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“In Real Life”から”In Remote Life”へ!仮想イベントカレンダー、IRLの躍進

2021.10.27

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執筆者武内樹心

2019年に発生した新型コロナウイルスの流行は、私たちの日常を大きく変えました。人々の対面での交流はことごとく禁じられ、様々な領域が大打撃を受けたことは周知の通りです。特にイベント関連の企業は法律などで人々が集まることを禁止されたため、存続の危機に立たされたことは言うまでもありません。

さてカレンダーと言えばイベントを記録するものですが、このコロナ禍ではオンラインイベントに特化したカレンダーアプリが出てくることも必然だったのかもしれません。今回はコロナパンデミックにより「In Real Life」から「In Remote Life」へと舞台を移した新しい形のカレンダーを提供する新星スタートアップ、IRLについて詳しく調べてみました。

1. IRLとは

拠点:アメリカ、サンフランシスコ
資金調達額:1.17億ドル
シリーズ:C

2021年4月3日現在、米国のApp StoreにおけるIRLのランクは第138位で、カレンダーアプリとしては第一位、Googleのカレンダーアプリ(第168位)よりも上位であることがその人気を物語っています。IRLはどのようなサービスを展開しているのでしょうか。

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、IRLを利用するユーザーは急増しました。以前はイベントがどこで開催されるかは非常に重要な点でしたが、In Remote Lifeのコンテンツはオンラインイベントがメインになっており、あらゆる世界中のオンラインイベントに参加できることがIRLの特徴です。まずは簡単に IRLのUIを見ていきましょう。

IRLは従来のカレンダーと比較すると、単純なカレンダー機能の他に様々な新しい機能を備えています。

1.SNSのようなプロフィールとチャット機能

SNSのようにプロフィールにはフォロー、フォロワーの欄があることが IRLの特徴です。フォローした友達がイベントを作成すれば確認することが可能です。またカレンダーアプリとしては珍しくチャット機能も付いており、他のユーザーとのコミュニケーションが可能です。

2.グループ機能

グループ機能では自分が興味のあるイベントを仲間に共有することが可能です。Twitterなどのフォローやフォロワーなどと似た機能でしょうか。ここで作るグループはプライベート状態やパブリックに公開した状態など選択することが可能です。利用の事例としては、大学生が同じサークル内のメンバーにイベント共有する、社内でミーティングやイベントをするなどから、無条件に広く友達を集めるイベントまで様々です。これらのグループは好きな数だけ作成が可能です。

3.検索機能

Exploreは検索機能のことです。世界中のあらゆるオンラインイベントを検索可能です。例えば好きなアーティストの名前を入力すれば、そのアーティストに関連するさまざまなイベントが表示されます。もちろんイベントの種類はeスポーツのトーナメントやバーチャルコンサート、Zoom飲みなど多岐に渡ります。従来のカレンダーはあくまで個人の予定のみを管理することがメインであり、イベントの検索機能は斬新な試みと言えるでしょう。

4.イベント制作機能

イベント制作機能といえばカレンダーアプリでは至って普通の機能ですが、IRLのイベント作成機能には随所に人との関わりを促進する機能が備わっています。従来のイベント作成といえばあらかじめ詳細に計画されたものとしてカレンダーに入れらるということが多かったのではないでしょうか。IRLではイベント作成機能を使って「ビデオチャットをする」「Zoomワークアウト」「ゲームセッション」「Netflixパーティー」などの提案をし、友達とイベントの計画を立てることができます。

これにより、他の人々を招待できるカレンダーイベントが自動的に設定されます。また、イベントの開催日時がはっきりしない場合は、IRLの「Soon(まもなく)」オプションを使用すると、スケジュールは未定のままで、皆が参加できる時間を確認することができることも画期的な機能です。実際、IRLのCEOであるエイブ・シャフィ氏によるとIRLの計画の50%は「Soon」を利用して開始されるとのことです。厳密な時間、日時カレンダーにニーズのギャップがあることがわかります。

私たちが友人と遊ぶ時も案外ざっくりとした予定を立てて、その場の雰囲気で行きたい場所を決めるといったことをしがちです。よりカジュアルに、より使いやすく、より現実に即したカレンダー機能とも言えるのではないでしょうか。

2. 急成長するIRLが取り入れた〇〇な要素とは

レッドオーシャンであるカレンダーアプリ業界でIRLがGoogle Calenderを抑え、カレンダーアプリとして米国のApp Storeでダウンロード数1位を獲得出来た理由は一体何だったのでしょうか。

先ほど私はIRLのUIについて説明しましたが、多くの人がこう思ったのでは無いでしょうか。「これ、本当にカレンダーなの?」「SNSみたい。」と。
IRLが取り入れ、躍進的に成長したものはソーシャルな要素のことです。ではこの「ソーシャル」とは一体何なのでしょうか。

簡単に言えば、他者との何らかの事物の共有でしょう。この他者との何らかの事物の共有のために人々はSNSに多くの時間を費やします。総務省によると、ミレニアル世代のSNSと動画投稿サイトの平均利用時間は1日あたり約2時間とのことです。面白いことが浮かべばTwitterに投稿し、あまりいいねがつかなければがっかりする。逆にInstagramに載せた投稿にたくさんのいいねがつけば嬉しい方は多いでしょう。自分の投稿に共感してくれる人と関わることで私たちは承認欲求を満たしたり、自己肯定感を向上させることができます。

このソーシャルな要素はSNSだけではなくあらゆるサービスに組み込まれています。例えばオンラインゲームなどはその典型的な例です。パズドラや荒野行動などの人気のスマホゲームもその多くがオンライン上の人々と対戦や協力ができる「ソシャゲ(ソーシャルゲーム)」です。

スコアランキングがあれば一人でプレイしていても誰かと競争しているような気持ちになることができます。他者との対戦で協力してハイスコアを出したり好プレーを出せば大きな達成感があります。これらの他者と何らかの形で関わるという「ソーシャル」な要素があらゆるサービスに存在しています。

長々と書きましたが、この「ソーシャル」な要素をカレンダーという個人の予定管理がメインである領域に導入したサービスがこの IRLです。何となくフォーマルなイメージがあり、予定を管理する、決定したものしか書き込まない。カレンダーとは気づいたらそんな堅苦しいものになっていたのかもしれません。

しかし友達とのチャット、自らコミュニティとイベントを見つける、そして自分でイベントを手軽に制作し仲間に共有することが容易にできるのがこのIRLです。もっとカジュアルに、もっと簡単に友達や新しいイベントと繋がることができます。他者との繋がりをオンラインでも強く求める現代では、カレンダーがよりソーシャルになるという動きは必然だったのかもしれません。

さらに言えばイベントとはもともと「ソーシャル」なものです。人間一人の中で完結するものではありません。現状で、多くの人々はイベントの告知にフェイスブックを用いていますが、詳細に関するやりとりはテキストメッセージやEメールなどで行われるのが一般的です。IRLはそれらのイベントに関わる行動を1つのアプリに統合することを目指しています。もしこれが実現すればより効率よくイベントを制作拡散することが可能になるでしょう。

この「誰かとつながる、共有する」という「ソーシャル」化という動きは今後様々なC向けサービスでよりわかりやすい形で導入されていくでしょう。IRLはその好事例ではないでしょうか。

3. IRLの今後と資金調達状況

もちろんIRLにも今後の課題があります。テッククランチによれば、IRLの最大の課題は、イベント推奨アルゴリズムを調整することのようです。イベントに対し従来使用されてきた関連性シグナル、例えばイベントが家にどれだけ近いか、費用がどれくらいか、イベントがユーザーの住んでいる都市で行われるかといったシグナルの多くが使用できなくなっています。

というのもオンラインイベントは地理的な制約はなく、費用も無料のものが多いからです。また無料でイベントを主催できることは、参加するユーザーが少ない質の低いイベントが多数発生してしまうことにもつながります。このためどのイベントをユーザーに推奨するのか、そのアルゴリズムの開発が急がれます。

またIRLは収益モデルに関して、YouTubeのような伝統的な広告モデルではなく何らかの形でサブスクリプションを導入することを検討しているようです。IRLは昨年1月の実験プログラムで、25人のインフルエンサーに有料のグループチャットを開設させていました。最終的にグループの参加者は1000人を超え、彼らは平均で月70ドルをその有料コンテンツに支払っていました。

この実験結果を得てIRLは、インフルエンサーと収益を共有するサブスクリプションモデルや、Discordの有料プラン「Nitro」のように、アプリ上の特別なサービスや特典をユーザーに販売する事業モデルも検討しています。

IRLは過去15か月で400%以上成長し、今では月に1,200万人のアクティブユーザーを抱え、1日あたり1億件のメッセージが送信されています。

2年前にリリースされたこのアプリは、前回の資金調達ラウンド(シリーズB)でFounder’s FundやGoodwater Capital、Floodgate Fundなどから約3000万ドルを調達しています。ソフトバンクが主導したシリーズCラウンドでは1億7000万ドルを調達し、IRLの評価額は11億ドルに達しています。

「若い世代はFacebookのイベント機能を使わない。」

そんな発想から生まれたZ世代に支持されるカレンダーアプリ、IRL。その当初の狙い通り「ソーシャル」な要素を持った目新しいカレンダーは、Z世代の若者達のの心を掴んでいるようです。今後アフターコロナ世界で IRLがどのような進化を見せてくれるのか、注目です。

参考サイト

IRL
新型コロナによりリアルから仮想イベントのカレンダーアプリへ方向転換中のIRLがカテゴリー1位に
ライブ向けバーチャルイベント用カレンダーアプリ開発のIRLがウェブ版をリリース
ソフトバンクが調達主導の次世代SNS「IRL」、評価額11億ドルに

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