業を多く輩出しています。

一方で、ロシア出身の起業家のグローバルでの活躍も目立ちます。イギリス発のチャレンジャーバンク大手の“Revolut”の創業者ニコライ・ストロンスキーはロシア出身です。日本でも話題になった顔加工アプリ“FaceApp”もロシアのチームが作っています。


#04. おわりに

今回は旧ソ連地域のスタートアップエコシステムの様子について見ていきました。かつての閉塞的な雰囲気から解放された彼らは持ち前の頭脳とアイディアを活かし、世界中に羽ばたいています。全体的にまだこの地域ではユニコーンとなるスタートアップは少ないですが、ニッチでユニークなサービスも多く登場しているので目が離せません。

また、東欧に目を向けると、エストニア以外のバルト海周辺諸国(リトアニア、ラトビア)でも、スタートアップエコシステム発生の息吹が、ポーランドでは少し成熟してきている様子が見られます。


イデオロギーを超えて、人類の発展に全ての人間が寄することのできる社会となっていることを切に願って。

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