2021年に爆発的に社会に広まったNFTは、2022年に入ってもその拡大の勢いは留まるところを知りません。
2022年の2月に入ってから今までのニュースを見ても、NFTの社会への浸透を示すような様々な目を引く話題が飛び込んできます。
・ミクシィがDAZNと共同でスポーツ特化型のNFTマーケットプレイスへの参入を発表
・女優の広瀬すずさんが『10周年記念写真集 レジャー・トレジャー』の発売を記念してデジタル・ブロマイドNFTを数量限定で発売
NFTの浸透に従って、最大級のNFTマーケットプレイスOpenSeaの名前も多くの人が知るものとなりました。
Google Trendsを確認すると、2021年の半ば以降「NFT」と共に「OpenSea」のワード検索数も急上昇しています。
日本においてもNFTのエンターテインメントへの進出が進み、さらにNFTが日本社会に浸透していくことが予想されます。
90%を超える市場シェアを誇るOpenSeaは、最大規模のNFTマーケットプレイスとしてその地位を確固たるものとしています。
今後もNFTがさらに社会一般に広まっていく中で、OpenSeaのNFTシーンにおける存在感は今後も高まり続けることに疑いはありません。
この記事ではOpenSeaを題材に、特に2人の共同創業者にスポットを当てて紹介していきたいと思います。
2人の共同創業者デヴィン・フィンザーとアレックス・アタラの半生と、OpenSeaの創業ストーリーについて簡単にご紹介していきます。
※NFTに関しては以前の記事「NFTは一過性のブームに過ぎないのか。NFTの歴史、課題、そして未来とは?」で詳しく解説しております。ぜひあわせてご覧ください!
目次
01 2人の共同創業者
02 OpenSea
01 2人の共同創業者
OpenSeaは、デヴィン・フィンザー(Devin Finzer)氏とアレックス・アタラ(Alex Atallah)氏という2人の共同創業者によって設立されました。
ここでは、OpenSeaを創業するまでの2人の半生について見ていきます。
Devin Finzer
OpenSeaの共同創業者の一人であるデヴィン・フィンザーは、1990年に医者の母とソフトウェアエンジニアの父のもとサンフランシスコで生まれました。
高校卒業後、ハーバードやスタンフォードといった大学からは不合格通知を受け取った彼は、ブラウン大学に進学してコンピューターサイエンスを学びます。
さて、フィンザーは大学の頃から進取の精神に富んでいました。
フィンザーは、大学3年生の頃に同じ学部であったディラン・フィールド(Dylan Field)とサム・バーチ(Sam Birch)の2人と共にブラウン大学内において「CourseKick」というソーシャルネットワーキングの要素を取り入れた履修科目のサーチサービスの提供を開始しました。
基本的なCourseKickの機能は以下の通りでした。
まず、ユーザーは自身のFacebookのアカウントを使ってCourseKickにログインします。ユーザーはFacebookのフレンドの履修状況を参考にしながら自分の履修科目を考えることができます。またユーザーはそれぞれ自らの履修スケジュールをシェアしたり、科目についてコメントやレコメンドを行ったり、チャットルームを用いて他の生徒との会話を楽しんだりすることもできました。
フィンザーらが開発したCourseKickは瞬く間に成長し、リリースの1週間後にはブラウン大学の生徒の20%超がCourseKickに登録しています。
ちなみに、デヴィン・フィンザーと共にこのプロジェクトを行った2人は現在も活躍を続けています。ディラン・フィールドはデザインプラットフォームを運営するFigmaの共同創業者CEOを務め、サム・バーチはGoogleでプロダクト・マネージャーを務めています。
その後、フィンザーはWikimediaやGoogle Cloud、Flipboardでインターンを経験した後、卒業後はPinterestでソフトウェア・エンジニアとしてファーストキャリアを踏み出します。
Pinterestのグロースチームにおいて経験を積んだのち、彼はついに最初のスタートアップを共同創業します。
Claimdogと名付けられた彼の最初のスタートアップは、州政府などに「未請求の財産(現金化されていない給料の小切手、未払いの保険金など…)」を請求できるサービスでした。
画期的なアイデアで成長を掴んだClaimdogは、設立から約2年後にCredit Karmaによって買収され、フィンザーもしばらくはCredit Karmaにおいて働くこととなりました。
そして、フィンザーがCredit Karmaにおいて働いていた2017年に、クリプトが一時的なブームを迎えます。
CourseKickやPinterestでの経験も踏まえて「どのように人々が交流するか」に興味を持っていたフィンザーは、ブームの中でクリプトに興味を持ち始めます。
特に、彼はブロックチェーンが持つ「投資家など金融に詳しい人間ではない一般の人々」に対する実用的な影響に最も興味を持っていたと語ります。
当時は投機的側面が取りざたされることの多かった暗号資産に対して、「クリプトによって人々がどのように交流し、どのような新しい消費者体験がもたらされるのか」という面から可能性を感じていたと言います。
大学時代から「交流」に焦点を当てたサービスを設計し続け、後には「交流」のあり方を変えたNFTに興味を持ったフィンザー。
web3のトレンドが続く中、「人々の交流」の変化を察知したフィンザーのようにNFTやメタバースが「私たちの生活の何を変えるのか」について考察を続け、本質的な価値を問い続けていきたいものです。
Alex Atallah
もう一人の共同創業者でありOpenSeaのCTOを務めるアレックス・アタラは、コロンビア移民の父とアメリカ人の母の息子としてコロラドに生まれました。
幼少期からデータサイエンスに興味を持っていた彼は、身の回りの鳥や草食動物をスプレッドシートで比較分析するなどしていたそうです。
スタンフォード大学に進学しコンピューターサイエンスを学んだ彼は、デヴィン・フィンザーと同じように学生時代に学生向けのサービスを構築する体験をしています。
アタラは大学1年生の時に、Dormlinkというスタンフォードの学生寮の寮生向けのウェブサービスを作成しました。
Dormlinkは寮生同士が互いに繋がりを持つきっかけを作るサービスでした。
基本的な機能としては、寮生がメッセージを自由に投稿できる掲示板の機能や使わないものを貸したり売ったりできる機能、大学で同じ授業を履修している寮生と繋がることができる機能などがありました。
リリースから1か月程度でスタンフォードの5つの寮で使われるサービスにまで成長したそうです。
その後、学生時代にAppleやPalentirでエンジニアとしての経験を積んだ彼は、卒業後はZugataとWhatsgoodlyという2社のシリコンバレーのスタートアップでCTOを務めました。
そして、エンジニアとしての経験の中でクリプトに興味を持った彼は、デヴィン・フィンザーとチームを組みOpenSeaへの創業への道のりを歩んでいきます。
02 OpenSea
OpenSeaは、上に紹介した2人の共同創業者によって設立されました。
共にクリプトに興味を持ってチームを組んだデヴィン・フィンザー氏とアレックス・アタラ氏は、当初はWifiCoinという別のサービスのプロジェクトを進めており、そのWifiCoinのアイデアでY-Combinatorのアクセラレーションプログラムに参加していました。
WifiCoinは「WiFiスポットをシェアして暗号資産を稼ぐことができる」アイデアでした。
しかし、2017年にCryptokittiesが登場すると、2人はNFTが持つ可能性に強く刺激を受けました。
それまでは投機の対象となることが多かったブロックチェーンの領域で、新たな「コミュニティ」と体験を作り出すNFTに可能性を感じ、OpenSeaのアイデアにピボットしたと言います。
実際、デヴィン・フィンザー氏は「OpenSeaのアイデアは私たちのCryptoKittiesへの興味から生まれた」と語っています。
アイデアをすぐに転換した2人は、CryptoKittiesのリリースと同年2017年にOpenSeaを立ち上げました。
3.5%だったCryptoKittiesの取引手数料を参考にOpenSeaの手数料は2.5%と定められ、今も同率の手数料が存続しています。
しかし、NFTマーケットプレイスとしてのOpenSeaが現在の成功を収めるまでには、いくつかの障害がありました。
まず、OpenSeaの創業当初2017年にはNFTの知名度や取引量自体が決して大きくなく、市場が小さかったことが挙げられます。
OpenSeaの取引量が徐々に増え始めたのは2020年に入ってからであり、それまでは相当に厳しい時間を過ごしました。
デヴィン・フィンザー氏はRedditを使ってOpenSeaやNFTの可能性について直接宣伝して回っていたこともあったそうです。
しかし2020年から2021年にかけて、スポーツ関連のNFTの登場や著名人のNFT参入、NFTを活用したP2Eゲームの台頭などによってNFTが一般社会に浸透すると、OpenSeaもそれに乗じて大きくその取引量を伸ばしました。
さらに、高騰するガス代への対処や暗号資産取引にはつきものの不正取引への予防など、乗り越えるべき障害は多くありました。
それらの問題に対して、OpenSeaは1つ1つ丁寧に対処してきました。
世界中の様々なNFTが一堂に会して取引される「NFTの開かれた海」として、OpenSeaはそのサービスを改善し続け、あえて特定領域のNFTに特化せずにアートや音楽、VRなど様々な領域のNFTを扱っています。
サービスが中々伸びない期間が長かったからこそ丁寧に磨き上げられたサービスが、OpenSeaの市場優位性を保っている鍵なのかもしれません。
終わりに
ここまで、デヴィン・フィンザーとアレックス・アタラの2人の共同創業者の半生とOpenSeaの創業ストーリーについて概観してきました。
その名の通りOpenSeaはNFTの「海」として世界を繋ぎ、NFTの可能性を多くの人が享受できるものとしています。
しかしNFTマーケットプレイスの先駆者として確固たる地位を築き上げてきたOpenSeaですが、現在では様々な新たな競合が出現しています。
特に、独自のトークン「$LOOKS」を活用してコミュニティドリブンのNFTマーケットプレイスを運営するLooksRareは、OpenSeaに所謂「ヴァンパイア・アタック」を仕掛けています。
OpenSeaよりも0.5%安い2.0%の手数料で取引を行うことができるLooksRareは、さらにOpenSeaのアクティブユーザーに対して「OpenSeaでの取引量に応じて」$LOOKSトークンをエアドロップしています。
その結果、Looksrareはユーザー数ではOpenSeaに遠く及ばないものの、日間取引額では既にOpenSeaを上回っています。
また、他にもColexionは著名人と結びついたNFTの取引プラットフォームに特化することによってNFTマーケットプレイスとしての存在感を高めています。
新たな挑戦者は、新興のスタートアップに留まりません。OpenSeaにとっては、CoinbaseやFTXのNFTマーケットプレイスへの参入も大きな脅威となるでしょう。
NFTマーケットプレイスにはネットワーク効果が働くものの、「分散型」であるがためにユーザーの流動性も高くなるように思われます。
継続する市場の成長とともに激化する競争環境の中で、最大のNFTマーケットプレイスとしてOpenSeaがどのような策を講じてくるのでしょうか。
<参考資料>
PR Times, ミクシィ、DAZNと共同でスポーツ特化型NFTマーケットプレイス「DAZN MOMENTS」を今春提供開始
PR Times, 広瀬すず NFT化された「デジタル・ブロマイド」を発売! 10周年記念写真集『レジャー・トレジャー』未公開カットから
Business Insider, 自民党・NFT特別担当「Web3とNFTを岸田政権の“成長と分配”戦略の柱に」
Forbes, The First NFT Billionaires: OpenSea Founders Each Worth Billions After New Fundraising
Forbes, What Every Crypto Buyer Should Know About OpenSea, The King Of The NFT Market
Base Layer, Base Layer Episode 180: Devin Finzer, Co-Founder of Opensea on building the Amazon of NFT’s
The Brown Daily Herald, New course tool links to Facebook
The Brown Daily Herald, CourseKick revamps post-registration
Figma
Show of 12-18-2021
Credit Karma now helps users find unclaimed cash
The Stanford Daily, Link-up Startup
OpenSea
CryptoKitties
The Verge, How One Company Took Over The NFT Trade
Decrypt, The Biggest Crypto Story of 2021: NFT boom
Coinbase, Vampire Attach! Looksrare vs. OpenSea
Dune Analytics
Colexion
Looksrare