ANOBAKAで投資担当をしている中 縁嗣(ナカ エニシ)です。
最近アメリカを中心にGenZ(1990年代中盤ー2000年代初め)のベンチャーキャピタリストが増えていると言います。今回起業家と一緒に産業を作っていくVCの中でおそらくよりトレンドに敏感なGenZのVCがどのような領域に注目しているのか、またどのようなGenZのVCが活躍しているのか気になったため調べてみました。
記事の前半ではGenZのVCがどのようなトレンドに注目しているのかをまとめ、後半ではGenZ VCの中でもとりわけ注目されているTikTokのフォロワーが2400万人おり、19歳の投資家Josh Richards氏と彼の投資先を紹介します。
なお僕自身もZ世代のVCなのでポジショントーク満載であることはご了承ください。
GenZ VCと彼らが注目するトレンド
こちらの参考記事には29名のGenZのVCが紹介されていますがZ世代がベンチャーキャピタリストになる方法は決まっていないと言います。
例えばコールドメールからVCに入った人もいれば個人的なプロジェクトを通してVCからオファーを得た人もいます。中には18歳でスタートアップのマーケティングに関する本(MakingMoonshots)を執筆し、LuxCapitalというVCに入ったRahulRana氏という方もいるから驚きです。
一方でGenZのVCにはいくつか共通点があります。
一つがソーシャルメディアをうまく活用していることです。Josh Richards氏のようなTiktokのスターもエンジェルやVCとして活躍しているケースがあります。
二つ目が独自のZ世代のベンチャーキャピタリストのコミュニティを上手く形成していることです。AllbirdsやGlossierに投資しているニューヨークのVCのLererHippeauに所蔵する23歳のアナリスト、MeganLoyst氏はまだVCに入って5ヶ月ですが5,000人を超えるZ世代のVCが集まるGenZVCというslackコミュニティを作っています。
また、GenZのVCが注目している領域にも傾向があります。2020年の10月にMeagan Loyst氏が取られたアンケートで世界のGenZのVCが注目している領域の調査がありました。
こちらによると
GenZのVCに最も注目されているトレンドはクリエイターエコノミーです。こちらはクリエイター寄りのインフルエンサー、デザイナー、ライターPodcastorなどが個人で稼げるツールの市場になっています。
例えばアメリカの9-12歳の子供の2/3がRobloxというゲームを個人が作れるNocodeのサービスをプレイしており、16歳以下の子供の1/3がプレイしているといいます。子供の中にはRobloxのゲームを作って生計を立てている人もいると言います。
GenZの特徴としてプログラミングや動画編集の高度なスキルがなくても自分のクリエイティビティが発揮できる環境が物心つく頃からあります。例えば動画を作りたければTiktokで簡単に撮影編集してUPし、ゲームを作りたければRobloxで作れる環境があります。
今までのインフルエンサーが商品紹介などで稼ぐ市場とは違い、クリエイターエコノミーは1万人のフォロワーからだけでなく1000人のコアなファンから稼ゲルという違いがあります。また自分のクリエイティビティで稼ぐ点でもギグエコノミーとは異なる価値観です。例えばライターがニュースレターツールのSubstackでニュースレターを使って稼ぐのが良い例です。
誰にでもスキルを身につければチャンスが巡ってくるクリエイターエコノミーが発展し、そしてGenZは自分と同世代のスターが生まれることを若い頃から見ているのでクリエイターは今後さらに増えると予想されます。
二番目に注目されているのはEdtechです。こちらはコロナの影響が大きく、大学がオンライン化されたことで年間250万円-500万円を大学に払う価値があるのかという疑問が生まれているようです。Edtechの中でもゲーミフィケーション、パーソナライズ、社会人教育という分野が注目されています。
三番目はソーシャルゲーミングです。FortniteやRoblox,どうぶつの森などのメタバースの流れは非常に注目されています。特にGenZはゲーム内でリアルと同じように友達を作ったりとゲームのソーシャルネットワーク化というトレンドも顕著です。
四番目はエンタープライズ製品のProsumer/Consumerizationです。簡単に説明するとエンタープライズ製品のUIUXをC向け商品のように再開発するというトレンドです。デジタルネイティブ世代は良いUIUXのプロダクトに囲まれているため、UIUXに対する感度や要求する基準が高いです。そしてそのようなGenZも社会人になりますが、BtoBのソフトウェアは依然として古いUIのままでここは大きな市場機会が残っています。
例えばSlackやNotion,Airtable,Figmaなどが次世代のツールとして拡大しているのはこのような背景があるでしょう。またコラボレーションツールもリモートワークの普及で注目されており、GenZのVCは注目しているようです。
次にGenZのVCの中でも象徴的な人物のJosh Richards氏について解説していきます。
Josh Richards氏
Josh Richards氏はカナダ生まれの19歳のインフルエンサーでTikTokのフォロワーが2400万、インスタが740万、Youtubeの登録者が240万人います。TiktokではSwayhouseのメンバーで活動しており、Tiktokで2019年度では150万ドルをスポンサーフィーで稼いでいる5番目に稼いでいるTiktokerでした。
SwayHouseはロサンゼルスの豪邸に住んでおり、ダンスやスタント、いたずら系のビデオを撮影している6人のTiktokスターグループです。
SwayHouseのメンバーのBryHallとGriffinJohnsonとTikTokの収益を使用し、エンジェル投資家としてインフルエンサーの収益管理SaaSのStirや確定拠出年金用の資金のキャッシングサービスLendtable、Breakrというインフルエンサーとアーティストのマッチングサービス、ティーン向けチャレンジャーバンクのStepなどに投資しています(後半で一部説明します)。
Stirは今後ビックディールを控えており、またLendtableもYコン出身の有望企業でかなりイケているスタートアップに投資している印象です。
またBreakrに関しても最近は音楽がTiktokから流行るケースが多いのでアーティストがインフルエンサーマーケに力をいれる時流は明確で、今後Breakrから著名アーティストが生まれる可能性もあって非常に面白いチャレンジと個人的にも感じます。
Josh RichardsはショートムービーアプリのTrillerのCSOも兼任しています。2021年の一月にSwayHouseは退団し、アーリーステージのベンチャーキャピタルであるRemus Capitalに参画し話題になりました。
Josh Richards氏含むSwayHouseには1000万人以上のフォロワーがいるのでC向けに一気に拡散したいスタートアップからは非常に魅力的に写っており実際に投資先からの評判は良いようですが、パーティーで隣人の家にゴミを飛ばしたり、レストランで電子タバコを吸って炎上するなどの行動が目立つためシリコンバレーには懐疑派が多くいるようです(笑)
アーティストのChainsSmorkersがVCファンドを始めた例もあり、今後このような拡散力を武器にしたインフルエンサーやクリエイター出身のVCがさらに増えてくることが予想されます。
以降は彼の投資先で気になった会社を紹介していきます。
Stir Money– クリエイターの収益管理SaaS
StirはYoutuber・ポッドキャスター・ライターなどのクリエイターが広告など様々なサービスから得られる収益を管理するソフトウェアを開発しています。
Josh Richards氏は4億円を調達したラウンドでエンジェルとして入っています。他の投資家はYoutubeの共同創設者のChad Hurley、元a16zのパートナーのLiJinなどが投資しています。
クリエイターの課題として、Youtubeの広告、Patreonのサブスクの収益、ショッピファイからのグッズの収益、ポッドキャストの売り上げなど収益が分散され、かつ支払いのタイミングがずれていたり、複数メンバーで活動していると収益の配分が面倒というものがありました。
そこでStirは
1.収益管理のダッシュボード
2.振込日時のカレンダー
3.収益の配分
4.他のクリエイターとのコラボのマッチング
のソリューションでクリエイターの課題を解決しています。
マネタイズは収益の分配の際の手数料を要求したり、将来的にはサブスクで収益化する予定と言います。
こちらは確定情報ではないですがa16zが$100Mのバリュエーションで投資する権利を獲得したらしく、$10Mほど投資するのではないかと言われています。まだプロダクトが非公開版であることを考えると驚くべきバリュエーションです(笑)
Stirが注目されている背景にアメリカではクリエイターエコノミーという領域が非常に盛り上がっており、クリエイターの収益化用のツールが乱立していることが挙げられます。ニュースレターのSubstackや、アダルト中心の独自コンテンツが見れるOnlyFans、ファンクラブサービスのPatreon、ビデオレターのCameo、最近だとClubhouseも収益化できる手法を探っているようです。
クリエイターエコノミーとクリエイターエコノミーを加速させるサービスは日本ではまだ少ないので注目しています。
Versus Game -ソーシャルベッティングアプリ
Versus Gameはソーシャルベッティングアプリです。簡潔にまとめるとユーザーが作った2択で選べるクイズがあり、そのクイズをYes or Noで回答すると、反対側の選択をした人とマッチし、結果がわかると勝者にお金が配分される仕組みです。
例えば写真のようにUFC(アメリカの総合格闘技の大会)でISRAEL ADESANYA氏かJAN BLACHOWICZ氏どちらが勝つかというクイズがありました。このようなクイズがUGC(ユーザージェネレイテッドコンテンツ)で作られる仕組みになっており、こちらのクイズはJoshRichards氏自らが配信しているものです。UIはTiktokに近いです。
クイズのジャンルは多岐に渡っており、他にはRobinhoodが2021年中にIPOするか?やCovid-19のワクチンが2021/9/1までに米国民9割に配布されるか、クイーンズキャビネットがNetflixのランキングで10位以内に入るかなどの質問があります。
賭ける側のユーザーはそのようなクイズに回答するたびに0コインから19000コイン(1コインおそらく0.1ドル)の範囲で選択でき、例えば100コインを賭けると勝利したサイドが175コイン獲得し、負けたサイドは失います。またクイズを作った人にも報酬が支払われる仕組みになっており、お金を払ったmatchがあるたびに0.2ドル稼げる仕組みになっています。
実際今までに600万人以上のプレイヤーがプレイしており、賞金は1050万ドルを超えているようです。
インフルエンサーが出題者になるケースが多く、インスタやtwitter、Tiktokに質問を共有できる仕組みでバイラル性を構築しているのが非常に上手いです。
ファイナンスはシードラウンドで$4MをRaised in SpaceというScooter Braun’s Ithaca HoldingsとRippleの合弁会社とPlusEight EquityPartnersをリードで、他にもJosh Richards含むSway HouseのメンバーやRobloxのボードメンバーのCraig Donatoなどのエンジェルが入っています。
国内ではギャンブルのスタートアップは法律的に厳しいですが、このような新たなエンタメサービスの動向を注目したいと思います。
GenZ VCの台頭
海外のGenZ VCを調べている中で彼らが独自の生態系を築いたり、注目する業界にGenZならではのいろが出ている点が非常に面白いと思いました。自分含めGenZの投資戦略が合っているのか、間違っているのかは現時点ではわかりませんが、今後のデジタルネイティブの人口が増える中でtoCのニーズが変わっていき、さらにデジタルネイティブが社会人になりtoBのニーズも変わっていくことが予想される中でそのトレンドやUIUXに対する肌感覚が近いGenZのVCが活躍する未来があるのかもしれません。
個人的にもGenZのトレンドや最新のスタートアップのトレンドをtwitterを中心に発信しているのでフォローしていただけると幸いです。
また、上記で紹介したような新しい領域で起業したいor資金調達したい人がいればぜひお話しましょう!
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