著者: たかはしゆうじ( @jyouj__ )
菅首相が辞意を表明し、自民党総裁選を経て岸田首相が誕生しました。そして、衆議院の任期満了に伴い、10月末に衆議院選挙が行われます。目まぐるしく移り行く政治の中で各党の政策が出揃いました。
各党みな給付金などの所謂”バラマキ”と揶揄される政策を看板にし、マスメディアでも大きく報道されています。一方で、それ以外の政策に関して完全に国民にリーチできているわけではありません。そこで、この記事では特にスタートアップに関係のありそうな政策に関して、各党の政策から箇条書きで抜粋し、最後に総論としてまとめていきたいと思います。
※政策はそれぞれの政党の政策集より抜き出しました。見落としや抜け漏れなどあった場合、指摘していただけたら随時編集いたします。
※この記事はどの党の宣伝でもございません。一方を称賛したり批判したりしないよう中立性に配慮しています。
自民党
- 科学技術投資において、5年間総額30兆円の政府研究開発投資
- 2022年までに10兆円規模の大学ファンド実現
- カーボンニュートラル実現に向けて2兆円基金、投資促進税制、規制緩和を行う
- 急成長スタートアップを着実に創出するため、大規模かつ長期的な資金供給、人材育成、海外市場展開の支援
- IPOにおける価格プロセスの見直し
- SPAC制度の検討
- 岩盤規制改革を含む環境整備(スーパーシティ、国家戦略特区、Beyond 5G、ヘルスケア領域、日本酒輸出、放送メディア)
- MaaS等の新たなモビリティサービスの導入の推進
- 物流や交通、建設領域でのDX推進
- 不動産関連の政策(住宅ローン減税、住宅の木造化、未利用の土地整備)
- 事業者とフリーランスの取引における法整備
- 私的整理の利便化
- DX税制、IT導入補助金などの推進
- キャッシュレス決済やブロックチェーン技術などの技術革新支援
- 二次元コードを用いた納税、電子記録債券の普及
- 経済安全保障の観点から、ディープテック支援
公明党
- 2兆円の「グリーンイノベーション基金」を活用
- グリーン分野への業態転換、教育訓練給付制度の活用
- 固定価格買取制度(FIT)、プレミアム交付制度の活用
- 海外の環境投資基金の国内流入を目指す
- マイナンバーカードの活用。コンビニ交付導入支援、自治体マイナポイント事業、健康保険証との一体化、医療費控除手続きの簡素化、投薬履歴のネット閲覧
- 国税のスマホアプリでの納付
- 電子インボイス
- さまざまな交通手段を一つのアプリで経路検索や支払い等を一括で行えるモビリティサービス「MaaS(マース)」を推進
- デマンドタクシーの利用補助、電動低速モビリティの活用
- コワーキングおよびオープンスペースの活用、空き家リノベーション支援
- 改正銀行法に基づき、融資だけでなくコンサルやビジネスマッチング支援
- ベンチャー企業などに出資拡大後押し
- 大学ファンドを10兆円規模へ拡充
- SBIR制度の推進(※SBIR=研究開発から実用化・ 事業化まで一貫して支援するスタイル)
- デジタル・プラットフォーム取引透明化法の対象にデジタル広告市場の追加
- スタートアップへの政府系ファンドからのリスクマネー供給
- 起業家教育の支援
立憲民主党
- マイナンバーカードの活用
- シビックテック
- 中央銀行デジタル通貨発行の議論
- 年収1000万円まで所得税実質免除
- 金融所得の総合課税化を目指す
- スマート農業の推進。「食」「酒」の輸出
- デジタル地域通貨の活用
- フリーランス、ギグワーカー保護
- 再エネファンド、グリーンポンド促進
- 国産クラウドサービスの確立
- 量子技術の実用化、次世代インターネット開発支援
- 巨大デジタルプラットフォーマーへの規制
- 起業の促進、プログラミング教育
- 政府の研究開発予算の増額、20兆円規模の研究開発費確保
- IoTやAI、ブロックチェーン、再生医療の支援
- 学校教育現場でのエドテック推進
- 投資減税の活用
- 特区制度、規制除去、ビッグデータの活用
- シェアリングエコノミーの法整備
- 大企業と中小企業の取引における独禁法の運用徹底化
- 製造業対象の減税を非製造業にも拡充
- 2030年までに公的資金50兆円を脱炭素社会実現に投入
- 固定価格買取制度の改正およびその後の電略ルール整備
日本維新の会
- 金融所得の総合課税化、フラットタックス導入
- 租税特別措置法の廃止
- エンジェル税制の促進、ストックオプションにかかる課税等の見直し
- 交際費の課税見直しおよび負担軽減
- NISAについて時限措置から恒久措置へ、また上限の拡大
- フィンテック推進に向けて、銀行・証券・保険の垣根を越えた規制改革
- CBDCの開発および導入検討
- 規制改革において「事前規制から事後チェック」
- 特区活用、スーパーシティの実現
- オープンプラットフォーム 拡大、データ流通市場の創生支援
- 自治体、企業、研究機関と協力したシティOSの実現
- 周波数オークションの導入
- キャッシュレスの方式で納税や保険料納入の検討
- 大企業と中小企業の取引における独占禁止法の優越的地位の濫用禁止規定の厳格運用
- 医薬品販売などの過度な対面販売規制見直し
- 農地法改正により、株式会社の土地保有を全面的に認める
- NFTのルールづくり
- ライドシェアや民泊などの規制を廃止
- eスポーツの国際大会の積極的招致
- 基礎研究の十分な予算確保
- 診療報酬について、受診の量に応じた出来高払い(pay for service)の仕組みから受診の質・価値への支払い(pay for performance)への移行
日本共産党
- 残業時間の上限を「週15時間、月45時間、年360時間」に規制
- 企画業務型裁量労働制、高度プロフェッショナル制度を廃止
- フリーランスやギグワーカーの保護
- インボイス制度の導入中止
- 富裕層の株取引への税率引き上げ、金融所得の総合課税化
- 富裕層の資産に課税する富裕税や為替取引額への課税する仕組みを創設
- 大企業の研究開発減税、賃上げ減税、租税特別措置の廃止
- 中小企業支援税制の強化
- コスト削減に基づく地銀再編の反対
- デジタル・プラットフォーム透明化・公正化法を改正
- 公正取引委員会の独禁法厳格運用
- プラットフォーマーに対する監督、調査、監視、執行する権限を有する独立したデジタル監督官設置
- デジタル庁廃止、マイナンバーカード廃止、日本版GDPR制定
- 再生可能エネルギー推進
- ライドシェア反対、タクシーへのダイナミック・プライシング導入反対
- 国家戦略特区の指定等の見直し
- 長期的な基礎研究の支援を強める
- 露骨に大企業を支援する産学連携支援策等の予算削減
国民民主党
- インボイス制度の導入反対
- オープンイノベーションの積極活用
- 研究開発への補助金増額
- カーボンニュートラルの促進のための基金設立
- デジタル、環境分野においての投資促進のためハイパー減価償却税制を導入
- 事業向け融資に関する第三者保証の廃止
- エドテック推進
- 10年間で50兆円規模の教育国債を発行し、科学技術に投資
- デマンドタクシーの普及
- 経済安全保障に基づいて、重点産業の保護
社民党
- 3年間消費税ゼロ、内部留保に臨時課税
- 脱炭素社会への投資
- 学校や公共施設での生理用品無償配布、生理用品の消費税免除
- デジタル庁やマイナンバーカードへの反対
れいわ新選組
- 派遣法見直し、長時間労働規制、ギグワーカー保護
- デマンドタクシー支援
- マイナンバー制度の公正な税徴収システムへの移行
- スーパーシティ構想中止
- 脱炭素社会に向けて官民合わせて200兆円のグリーン投資
- 所得税や法人税の累進性を強化
- インボイス制度の導入撤回
- 金融所得課税の総合課税化
- 不況時には高額資産への資産課税を実施
- 半導体などディープテック領域には条件付きで補助金
NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で
- 起業支援を含む多様な働き方推進
- マイナンバーカードの活用賛成
総論
ほとんどの党が世界的な潮流である脱炭素社会に向けた投資を政策に掲げています。また、日本社会の慢性的な課題であるデジタル化の普及についても与野党ともに支援を打ち出しています。再生可能エネルギー領域やDXに取り組むスタートアップについては社会情勢も追い風に成長が期待されます。
コロナの感染拡大や国際情勢の変化から経済安全保障という概念が浸透してきました。バイオやAI、半導体、宇宙などディープテック領域の企業に重点的に投資されていくだろうことはどの党が政権を取っても疑いようがありません。また、海外への優秀な研究者の流出などから、政界も危機感を覚えたのか基礎研究を含む科学技術および大学研究への大幅な予算増額を各党ともに政策に掲げています。
GAFAをはじめとする巨大デジタルプラットフォーマーへの規制、まちづくりの観点からのMaaSへの注目、起業支援等も多くの政党で見られます。
一方で、違いが見られるところもありました。インボイス制度に関しては中小企業およびフリーランスへの負担が増えるとして、日本共産党・国民民主党・れいわ新選組は反対を表明しています。マイナンバーカードに関しても、自民党・公明党は積極的な活用、立憲民主党・れいわ新選組は一定の活用に言及している一方、日本共産党・社民党は反対しています。
岸田政権誕生で株式市場から目を向けられ、争点になっていた金融所得課税に関しては、立憲民主党・日本維新の会・日本共産党・れいわ新選組は総合課税化を目指すとしています。日本共産党・れいわ新選組はさらに富裕層への資産への課税も検討しています。また、複雑になっている企業への減税や租税特別措置についても争点となっています。
スタートアップが活用しやすいように自民党・公明党・立憲民主党・日本維新の会は岩盤規制撤廃について明文化しています。フィンテック、ヘルスケア、民泊などの領域の盛り上がりが期待できます。一方で、ライドシェアに関しては日本維新の会は規制撤廃、立憲民主党はシェアリングエコノミー関連の法整備で対応、日本共産党は反対の姿勢を見せています。
環境整備に向けて、自民党はIPO価格プロセスの見直しやSPAC制度の検討を政策に加えている一方、日本維新の会は減税などを含めた税制改革で対応しようとしています。
大規模に喧伝されている政策以外の細かい政策の違いについて知る手助けになれたら幸いです。スタートアップに関連する政策は右派、左派問わずそれぞれの党が日本の経済力底上げのため多様なものを用意しています。それらにも目を向けて投票にいきましょう。