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怪獣充電:ユーザー数2.5億超のバッテリーシェアリング企業の成長戦略とは?

2021.11.8

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本文:三浦 輝 (@hkr_miura)


政府によるテック企業への締め付けや恒大集団の債務問題など話題に事欠かない中国のビジネスシーン。

しかし一方で、その巨大な市場や中国特有の制度や文化、そして主にBATHによって形成されてきた独自のエコシステムの中には、史上類を見ない速度で急成長を遂げるスタートアップが多く存在しています。

この記事で紹介する企業「怪獣充電」は、そんな中国経済の中において急激な成長を掴んだスタートアップの一つです。

モバイルバッテリーのシェアリングサービスという競争の激しい業界において怪獣充電が一定の成功を収めることができた理由はどのようなものなのでしょうか。

怪獣充電の基本的な説明の後、その成長の背景について考察していきたいと思います。

◆怪獣充電 (Energy Monster)

(怪獣充電のHPより、https://www.enmonster.com/)

企業名: 怪獣充電 (Energy Monster)
本拠地: 北京
設立年: 2017年
HP  : https://www.enmonster.com/

怪獣充電(Energy Monster)は、中国において2億5000万人を超える登録ユーザー数を誇るモバイルバッテリーシェアリング事業を展開する企業です。

怪獣充電は、中国全土に設置した充電スポット(POI)に以下の画像のような機器を設置しています。

怪獣充電のユーザーは、QRコードを利用して怪獣充電の充電スポットでモバイルバッテリーを借り、使用した後は他の充電スポットに返却することができます。

ユーザーは全国に設置された怪獣充電の充電スポットを利用し、「好きな時に好きな場所で借り、好きな時に好きな場所で返却する」体験をすることができます。

怪獣充電のHPより作成

怪獣充電の成長戦略

現在はユーザー数において中国のバッテリーシェアリング業界のトップに立つ怪獣充電ですが、その業界では競争が苛烈を極めています。

中国のバッテリーシェアリング業界においては、4つの企業によって寡占状態が形成されています。

市場占有率は、それぞれ

怪獣充電(EM, 2017年設立) :34%
小電(Xiaodian, 2016年設立) :22%
街電(Jiedian, 2015年設立) :17%
来電(Laidian, 2014年設立) :10%
その他シェアリング企業 :17%

となっており、業界の上位4社はまとめて「三電一獣」と呼ばれています。

※三電…小電、街電、来電 一獣…怪獣充電

「三電一獣」の中でも怪獣充電の勢いはすさまじく、2017年の設立から4年あまりで業界のトップに立ち、今年4月には業界初となる上場(NASDAQ)を果たしました。

では、「三電一獣」の中では最も後発にあたる怪獣充電が、競争の激しいバッテリーシェアリング業界において一定の成功を収めることができた要因は何なのでしょうか。

怪獣充電は4月にNASDAQにIPOした際に公表した目論見書の中で、自社の強みを次のように分析しています。

・広範なPOI(ここでは充電スポットのこと)の設置によるネットワーク効果
・データの活用による効率的なPOIの管理と選定
・高機能なモバイルバッテリーデバイスの開発
・他企業とのコラボレーションによるブランドイメージの強化
・Uber, 美団で前職を経験した共同創業者を筆頭とする経験豊富なマネジメントチーム

その上で、怪獣充電は成長のために以下のような戦略を採っているといいます。

・既存・新規のカテゴリーのPOIの拡大
・POI設置先との提携の強化とその拡大
・ブランド力の強化
・戦略的な提携や投資機会の追求

繰り返しになりますが、モバイルバッテリーのシェアリングサービスは競争の激しい業界です。

さらにスマートフォンの普及に伴って常にユーザーからの十分な需要が見込める一方で、それは業界内においてブランディングの効果が発揮しにくいということでもあります。

既に競争によって各社のサービスの価格や性能に差をつけにくい状態にあるバッテリーシェアリング市場において、スマートフォンを充電したいという需要を持つ顧客は、どの会社からバッテリーをレンタルするかということよりも現在位置からの充電スポットへの近さを重視するだろうからです。

そのように考えると、やはり怪獣充電の短期間での急成長の原因は、より多くのユーザーにリーチするための「POIの拡大戦略」の巧みさにあったのではないでしょうか。

ここからは考察になります。

怪獣充電の採ったPOIの拡大戦略とは、大きく

①効率的なPOIの選定と設置

②スピード感のあるPOIの数の拡大

ということになるかと思います。

まず①の効率的なPOIの選定と設置について。

怪獣充電は、市場シェア獲得のためのPOI拡大競争の中において

・より多くのターゲットにリーチできる場所に充電スポットを設置し、
・協力企業とのシナジーを重視する

戦略を採用しています。

怪獣充電は初期より「より多くのターゲットにリーチできる」POIを精密に選定し、レストランや観光スポットだけでなく公共交通機関のハブや病院などにまでPOIを拡大してきたそうです。

これは競合企業がマーケティングや広告に力を入れ、POIにおいては飲食店や観光スポットを主な対象としてきたことを考えると、異質な戦略であったことが伺えます。

さらに、怪獣充電は充電スポットを設置する際に協力企業とのシナジーを重視しています。

例えば、怪獣充電はレストランやショッピングモールに訪れる客をターゲットにモバイルバッテリーのシェアリングサービスを展開することができます。

一方でレストランやショッピングモールは怪獣充電と協働することによって、

・充電スポットを目的に立ち寄る顧客の獲得
・怪獣充電から顧客の行動データの獲得

などのメリットを享受することができます。

怪獣充電はこれらの協力企業にとってのメリットの最大化のため、充電スポットの設置場所について協力企業と議論し、例えば充電スポットを目当てに訪れた客がショッピングモールの中を巡ることができるよう、店の中での充電スポットの設置場所について丁寧に検討するなどさえしているそうです。

約70万箇所に上る怪獣充電のPOIの広がり

次に、②スピード感のあるPOIの数の拡大について。

現在「三電一獣」の中でも業界のトップ2を飾る怪獣充電と小電には、「資金調達を早い段階から積極的に行ってきた」という共通点があります。

怪獣充電と、小電の資金調達の概観については以下の通りです。

怪獣充電 (2017年創業)

エンジェル:2017.4 数千万元
シリーズA :2017.7.27 1億元
シリーズB :2017.11.23 約$30M
シリーズC :2019.12.24 約$100M
シリーズD :2021.5.13 約$234M

小電 (2016年12月創業)

エンジェル:2017.3  数千万元
シリーズA :2017.7.27 約$15M
シリーズB :2017.11.23 約$50M

これらは、残る「三電一獣」である街電や来電と比べると格段に早い資金調達と言えます。

積極的な資金調達によって得た強力な資金力によって、怪獣充電と小電は短期間で他社を凌駕するPOIの発展を達成することができたのではないでしょうか。

さらに、怪獣充電と小電の間の競争で今のところ怪獣充電に軍配が上がっている原因としては、その資金調達先の構成とPOI拡大のペースに原因の一部がありそうです。

怪獣充電は、シリーズAの時点でシャオミから出資を受けています。ハードデバイスの開発に長けるシャオミはzimi technologyと共に怪獣充電とモバイルバッテリーの開発を支援しました。これが、比較的早い段階から高品質な商品を多くの顧客にリーチすることができた要因になり得るのではないでしょうか。

さらに、怪獣充電はエンジェルラウンドの段階から既に200都市へのPOIの拡大を構想していたのに対して、小電は初期段階ではまず50都市にエージェント契約を拡大していくことを構想しています。効率的で急速なPOIの拡大を目指した怪獣充電と、安定して質の高いPOIの拡大を目指した小電の初期戦略は対照的であったように思えます。競争が激しくより多くのユーザーにリーチすることが必要となったバッテリーシェアリング業界において、この差が後の市場シェアの違いを作り出すことに繋がっていったのでしょうか。

考察になりますが、これまでの議論をまとめるとモバイルバッテリーシェアリング市場の中で後発だった怪獣充電が急速に発展することができた理由は、怪獣充電が

市場においてPOIの効率的で急速な拡大がシェア獲得の鍵となることを十分に理解し、精緻に戦略に落とし込むことができた

ことにあったように思えます。

怪獣充電の今後

この記事では、設立から5年を経ずして数億人のユーザーとNASDAQへの上場を手にした怪獣充電について紹介しました。

しかし、現在業界のトップに君臨する怪獣充電にも、競争の激しいバッテリーシェアリングの中では常に兆戦に晒されています。

例えば、今年4月業界3番手である街電は大手モバイルバッテリーシェアリング企業である搜电との合併を発表し、POIの数においては怪獣充電を抜いて首位に立ちました。現在、怪獣充電が約70万か所のPOIを保有しているのに対して、街電と搜电を合わせたPOIの数は100万を超えます

また、食品デリバリー大手美団(Meituan)は昨年モバイルバッテリーシェアリング業界に参入し、その影響力を生かしてシェアを急拡大しています。

4月にNASDAQに上場した怪獣充電は、世界的な経済活動の再開に伴ってその業績を進展させ、第二四半期(4~6月)では前年比で売上高は50%以上の増加を記録しました。

勢いに乗る怪獣充電が、競争の激しい業界において今後もトップシェアを継続し続けることができるのか、その動向に注目していきたいと思います。


<参考>

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