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地震・暴風雨・森林火災…自然災害に立ち向かう世界のスタートアップ

2021.10.19

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ANOBAKAの松永です。
月初の関東の地震では、いくつかの路線が止まり多数の帰宅難民が出ました。 (弊社でも、電車が動かずホテル泊になるメンバーが出るなど影響を受けました。)

我々は自然災害のリスクの元に生きている、ということを改めて認識する機会となりました。

地震の脅威だけではなく、気候変動の影響か、近年は大型化する台風、毎年のような大雨・洪水被害など自然災害のリスクの高まりを感じている方も多いのではないでしょうか。

自然災害は日本だけでなく、世界各国で日々発生しています。
今回は、そんな自然災害のリスクに立ち向かうスタートアップを紹介したいと思います。

◆自然災害のリスクの高まり

世界気象機関(WMO)の直近のレポートによると、天候・気候または水の危険に関連する災害で、1970年-2019年の50年間で、1日あたり平均で115人が死亡し、1日あたり2億200万米ドルの損失が発生したそうです。

そして、自然災害の数は、気候変動、異常気象、報告システムの改善により、50年間で5倍に増加しました。

ただ一方で、早期警戒システムと災害管理の改善のおかげで、死亡者数はほぼ3分の1に減少したといいます。
1970年代は一日あたり170名の命が自然災害の犠牲になっていましたが、2010年代では一日あたり40名にまで減少しています。

経済的損失は、1970年代から2010年代にかけて7倍に増加しています。

1970年から1979年に報告された損失額は、(10年間の平均で1日あたり)4,900万米ドルで、2010年から2019年に報告された損失額は3億8,300万米ドルにまでなっています。

経済的損失については、暴風雨(5,210億米ドル)、洪水(1,150億米ドル)などが被害ランキングで上位にランクインしています。

Weather-related disasters increase over past 50 years, causing more damage but fewer deaths
https://public.wmo.int/en/media/press-release/weather-related-disasters-increase-over-past-50-years-causing-more-damage-fewer

最も被害額が大きい10の災害のうち、3つが2017年に発生しました。
ハリケーン「ハービー」(969億米ドル)、「マリア」(694億米ドル)、「イルマ」(582億米ドル)です。 この3つのハリケーンだけで、1970年から2019年までの世界の上位10の災害の経済損失総額の35%を占めています。

気候変動問題をはじめとした地球環境の危機
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/pdf/1_1.pdf

近年は森林火災の被害も増えており、2019年を通じてシベリア、アラスカなどの北極圏で火災が発生し、夏期森林火災によるCO2排出量はここ17年間で最高を記録しました。
オーストラリアでも、2019年9月から、長期的かつ広範囲にわたる山火事が発生し、2020年初めで、延焼面積700万haを記録しています。

近年の自然災害の数と被害額は増加の一途を辿ります。
次からは、そんな人類の危機に立ち向かう新興勢力を紹介します。

◆天候・気候関連のスタートアップ

◆Jupiter Intelligence

企業名: Jupiter Intelligence
HP: https://jupiterintel.com/
設立年: 2017年
創業者: Eric Wun, Josh Hacker, Rich Sorkin
本拠地: カリフォルニア サンマテオ
累計資金調達額: 3,400万ドル ※シリーズB

Jupiter Intelligenceは、世界的に著名な科学者や経営者からなるチームで構成されています。

中長期的な気候変動によって引き起こされる天候や海面上昇、暴風雨の激化、気温上昇などのリスクをより的確に予測管理するための次世代気候リスク解析システムを提供。

変化する気候の中で、その天候によるリスクを、現在から今後50年間にわたって予測した情報を提供します。
現在、ニューヨーク市、南フロリダ、大西洋岸の気候関連のリスク評価と管理に焦点を当てており、グローバルな展開を進めています。

また2021年9月には、日本初のESG重視型ベンチャーキャピタルファンドであるMPower Partners Fundも投資を行っています。

◆Atmo

企業名: Atmo
HP: https://www.atmo.ai/
設立年: 2019年
創業者: Johan Mathe
本拠地: カリフォルニア ベイエリア
累計資金調達額: 220万ドル ※シード

元GoogleXのJohanMatheが設立し、Y Combinatorのアクセラレータに参画。
気候変動と天候は、私たちの日常生活とビジネスに大きな影響を与えています。Atmoのシステムを使えば、再生可能エネルギー(太陽光発電や風力)からマラリアの発生、農産物の収穫から火災の発生まで、天候から影響を受ける様々な事象をデータ解析から予測することができます。

「風が吹けば桶屋が儲かる」

を国家・企業が見通すことを助けるサービスを構築しています。

◆森林火災関連スタートアップ

◆OroraTech

企業名: Orora Technologies
HP: https://ororatech.com/
設立年: 2018年
創業者: Björn Stoffers, Florian Mauracher, Rupert Amann, Thomas Grübler
本拠地: ドイツ バイエルン
累計資金調達額: 7,4万ユーロ ※シリーズA

OroraTechは静止軌道と低軌道の衛星からの熱赤外線画像を分析し、山火事の発生を監視することが可能です。

森林火災を早期に発見し、火災管理計画を実行できるユーザー(消防等)に、災害が発生する前に消火活動に取り組むことが可能です。

また、火災後の損傷とその地域の山火事のホットスポット検出の履歴データを分析することもできます。

林業サービスや保険会社、森林を管理する製紙会社に至るまで、さまざまな公的および民間の顧客と提携しています。OroraTechから通知を受け取ると、提携機関は、消火活動に動き出します。

◆Gridware

企業名: Gridware
HP: https://gridware.io/
設立年: 2020年
創業者: Abdulrahman Bin Omar
本拠地: カリフォルニア サクラメント
累計資金調達額: 530万ドル ※シード

Gridwareは、電柱に取り付ける、配電網用のセンサーとソフトウェアからなるグリッドモニタリングシステムを提供しています。

山火事の原因の一つに、山に引かれた送電網の故障による発火というものがあります。
その防止のため、電柱に簡単かつ恒久的に設置できる低コストのハードウェアを取り付け、状況をモニタリングを行います。

山火事の原因となる故障を検知・予測し、停電が起こった際も修理を迅速に行うことを可能にします。

◆DroneSeed

企業名: DroneSeed
HP: https://droneseed.com/
設立年: 2015年
創業者: Grant Canary, Ryan Mykita
本拠地: ワシントン、シアトル
累計資金調達額: 4,130万ドル ※Series A


DroneSeedは、山火事の後にドローンを使用して再植林します。
山火事は森林の生態系を大きく破壊するため、速やかな回復を図る必要がありますが、植林には大きな費用・人手・時間がかかってきました。
DroneSeedの場合は、火災から30日後にはドローンで種子を散布すことができ、さらに土地を再植林した後にカーボンクレジットを販売するという新しいビジネスモデルを設計しました。

◆地震関連スタートアップ

◆Safehub

企業名: Safehub
HP: https://www.safehub.io/
設立年: 2015年
創業者: Andy Thompson
本拠地: サンフランシスコ ベイエリア
累計資金調達額: 1,400万ドル ※シリーズA

地震データ分析のスタートアップ。
Safehubのセンサーは、地震発生時の建築物へのダメージを即座に収集し状況を共有できます。
低コストで簡単に設置できるように設計されており、地震の揺れや建物の反応、建物の固有振動数の変化などを測定。
測定された情報は、建物へのダメージや関連するビジネスの損失推定に使用されます。

地震が発生した場合、地震発生後数分以内に、ダメージ情報と金銭的損失の予測を経営者は知ることができます。

また、地震による建物への影響を構造データで把握することができるので、企業は保険やリスク軽減プログラムを見直すことができます。

◆ISAAC

企業名: ISAAC
HP: https://isaacantisismica.com/en/
設立年: 2017年
創業者: Alberto Bussini
本拠地: イタリア ミラノ
累計資金調達額: 2.2Mユーロ ※シード

イタリア・ミラノ発のスタートアップで、2019年にプレシード調達、2021年にシード調達を終えたばかりの新興起業。
耐震基準は法改正により変化しており、日本でも新築の建物ほど新しい耐震基準が適応され、耐震性が高い作りとなっています。

しかし、もともと建てられていた建物に対するソリューションも必要です。
柱・壁面を補強することも一つの手かもしれませんが、ISAACのソリューションはとてもスマートです。
建物の最上階にプロダクトを設置して保護することで、地震時の被害を最小限に抑え、居住者の安全と快適性を確保します。
大きな工事は不要で、建物に傷をつけることありません。

今回紹介した「天候・気候」「森林火災」関連のスタートアップは、その性質上、多くは省庁・自治体、警察消防のような公共機関の顧客を多く抱えています。一方、「地震関連」のスタートアップは民間向けのサービスとなっており、企業ひとつひとつの防災への意識の高まりがビジネスに繋がっていくモデルです。

今後、自然災害の規模や回数は増加することが予想される中で、よりよいソリューションを提供するスタートアップが今後も増えていくことでしょう。

参考:
Weather-related disasters increase over past 50 years, causing more damage but fewer deaths
https://public.wmo.int/en/media/press-release/weather-related-disasters-increase-over-past-50-years-causing-more-damage-fewer

気候変動問題をはじめとした地球環境の危機 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/pdf/1_1.pdf

Earthquake data analytics startup Safehub raises $9M
https://siliconangle.com/2021/04/27/earthquake-data-analytics-startup-safehub-raises-9m/

German startup raises funding for wildfire monitoring satellites
https://spacenews.com/german-startup-raises-funding-for-wildfire-monitoring-satellites/

OroraTech develops the first global wildfire intelligence service
https://apfmag.mdmpublishing.com/ororatech-develops-the-first-global-wildfire-intelligence-service/

Weather forecasts get an AI update with Atmo as businesses grapple with climate-related catastrophes
https://techcrunch.com/2020/11/18/weather-forecasts-get-an-ai-update-with-atmo-as-businesses-grapple-with-climate-related-catastrophes/

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