コロナ収束の時間軸はまだ不透明ではあるが、確実に社会が変容しつつある。このコロナショックを契機にこれからの社会のあり方や経済活動の前提を考え直さなければならない。
この「オンライン経済再評価」のシリーズではKVP投資先の中でいち早くアフターコロナ社会におけるスタンダードを見据えてサービス展開している各社の社長に自社及びオンラインでの経済活動が劇的に変化している最前線をインタビューしていく。
その第5弾として行政推奨の地域SNS「ピアッザ」を運営している矢野さんにお話を聞いてみた。また、このシリーズの趣旨に沿ってzoomでのオンラインインタビューという手法を採用しています。
-ではピアッザの簡単なサービス説明をお願いします。
街のみんなで暮らしに関する情報をやりとりしたり、ちょっと困った時に相談しあったり、使わなくなったモノを必要としている人に譲ったり。
この街をもっと知り、みんなとつながることで、私たちの暮らしはもっと楽しくなる〜街のみんなで情報交換〜行政推奨の地域SNS「ピアッザ」を運営しています。
現在30くらいのエリアで地域SNSとしてご利用していただいて、東京の中央区ですと30~40代の世帯の3割近くが利用しているような状況です。
-中央区の30代~40代の世帯で3割の利用率はすごいですね。現在のコロナ禍でピアッザヘの影響はどのようなものがありますか?
2つのフェーズで考えると短期的にはユーザーさんがローカルの繋がりや情報を求めていてアクティブユーザー数などは顕著に増加しています。またビジネスの面でいうと広告出稿などは減少しています。
ただ、ローカルな商店のデジタルシフトが大きく起きていて、ポテンシャルの高さを非常に感じています。
中長期的にはこれまで考えていた成長のタイムラインが大幅に短縮されてデジタルトランスフォーメーションが起きていて、ローカルの広告出稿や行政の連携がこれまで以上に進むと考えています。
また、創業時から考えていた点ですが、街づくりの価値がハードからソフトへの転換が加速していくと思っています。
これまでの街の価値とは建物の綺麗さや勤務地からの立地などのハード面が占める割合が大きかったのですが、働き方が大きく変わり在宅でも仕事ができるようになったり、家にいてもサービスを受けることが可能になりました。私たちは2030年を目処に働き方が変わると想定していましたが、コロナの影響でここが一気に進んだと感じています。
これからの街の価値はソフトとハードが融合されたもので、ソフトとは地域SNSでのコミュニティやそれに付随するサービスだと考えています。
ただ、ここで履き違えてはいけないのはオンラインファーストの流れが止まることはないと思っていますが、オンラインのソフトのみになることは絶対にないと思っています。
ローカルだからこそリアルにアクセスしやすい状況で比率はソフトの比率が増えると思いますが、現状の社会情勢を踏まえてリアルの価値がこれまで以上に上がってくると思います。
リアルでの体験や消費がラグジュアリー化していくと思っていて、そこをオンラインのソフトが支えていくというイメージです。
-今後の街の価値はソフトとハードの融合が大切なんですね。行政さんとの連携を積極的に進めていますが、行政さんの考え方も同じような考え方なのでしょうか?
コロナの影響でリアルで情報を届けられないであったりや届けられる範囲の限界みたいな問題が浮き彫りになったと思います。
自治会や町内会などの仕組みを見直す際にソフトの重要性を体感していて、行政さんとしては地域の全ての人に等しく正しい情報を伝えたいという思いがあり、その中の選択肢の1つとしてピアッザを選んでいただいているような現状です。
また地域の方もソフト面での地域の繋がりを重要視していて、大阪の北区は住民の方からの要望でピアッザの導入が決定し、行政の方も同じような問題意識があり要望から導入まで1ヶ月という短いスパンでの実現が可能となりました。
これまで20くらいの行政さんやディベロッパーさんたちとの連携・提携を行なっています。
ここはこれからどんどんを増やしていきたいと思っており、これまでの連携・提携の経験でかなりノウハウが溜まっており、行政の方やディベロッパーの方とスムーズかつ、効率的にローカルコミュニティを形成していくことができると思っています。
-かなりの数の行政さんやディベロッパーさんとの提携を行われていますね。ピアッザの1つの特徴としてコミュニティバリューという指標がありますが、これはどのような指標なのでしょうか?
コミュニティバリューとはピアッザが独自に作成している指標で、ピアッザアプリのユーザー間のグラフデータに基づいて、住民間での「つながりの数」「活動(参加・貢献)の量」などを加味し、その時点での街のコミュニティを数値化したものです。
先ほど街づくりにおいてソフトの価値が重要になってくるといいましたが、現状の日本においてはこれから作れらていく新たな市場だと思っています。
その中で物差しとなるものがないとソフトの価値の可視化ができないと思ったので、独自の指標を作成しました。
これに関しては大きな社会実験であると同時に社会提唱であり、数字に関しては正しいかどうかの議論は当然あると思いますし、チューニングを細かく行なっていく必要があると思っています。
これで実現したいのは街づくりのソフトの価値を定量的に誰もが分かりやすい形で可視化していきたいという想いがあります。
ミクロの話でPIAZZA自身が成功する/しないではなく、マクロの視点で街づくりの価値が大きな転換期を向かえている中で、必ず可視化するものが必要であると判断し指標を作成しました。
私たち以外の街づくりに関するソフトのサービスがどんどん出来てくることによって、市場自体が発展・成長していくと思っていて、その中でPIAZZAが選ばれるように企業努力をしていく必要がありますが、市場を独占したいという思いはありません。
これまでコミュニティに対するイベント予算を割いて施策を実行しても、効果検証がしづらい現状がありました。
コミュニティの価値が可視化されたコミュニティバリューがあることで、イベントの費用対効果が明確になり、次回へのアクションが定量的かつ建設的に議論することが可能になったということを行政の方からの意見としていただいております。
またコミュニティバリューの可視化によって定量的にうまくいった施策がナレッジとして溜まり、他の地域への横展開なども可能になり、ここが1番のメリットだと感じています。
-確かにコミュニティの価値を定量化するのは大事な要素ですね。では具体的にうまくいった取り組みはどのようなものがありますか?
三井不動産さんと取り組んだ、東京の日本橋の活性化がうまくいった事例としてあります。
三井不動産と地域SNSアプリ「PIAZZA」が連携しデジタルとリアルの融合で、ワーカーコミュニティを創出する街づくりプロジェクト「日本橋コミュニティ・エコシステム」開始
日本橋の老舗の商店さんの料理を気軽にテイクアウトできる施策を実施しました。
実際に一部の店舗さんではコロナの影響もありますが、これまでリーチできていなかった層にリーチできるようになり、ピアッザからのテイクアウト注文が売上の大半を占めるなどポジティブな反響がかなりありました。
また、老舗の商店と地域住民の繋がりをピアッザで推進した結果、住民の声を反映した新メニューの開発が行われました。
具体的にはお寿司屋さんでバラ寿司の販売を行なっていたのですが、妊婦の方は生物が食べれず注文できずにいました。そこで穴子などの生物を無くしたバラ寿司メニューの開発を行ったことで、妊婦の方でも食べられるメニューが開発されました。
それだけではなく、新しいニーズを掴めたことで病院にも生物が入っていないバラ寿司の導入が決まったり、1つの事象からさまざまな発展が起こりました。
こういった事例からも老舗の商店さんに地域住民の方の声が届く大切さを改めて実感しました。
-SNS特有のインタラクティブ性がうまく機能した事例ですね。PIAZZAの考える、未来のオンラインコミュニティとはどのようなものを考えていますか?
1つのテーマとしておいているのは「分散化」です。
これからは複数のコミュニティの同時接続していくことが大切だと考えています。
今までのコミュニティは1対Nの関係でしたが、オンラインによって手軽にコミュニティにアクセスすることができるので、スモールなN対Nの関係で相互に作用しあってコミュニティが発展していくと思っています。傍観者ではなく、コミュニティ全員が参加者となっていくような姿を想像しています。
その中で、在宅ワークなどの流れを鑑みるとローカルのコミュニティの重要性は非常に高くなってきます。
複数のコミュニティに同時に接続することで心の拠り所を増やし、多様性を育むことで、充実した安定的な生活が送れると思います。
-未来のオンラインコミュニティを作っていく中で、PIAZZAが大切にしていることはなんですか?
オープンなアライアンスを非常に大切にしています。
私たちはソフトとハードが融合された街づくりを実現したいと思った時に、1つのベンチャーでできることはかなり限られてきます。
街づくりは非常に多くの関係者が存在する中で、全員が同じ方向に向かって補完しあいながら進んでいく必要があり、その中でソフトに強みを持っているPIAZZAと、ハードに強みを持っている行政さんやディベロッパーさんとオープンなアライアンスを組んでいくことは重要だと感じています。
中長期的に見ると、どういった街づくりをどのような形で行なっていくかをオープンにしていくことが大切です。
-街づくりは様々なプレイヤーとの協業・補完関係で成り立っているんですね。最後にコロナの影響でローカルコミュニティの重要性が顕在化してきたと思うのですが、矢野さんは以前からローカルコミュニティの重要性に気づいていたと思います。これはどういう背景があるんですか?
個人的な体験と社会の流れの2つで重要性を感じていました。
個人的な体験でいうと子供が2人いるのですが、怪我をしてしまった時に名前も知らない隣人の方に助けていただいたという経験があります。現状、世界中の方と繋がれる世の中になっているのに、横に住んでる方の名前や素性を知らないことに大きな危機感を覚えたと同時に身近なところで繋がる必要性みたいなものを感じました。
もう1つは社会の流れの中で都市化というものが起きていました。100万人以上住んでいる都市が世界中で過半数を超えてきています。これがどういうことを引き起こしているかというと地縁がリセットされているということで、これまで田舎などで育んできた地縁が大都市に移動することでリセットされる。そうなると、都市で新たに0からコミュニティを築く必要があり、必然的に重要視されてくると思っていました。
なぜ東京で事業を始めたかにも繋がってくるのですが、東京は先進国の中でも社会的で人口が3000万人以上いる、世界の中でも一番の都市であると思います。そこで事業を始め成功することができれば、世界でも同じようにソフトとハードが融合された街づくりが実現できると思っています。
またソフトとハードが融合された街づくりは短期的には実現しないと思っていて10年くらいのスパンで着実に実現いていくと思います。
なので2015年に創業し、2025~2030年を目処にソフトとハードが融合された街づくりの実現を成功させたいと思っています。
-インタビューを終えて
PIAZZAに投資させていただいたのは2016年。
そこから矢野さんはぶれることなく「人々が支え合える街を創る」というミッション実現に向け、常にコアバリューにCommunity Firstを掲げ、価値のあるコミュニティ創りに愚直に突き進んでいます。
そうした価値のあるコミュニティを創り上げようとしているからこそ、オンラインだけでなくオフラインとの融合を意識し、行政やデベロッパー、鉄道会社など幅広い事業者とオープンなアライアンスを築いてきています。
コロナをきっかけに「街の価値がハードからソフトに転換する」という流れが大きく加速しています。地域で過ごす時間が増え、働き方、住環境、ライフスタイルに対する価値観は変容を余儀なくされ、その中でこれまでにないほどローカルコミュニティが求められる時代が来ると思ってます。
これからもPIAZZAがユーザーに愛され、街のインフラとしての役割を果たし、「人々が支え合える街を創る」というミッションを実現していくことを信じています。
KVPでは引き続き、オンライン経済圏の再評価に関して投資各社と議論を深めていこうと思っています。また投資に関しても以前と変わらず行なっていますので、投資を検討中の方はご連絡ください。