こんにちはー!ANOBAKAのたかはしゆうじ( @jyouj__ )です!
もうすぐ1年が終わりますね。今年大学に入学したのですが、華の一年生があっという間でした。
さてさて、話が変わりますが、先日こんな記事を見つけました。
アメリカの連邦取引委員会がP&Gの女性向けカミソリブランドBillieの買収を阻止しようとしているという記事です。P&Gが競争相手となりそうなスタートアップの芽を摘むため買収しようとしていると主張されています。
ことの良し悪しは置いといて、僕はP&G(Procter & Gamble)が今までにどのようなD2Cブランドを買収してきたのか気になりました。
そこで、今回の記事はP&Gが買収した歴代D2Cブランドをピックアップしてまとめてみました!そして、そこから大企業のD2C買収戦略を読み解いていきたいと思います。
目次
- P&Gが買収したD2Cブランド
- Native – ナチュラルデオドラントブランド
- Snowberry – 自社で栽培した天然成分のスキンケアブランド
- First Aid Beauty – 細かい肌の悩みに対応したスキンケアブランド
- Walker & Company Brand – 有色人種向けのグルーミングブランド
- This is L – 女性向けヘルスケアブランド
- Billie – ピンクタックスを排除したカミソリブランド
- 大企業のD2C買収戦略を考察
P&Gが買収したD2Cブランド
1. Native – ナチュラルデオドラントブランド
拠点: アメリカ
設立年: 2015年
買収された年: 2017年
買収額: 1億ドル
まず最初は天然成分のパーソナルケアブランド「Native」です。ナチュラルデオドラントで有名です。
Nativeは2015年に設立されました。UpHonest CapitalやAzure Capital Partnersからの調達を経て、2017年にP&Gに約1億ドルで買収されました。これはP&Gにとって8年ぶりの買収になりました。この買収のあと、P&GはD2C企業の買収に積極的になっていきます。
Nativeの扱う商品は天然成分でできています。デオドラントはココナッツオイル、タピオカ、シアバター、グルコースなどからできています。他のパーソナルケア商品も同じで、ボディーウォッシュや石鹸、歯磨き粉も天然成分でから作られています。
Nativeは製品の成分をきちんとインターネット上で表示していました。買収された当時(今もではあるが)、消費者は成分の透明性に関心が高まっていました。Nativeはその波にいち早く乗ったブランドだったのです。
Nativeの商品はP&Gの一般的な商品よりは少し高くなっています。しかし、サブスクプランも選択することができ、Native商品を愛用する人は25%ほど節約することができます。
サブスクは届く頻度、決済日を自分でスケジューリングすることができるようになっています。たくさん届き過ぎて使いきれないという問題も事前に防ぐことができます。配送状況を追跡する機能ももちろん付いているので安心です。
NativeはP&Gに買収された後も成長を継続させています。世界の天然デオドラント市場は年間で14%成長し、2025年までに1.5億ドルになると予想されています。他のパーソナルケア商品も今後同様に伸びていくでしょう。
今年のコロナ禍でNativeは面白い広告動画を打ち出しました。それは”Stay Home”しているアメリカの家族の「脇の下」をターゲットにしたものです。
パンデミック禍で人々は家にいます。これは家族との接触を普段より多く持つこととなります。そんな時は子供と遊んで抱きしめることも多くあるでしょう。動画では、Nativeの商品は人体に害のない成分でできているというメッセージを打ち出しています。
動画はシリーズとしてYouTube、Instagram、Facebookで展開されており、その中にはYouTubeで再生回数1000万を超えているものもあります。
D2Cブランドらしくデジタルマーケティングに長けているNative。今後もP&Gのもと発展していけるのでしょうか。
2. Snowberry – 自社で栽培した天然成分のスキンケアブランド
拠点: ニュージーランド
設立年: 2007年
買収された年: 2018年
買収額: 非公開
次に取り上げるのはニュージーランドを拠点に置いているスキンケアブランド「Snowberry」です。SnowberryもNativeと同じく天然成分を使用しています。
Snowberryは2007年に美容師のSoraya Hendesiによって設立されました。P&Gは天然成分の消費財の人気の潮流に乗り、Nativeに続き2018年にSnowberryを買収しました。買収額は数千万ドルとの噂もありますが、非開示になっています。
Snowberryのスキンケア製品はアンチエイジング効果があり、弾力性のある輝くような肌になると謳われています。製品はアメリカやフランスなどでいくつかの賞を与えられており、さまざまなメディアで絶賛されています。
その理由はSnowberryがニュージーランドで所有する「Snowberry Garden」の中にあります。
Snowberry Gardenでは8000以上の熱帯雨林を栽培しています。これがSnowberryの商品に使われているのです。
マオランの種子油は肌に潤いを与えるのに役立ちます。カヌカハニーは敏感肌の方にも安心な成分で、肌の水分を保ち、赤くなるのを抑えるのに寄与します。トタラの木から抽出されたトタロールは肌を老いから守ります。
これらにより、Snowberryはフェイスセラムなどのベストセラーアイテムを作り出すことができました。
SnowberryにとってP&Gグループの一角に組み込まれることは、膨大な研究開発費と世界トップクラスのマーケティングにアクセスできることを意味します。買収時、Snowberryの商品はニュージーランドだけでなくアメリカや中国にも販売されていました。
買収後は、Snowberryの商品はP&Gの流通網によって、空港などの免税店に投入されました。P&GはSnowberry製品をSK-Ⅱに並ぶスキンケアブランドにしようとしており、今後も世界的なマーケティング施策を行っていくでしょう。
3. First Aid Beauty – 細かい肌の悩みに対応したスキンケアブランド
拠点: アメリカ
設立年: 2009年
買収された年: 2018年
買収額: 2.5億ドル
三つ目に取り上げる「First Aid Beauty」もスキンケアブランドです。化粧品やボディーケア商品も展開しています。
同社はニキビやエイジングケア、乾燥などそれぞれの肌の悩みに特化したスキンケアをラインナップしています。「Ultra Repair Cream」や「Face Cleanser」などベストセラー商品をいくつか保有しています。
価格的にはP&Gが保有しているハイエンドブランドの「SK-Ⅱ」と一般向けの「Olay」の間に位置しており、P&Gの他の製品と競合しないとされています。この買収はP&Gの商品ラインナップの補完も理由にあるでしょう。
P&Gに買収される前、First Aid Beautyは乾燥や湿疹であったり、それぞれの肌特有の問題を解決するスキンケアブランドであるというメッセージ性を強く打ち出し、インフルエンサーなどを使ったデジタルマーケティングを行ってきました。これはミレニアム世代の熱い支持を獲得することに成功しました。
P&Gによる買収後、First Aid Beautyはそれらデジタルマーケティングに加え、ポップアップストアなどエンゲージメントマーケティングに注力するようになりました。
また、Tmallや香港の免税店への投入などアジアにブランドの拡大を図っています。First Aid BeautyもSnowberryと同じようにP&Gの持つ世界への販売チャネルを活用して積極的に展開しています。
デジタルマーケティングなどで成功しているブランドをP&Gのマーケティング法でさらに伸ばす戦略は独立系のD2Cブランドには脅威的でしょう。
4. Walker & Company Brand – 有色人種向けのグルーミングブランド
拠点: アメリカ
設立年: 2013年
買収された年: 2018年
買収額: 非公開
次に取り上げるのは有色人種向けに健康および美容製品を提供する「Walker & Company Brand」です。男性向けブランド「BEVEL」と女性向けブランド「FORM」を展開しています。
買収額は非公表であるが、買収前に行われたシリーズBまでに同社は3330万ドル調達しています。P&Gはこの買収により、有色人種というセグメントに特化した知見を持つチームを手に入れました。
Walker & Company Brandがまず手掛けたのは有色人種の男性向けブランド「BAVEL」でした。グルーミングといわれる身だしなみに関する商品を展開しています。縮毛・パーマなどの髪や炎症や隆起など肌など黒人特有の悩みを解決する商品がラインナップされています。
その次に同社は黒人女性のヘアケアに焦点を当てたブランド「FORM」を立ち上げました。このブランドの商品も高い評価を得ており、拡大中です。
この買収によって、Walker & Brand Companyの製品はD2Cモデルを超え、P&Gの流通チャネルおよびマーケティングを用いて世界の有色人種に届けられるようになります。
またP&Gは多文化共生社会に共鳴している企業という評判も得ました。その上、有色人種のブランドに対する高いロイヤリティを手に入れることができたでしょう。
5. This is L – 女性向けヘルスケアブランド
拠点: アメリカ
設立年: 2011年
買収された年: 2019年
買収額: 1億ドル
次に取り上げるのは女性向けヘルスケアブランド「L.」です。生理用品や避妊具などの商品を展開しています。
同社の創設者Talia Frankelは元々国連や赤十字などで働いていたフォトジャーナリストでした。彼女は発展途上国で女性の人権とHIVの脅威を目の当たりにしました。それを解決したいという思いから彼女は2011年にL.を創業します。
女性が教育の欠如や貧困などから生理用品にアクセスできない世界を終わらせたいという願いが「L.」のピリオドには表されています。ミッションが世界観に忠実に再現されているD2Cブランドです。
L.は2019年にP&Gに買収される前、Y Combinatorなどから2015年にシードで資金調達を行っています。この買収はP&Gのフェムテック領域の強化を意味します。
L.のヘルスケア商品はオーガニックです。パッドやタンポンなど幅広く女性向け商品をラインナップしています。現在、世界で2億以上のL.の商品が販売されており、アメリカ、インド、ネパールなど世界25ヶ国に行き渡っています。
P&Gのリソースを手に入れ、活用することができるようになったので、L.の願いは製品とともにより拡大していくでしょう。
6. Billie – ピンクタックスを排除したカミソリブランド
拠点: アメリカ
設立年: 2017年
買収された年: 2020年
買収額: 非公開
最後に取り上げるのが「Billie」です。前書きに貼ったニュースで話題になっているブランドです。
Billieはピンクタックスを排除した高品質なカミソリブランドです。「ピンクタックス」とは女性向けの商品が男性向けの商品に比べると割高に価格設定されていることを指した言葉です。一般的に女性向け商品は男性向け商品より7%ほど高くなっているそうです。
Billieのカミソリはピンクタックスを排除して男性とほぼ同価格で提供されています。同社はこれを大々的に宣伝し、注目を集めました。世界的に問題となっているジェンダーギャップに挑戦する企業です。
Billieの商品はサブスク型で提供されています。頻度も個人に合わせて調整することが可能です。Billieは現在、カミソリ以外にボディーローションやリップなど他のパーソナルケア商品にまで拡大させています。
P&Gはこの買収によって女性ミレニアム世代の心を掴むノウハウとHARRY’Sやダラーシェイブクラブに並ぶ人気シェービングブランドを獲得したことになります。P&Gの既存のシェービングブランドは苦戦していると伝えられており、この買収は競合潰しなのではと先の記事では指摘されているのです。
ことの真偽がどうであれ、P&GもBillieも女性をエンパワーメントする方針を持っているのは一緒です。今後どう推移していくのか見守っていきたいです。
大企業のD2C買収戦略を考察
さて、ここまでP&GのD2C買収事例を見てきました。この章ではそこから読み取れる大企業がD2Cスタートアップを買収する意図を考察していきたいと思います。
少なくとも以下3つ挙げられるのではないでしょうか?
- 自社の商品ラインナップの補完
- データとマーケティングの知見獲得
- 人気の商品をさらに人気にする
それでは一つずつ説明していきます。
自社の商品ラインナップの補完
自社の展開しているカテゴリや価格帯にない商品を補完するためにはどうすればいいでしょうか?
二つ方法があります。一から自社開発するかすでに伸びているD2Cブランドを買収することです。
自社で一から開発する場合、すでに伸びているD2Cスタートアップは競合となってしまいます。資金力で上回る大企業とはいえ、すでにある程度は顧客のロイヤリティを獲得しているD2Cブランドと熾烈な戦いを繰り広げるのは時間と労力、費用の面からあまり得策ではないでしょう。開発した商品が必ず市場で受け入れられる保証もありません。
そのような時、伸びているD2Cスタートアップを自社に取り込むという判断は素早く商品ラインナップを拡充して、顧客とのアクセスを獲得するには最適です。
データとマーケティングの知見獲得
D2Cの買収は大企業の既存の販売戦略を変えうるかもしれません。それはデータの活用とマーケティングの二つの面に表れます。
例えば、P&Gは伝統的に卸売のモデルで成長してきました。しかし、これではユーザーの属性を即時的かつ正確に把握するのは難しいです。誰でも少額でオンライン販売が始められる現在では、大企業といえど一次情報のデータを持たないことには足を救われかねません。
その点、伸びているD2Cスタートアップにはしっかりと顧客と直接対話して、積み重ねてきたデータがあります。これを買収によって手に入れることで大企業は新たな顧客アプローチのノウハウを学び、新規の商品開発や既存商品の販売戦略にも応用することができるのです。
実際、D2Cブランド買収以降のP&GはSK-Ⅱなどの定番人気商品でパフォーマンスマーケティング戦略を積極的に行うようになりました。インフルエンサーやSNSに投資を行っています。
また、D2Cスタートアップのほとんどはホリゾンタルなものではなく、ニッチな領域に食い込んでいます。上にあげたP&Gの買収先の例で述べると、First Aid BeautyやWalker & Company Brandなどがそうでしょう。
彼らは特定のセグメントにおけるマーケティングのプロです。自分たちが主戦場にしているターゲット顧客に向けた商品をどのように作り、訴求するのかに関して熟知しているからこそ成長し続けているのです。
大企業はこういった特定のセグメントに強いD2Cブランドを買収することで、彼らのマーケティングの知見を血液として体内に取り込み、循環させていくことができるのです。
人気の商品をさらに人気にする
Instagramが世界でDAU10億人のSNSプラットフォームに成長できたのは果たして自分だけの力でしょうか?それはきっと首を傾げなくてはいけない質問です。
Instagramが世界的な人気を獲得できたのにはFacebookの役割が大きいのは紛れもない事実でしょう。Facebookはユーザー数3000万人の時代のInstagramを10億ドルで買収しました。ある程度人気ではありましたが、当時この買収額はあまりにも高く市場でザッカーバーグは散々に叩かれました。
しかし、その後InstagramはFacebookの広告技術や営業・マーケチーム、ノウハウを活用し、短時間で巨大プラットフォームに成長することができたのです。人気だったサービスをさらに揺るぎない人気にさせたのです。
これはD2Cブランドにも言えることでしょう。大企業が持っている免税店や百貨店などの販売チャネルを活用することができれば、さらに多くの顧客に露出することができ、更なる人気を獲得することができるかもしれません。
大企業の持つマーケティングのノウハウがD2Cブランドに活きることもあるでしょう。双方向的に得手不得手を補い合い、シナジーを生み出せます。FacebookにとってのInstagramのように、グループの屋台骨を担う大きなブランドに育つことは決して夢物語ではないでしょう。
このように大企業によるD2C買収戦略について考察してきましたが、意図はこれ以外にもあるでしょう。これらをディスカッションしたいのでぜひTwitterなどで意見もらえればなと思います。
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