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再興するクリーンテック分野で注目の海外スタートアップ4選

2021.11.1

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注目のクリーンテックスタートアップ

こんにちは。ANOBAKAの新インターンの三浦輝です。

さて、先日行われた衆議院選挙でも各党の掲げる「環境政策」が1つの主な争点となっていました。政治における注目度にも表れているように、近年「環境問題」への注目が急速に高まっているように感じます。

少し調べてみると、2005年から2008年にかけて盛り上がった所謂クリーンテック・バブルの後落ち込んでいたクリーンテック分野への投資は、近年再び勢いを取り戻していることが分かります。

そこで、この記事ではクリーンテックについてまとめてみました!!

以下の内容で話していきたいと思います。

1.クリーンテックとは
2.クリーンテックの歴史
3.クリーンテック分野で現在注目の海外スタートアップ4社
4.クリーンテック業界の今後

1.クリーンテックとは

まず、クリーンテックとは具体的にどんな技術を指すのでしょうか。

Cambridge Dictionaryを参照すると、クリーンテックは

「環境への害を削減または抑制することを可能にする技術のこと。」

Cambridge Dictionary

と説明されています。

具体的に、現在ではクリーンテックは

・再生可能エネルギー
・農業や食の技術
・リサイクル
・輸送技術

などを含む、環境に配慮した幅広いテクノロジーを総合して指すものとして使われることが多い用語です。

また、クリーンテックという用語を世間に広めたとされるCleantech Groupは、クリーンテックを以下の5つのセクターに区分しています。

agriculture & food (農業と食)
energy & power (エネルギーと動力)
materials & chemicals (素材と化学)
resources & environment (資源と環境)
transportation & logistics (交通と物流)

Cleantech Group

現在では、グリーンテック、エコイノベーション、クライメートテックなど様々な呼称があり、またESGの文脈で語られることも増えていますが、本稿ではクリーンテックに統一していきたいと思います。

2.クリーンテックの歴史

次にクリーンテックの歴史について概観します。

冒頭で述べたように、一度バブルで落ち込んだクリーンテック分野への投資は、近年再び盛り上がりを見せています。

(Bloombergより、https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2021-03-18/clean-tech-investment-isn-t-just-a-bubble-this-time)

初めに、2000年代初期に起こった始めのクリーンテック・バブルは、どのような理由で起こりどのように衰退していったのでしょうか。

まず、バブルの勃興についてです。

2005年から2008年にかけてシリコンバレーを中心にして起こった所謂クリーンテック・バブルでは、主に太陽光発電を初めとした再生可能エネルギー産業を筆頭に「地球環境に良い」事業を行う企業にお金が集まりました。

背景としては、地球温暖化により破壊的な自然災害が増加していたことや、石油の価格が上昇していたことなどが挙げられています。

しかし、クリーンテックへの投資の盛り上がりは、「バブル」として崩壊してしまいました。

その原因として、
莫大な初期投資に対して利益を回収するまでの期間が長かったことや、シェールガス革命によって世界のエネルギー事情が一変したことなど様々に挙げられています。何にせよ、地球環境の保護という目標を掲げて立ち上がった多くの企業が、短期間のうちに潰えていってしまったのでした。

それから時がたち、現在、再びクリーンテックビジネスは盛り上がりを見せています。

テクノロジーの更なる発展や、政治的な環境政策への注目などから、この度のクリーンテック・ブームに期待を寄せる声も高まっています。

この先の見通しは不確定ではありますが、これらの「違い」がどのような変化をもたらすのかには注目が必要です。

クリーンテック・バブルの勃興の背景、衰退の原因、現在の再興の背景

ここからは、現代のクリーンテック・ブームの波に乗る注目の海外企業を紹介していきます。

3.クリーンテック分野で現在注目の海外スタートアップ4社

現在のクリーンテックの”ブーム”では、多岐にわたる分野の企業が発展していることが一つの特徴となっています。

そこで、ここでは現在勢いに乗るユニークなクリーンテック・ビジネスを行う企業を4社紹介していきます!

紹介する企業は、上にも紹介したCleantech Groupが毎年1月に発表しているGlobal Cleantech 100という文書に掲載されている企業を参考に選びました。

今回ご紹介する企業は下の4つです。では、1社目のWinnowから見ていきましょう!

Winnow   – 食材を効率的に用いて食品ロスを減らすツールを提供する企業
Pachama – 植林プロジェクトを通したカーボンクレジット市場を展開する企業
Solidia     – 生産時にCO2を吸収する新しいコンクリートを開発する企業
TIPA        – 分解可能な食品やファッション製品用の包装を開発する企業

◆Winnow  
食材を効率的に用いて食品ロスを削減するツールを提供する企業

(WinnowのHPより、https://www.winnowsolutions.com/)

企業名  :Winnow
本拠地  :イギリス
累計調達額:3100万ドル
HP     :https://www.winnowsolutions.com/

ロンドンに本拠地を構えるWinnowは、「スマートはかり」によって食品の廃棄を減らし、効率的なキッチンの運営を可能にするソリューションを提供する企業です。

Winnowの提供する「スマートはかり」は、画像認識や重量認識によって廃棄された食材を認識し、得られたデータをWinnowのクラウドを利用して分析することによって、利用者が効率的な食材運用ができるよう促します。

Winnowによると、同社のサービスを利用したキッチンは半年から一年以内に無駄な廃棄食品を40~70%節約しているといいます。さらに、それによって見込める利益率の増加は、30~60%にも上るそうです。

Winnowのサービスについては以下の動画に詳しいため、ご興味がありましたらぜひご覧ください。

Winnowは2013年に、Marc ZornesとKevin Duffyによって共同創業されました。Marc Zornesは、WInnowの創業以前はマッキンゼー&カンパニーのマネージャーを務めていた人物でした。彼は、マッキンゼー時代に、食や水やエネルギーなどの節約の可能性を探求した文書「Resource Revolution」を執筆しました。その中で「食品ロス」の重大さ、そしてそれに関連するビジネスの可能性に興味を持ち、Winnowの創業に至ったそうです。 

Winnowは現在、IKEAやヒルトンホテルといったレストランやホテルを含む企業にプロダクトを提供し、その累計調達額は3100万ドルに上ります。

現在世界に5つのオフィスを構え、約40か国でサービスを展開するWinnowが、今後の食産業の可能性をどのように開拓していくかに注目していきたいです。

◆Pachama
植林プロジェクトを通したカーボンクレジット市場を展開する企業

(PachamaのHPより、https://pachama.com//)

企業名  :Pachama
本拠地  :アメリカ(サン・フランシスコ)
累計調達額:2430万ドル
HP     :https://pachama.com/

Pachamaは、植林プロジェクトへの参加を通して二酸化炭素排出量取引市場を展開する企業です。

Pachamaを通じてカーボンオフセットを行いたい企業は、Pachamaが展開する森林再生プロジェクトの中からいくつかのプロジェクトを選び、それらのプロジェクトを支援することによってCO2排出量を購入することができます。Pachamaの植林プロジェクトは、主にアメリカの森林地帯やアマゾン川の熱帯雨林地域で展開されています。

この時、Pachamaは利用者に複数のプロジェクトを提供することで、自然災害などによるプロジェクトへのリスクを分散します。

また、PachamaはAIや衛星を通じて集めたデータを活用することで、植林プロジェクトのCO2削減への影響を精緻に分析し、排出量取引の信頼性を確保しています。

アルゼンチン出身の2人の共同創業者、Diego Saez-GilとTomás Aftalionは、それぞれ起業家とエンジニアとしてキャリアを積んできました。しかし、森林破壊が進むアマゾンの熱帯雨林の様子を見ると、森林の再生こそが気候変動への有効な解決策となるのではないかということに気付いたといいます。

PachamaはこれまでにY CombinatorやAmazon、Breakthrough Energy Venturesから投資を受け、累計で約2430万ドルを調達しています。

その利用者にはMicrosoftやShopify、さらにSoftbankを抱え、ESGの文脈でカーボンオフセットの重要性が高まる現在の世界で、Pachamaが今後増大させていくビジネスと地球環境への影響に注目です。

◆Solidia
生産時にCO2を吸収する新しいコンクリートを開発する企業

(SolidiaのHPより、https://www.solidiatech.com/)

企業名  :Solidia Technologies
本拠地  :アメリカ (ニュージャージー州)
累計調達額:1.05億ドル
HP     :https://www.solidiatech.com/

Solidiaは、生産時にCO2の排出を抑えつつ、さらにCO2を吸収し生産に利用することができるコンクリートセメントを開発する企業です。

私たち人類とコンクリートの関わりは古代ローマ時代に起源し、以来私たちはコンクリートを利用し続けてきました。

コンクリートへの需要は歴史の進展とともに増大し、Solidiaによると現在ではその需要は「水」に次ぐ規模であるといいます。

セメントはその生産の過程で多量のエネルギーと水を消費し、二酸化炭素を排出します。セメント業界全体で見ると、その二酸化炭素排出量は総排出量のうち5~7%を占めると言われています。

私たちにとって、もはや不可欠な存在であるにも関わらず、二酸化炭素の排出やエネルギー使用の面から問題の残るコンクリート。

Solidiaは、新しい形のコンクリートを開発することで、この問題に立ち向かっています。

Solidiaは、

①コンクリートの生産時に二酸化炭素の排出を減らすこと
②コンクリートの生産時に二酸化炭素を吸収して利用すること

という二方向のアプローチを展開しています。

Solidiaの提供するセメントは、

まず、セメントの生産時に原料として使用される石灰石の量を抑えて排出されるCO2の量を減らします。さらに、生産における「キュアリング」と呼ばれる工程(コンクリートを形成した後、散水などによってコンクリートの温度と湿度を保ち強度を安定させる工程)において、CO2を吸収しコンクリートの硬化に利用するのです。

↓SolidiaのセメントがキュアリングにおいてCO2を吸収する仕組み

(SolidiaのHPより、https://www.solidiatech.com/)

Solidiaのセメントが浸透すれば、コンクリート業界では全体の70%のCO2排出量を削減できる見込みとなっているそうです。これは、全世界のCO2の排出量の4%の削減につながります。

同時に、エネルギーや水の節約にも貢献します。

Solidiaは2008年にラドガーズ・ニュージャージー州立大学で大学教授を務めるRichard Rimanにより設立されました。彼は、MITでPhDを取得後、政府機関や政府系ラボ、様々な企業への勤務を経て大学教授に転身しました。

Kleiner Perkinsを初めとしたVCから出資を受け現在までに累計で約1億ドルを調達したSolidiaが、その技術をもって今後どのように既存のコンクリート業界に変革をもたらしていくのかに注目です。

◆TIPA
分解可能な食品やファッション製品用の包装を開発する企業

(TIPAのHPより、https://tipa-corp.com/)

企業名  :TIPA
本拠地  :イスラエル
累計調達額:5000万ドル
HP     :https://tipa-corp.com/

イスラエルに本拠を置くTIPAは、有害物質やマイクロプラスチックを排出せずに完全分解が可能な包装製品を開発する企業です。

“We create packaging that behaves just like organic waste, so nature won’t even notice we’re here (私たちの作る包装は有機性の廃棄物のように機能し、自然は私たちの存在に気づくこともしない)”

このように説明されるTIPAの包装製品は、従来のプラスチック包装と遜色ないパフォーマンスを発揮しつつも、プラスチックによる負の影響を削減することを目指します。

解決すべき課題として、従来のプラスチック製品がほとんどリサイクルされずに環境を汚染し続けていることを掲げるTIPAは、主に食品の包装とファッション製品の包装を扱っています。

↓TIPAの食品用包装

(TIPAのHPより、https://tipa-corp.com/)

TIPAは、2010年にDaphna NissenbaumとTal Neumanによって共同創業されました。

ソフトウェアエンジニアやイスラエルのリサーチセンターのCEOを歴任したDaphna Nessenbaumは、ある時、彼女の息子が学校に持参していたプラスチックのペットボトルに注目しました。それをきっかけにプラスチックの引き起こす環境問題に興味を持った彼女は、その後TIPAの創業の原アイデアにたどり着きます。

プラスチック包装の需要は今後も減少しないだろうと考えた彼女は、プラスチックの環境問題に対処するために包装の削減を目指すのでなく、自然に還元される素材によってプラスチックに代わる包装製品を開発しようと考えました。

日常の中で問題を発見し、自然からインスピレーションを得た彼女の姿勢には学ぶところが大きいと感じます。

2021年に入り3月にはオーストラリアへ、6月には北アメリカへと進出し活躍の場を広げるTIPAが、今後プラスチックに代わる包装のあり方を更に浸透させていくことに期待です。

4.クリーンテック業界の今後

さて、最後にクリーンテック業界の今後への期待を述べて終わりたいと思います。

Chrysalix Venture Capitalの創業パートナーであるWal Van Lieropは、Forbesに寄稿した記事の中で、クリーンテックバブルと現在の”クリーンテック2.0”の共通点や相違点を指摘した上で

「温暖化が進む世界において未だ有効な解決策が見えない中、クリーンテックの勃興は不可欠である」

と述べています。

今後、持続可能な世界のため、私たち自身のため、クリーンテック業界が更なる発展を積み重ねていくことは必要不可欠に思われます。

一般市民の中にも環境問題への危機意識が浸透しつつある今、クリーンテックは世界をクリーンに変えていく原動力となることができるのでしょうか。

ハード製品の開発コストとそのリスク、Bill Gatesが指摘する「グリーン・プレミアム」の問題など、解決すべき課題は未だに残るものの、クリーンテックは今後の発展と浸透に期待したい分野です。


<参考サイト>

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