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【インタビュー】オンライン経済圏の再評価 #SOELU編

2020.4.13

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コロナ収束の時間軸はまだ不透明ではあるが、確実に社会が変容しつつある。このコロナショックを契機にこれからの社会のあり方や経済活動の前提を考え直さなければならない。

この「オンライン経済再評価」のシリーズではKVP投資先の中でいち早くアフターコロナ社会におけるスタンダードを見据えてサービス展開している各社の社長に自社及びオンラインでの経済活動が劇的に変化している最前線をインタビューしていく。

その第一弾としてオンラインヨガスタジオのサービスを展開しているSOELU株式会社の蒋さんにお話を聞いてみた。また、このシリーズの趣旨に沿ってzoomでのオンラインインタビューという手法を採用しています。

インタビュアー:長野 泰和
SOELU株式会社CEO:蒋 詩豪

※以下、敬称略

長野:お元気ですか?

蒋:どうしたんですか、急に。いつもと全然違うじゃないですか。

長野:今日は真面目なインタビューなので….。

蒋:いつも通り、明るくいきましょう!

-ではまずは簡単にサービス紹介をお願いします。

SOELUは「人生100年時代、続く健康を当たり前に」をビジョンとし、ご自宅で人気インストラクターのレッスンを受けられる、おうちフィットネス「SOELU」を運営しています。

サービスはこちら

-今回、コロナウィルスの影響によってオンライン系のサービス全般が伸びていると思いますが、SOELUさんの事業への影響はどうですか?

定量面でいうと、東京を中心とした外出自粛を受けてオンラインヨガスタジオの需要が増え、有料会員数でいうと1月から3月の間で1.7倍くらい増えました。

定性面でいうと【オンラインヨガ】というワードのTwitterの検索ヒット数がかなり増えている気がします。最近、インストラクターさんの店舗での営業が難しく、ZOOMを立ち上げて自らオンラインヨガのレッスンを無料・有料問わず行なっています。そこで個人インストラクターさんがオンラインヨガの良さに気づき始めて、ライブフィットネス文化が醸成されていると思います。

現状の社会情勢で定量面と定性面の両方でニーズの拡大が行われていると思います。

-有料会員数が1.7倍になったということですが、新規ユーザーさんの満足度はいかがですか?

SNSなどを見ると体感としては、半分はオンラインヨガだけで良いという意見と、半分はオンラインヨガは自宅でできて便利だけど、ジムやヨガスタジオと併用したいという意見がありました。

これまでジムやヨガスタジオに通っていた方が新たに会員になってくれているイメージで、すでにジムやヨガの良さを理解してくれている方が始められているので満足度は高い状態で提供できていると思います。

また、今後はリアル店舗とSOELUの併用に力をいれていく予定で、大手のジムやヨガスタジオと提携して少しでもフィットネスを無理なく続くようサポートをしていきたいと思っています。

おうちフィットネス「SOELU」はオフラインのジムやヨガスタジオと連携できるのでしょうか?

僕たちのテーマとして【共存共栄】を意識しています。オフラインのジムやヨガスタジオが全てオンラインに変わるのではなく、相互によって支え合い1人でも多くの人にフィットネスというものを身近に感じてもらいたいと思っています。

経済面のお話をするとオンラインとオフラインがうまく連携することで、ジムやヨガスタジオの退会予備軍の方をサポートできるのではないかと思っています。
ジムやヨガスタジオは仕事終わりの平日や土日のお昼に使われることが多く、仕事で忙しかったり、家事・育児で忙しかったりすると、ジムやヨガスタジオの営業時間中に行くことができません。そんな方達にオンラインヨガを使ってもらうことで、オフラインでフィットネスができないところをサポート出来ればと思っています。

-この市場の盛り上がりを受けて今後オンラインフィットネスへの参入が増えてくると思いますが、どういう考えを持っていますか?

経営陣で議論をしてコロナウィルスが1年以内に落ち着くパターンとコロナウィルスが1年以上続くパターンの2つに分けて、各競合のシナリオパターンと脅威度を洗い出し対応策を考えています。
競合の参入が始まってからでは対応が遅れるので事前に対応策を経営陣で話し合い、シナリオパターンに沿って適切に対応していこうと思っています。
具体的なことは言えないですが、敵対視するのではなくどうすればうまく【共存共栄】ができるかの方向で対策を検討しています。

-すごいですね。コロナの影響が明らかになっていくタイミングでその対策が早いなという印象がありますが、なぜ早期に対応ができているのでしょうか?

これはコロナウィルスの影響ではないのですが、去年の10月からこれまでは月に1回開催していた経営会議を週1回に変更したことが功を奏していると思います。

これまで月に1回のタームで経営課題を議論していたのですが、それだとどうしても打ち手の改善スピード遅くなると感じており、週1開催にしたことでPDCAの打ち手スピードが大幅に改善しました。
月1開催だと直近の打ち手を考える比率が多かったですが、週1開催にすることで議論の時間が4倍になり、ムーンショットやウルトラCレベルの施策に関しても高頻度で議論出来ているのが良かったです。

-なるほど。では現在の社会情勢において意識していることはなんですか?

LIVEレッスンの満足度の向上を意識しています。現在の社会情勢によってニーズの顕在化が行われており、まずはしっかりと良さを理解してもらうことに注力しています。

また、LIVEレッスンの利便性を感じてもらいたいと思っています。プロダクトの品質改善にも力を入れており、体験の敷居を下げつつもプロダクトの磨き込みに注力しています。
ライブフィットネスはすでにある市場ではなく、新たに文化を醸成して作っていく市場だと思っており、いきなり新規会員の獲得を拡大しても良くないと思っています。

市場の醸成→利便性の理解→市場拡大の順番が大切で、これを間違えると市場規模のトップラインの高さが低くなると思います。

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-ありがとうございます。現在の他業界も含めた各社の課題としてプレスリリースの打ち出し方が難しいと思いますが、その点に関して意識していることはありますか?

そもそもとしてプレスリリースに関しては意識的に注意を払って議論をしています。
SOELUもまだまだ模索中ではありますが、下手にやると炎上するリスクがあると考えています。
炎上含めてブランディングするというマーケティングの割り切りがあるのであれば良いと思いますが、経営陣がそこを認識した上でマーケティングを行うことが大切です。

ただ、炎上せずにメディア露出を行うことに越したことはないと思うので、そういったアイディアは常日頃、経営陣と話をするようにしています。

また施策に関しては、既存会員の棲み分けを強く意識しています。なにか無料プランを打ち出すにしても既存会員の不利にならないような配慮はしており、今回のプレスリリースでも初月無料にするのか?部分的な無料開放するのか?の議論は徹底的に行いました。

今回トレーニングレッスンの無料開放を行なっていますが、これは新たに追加したプランを無料開放しており、既存会員の方もこれから新規会員の方も平等になるように考えています。
SOELEの事業内容としては、既存会員が有料で利用しているものを一時的にでも無料化するのは良くないなという話になりました。

-プレスリリースに関してはかなり議論がされているんですね。今度はマクロの視点でお話を聞かせてください。
あらゆる業界がオンラインの再定義を始めていると思いますが、オンライン特化型の事業を作っていく上で苦労した点を教えてください。

SOELUはライブフィットネス市場に一番早く参入し、文化をゼロから作っていったこともあり、ユーザー獲得には苦労しました。また、絵面的にも一見You Tubeとの差異が作りづらいため、PRも苦労しましたね。なかなかメディアに取り上げられない日々が続きました。

-文化をゼロから作っていくのは大変ですね。一方で、まだオンライン化がされていないホワイトスペースな業界についてはどう思いますか?

そこはファーストペンギンの会社が大きくなる可能性が非常にあります。

ファーストペンギンの会社が事業を作る上で大切な要素としては、儲かっている感を出さないことだと思います。他の競合にあそこは儲からないというイメージを作り、競合参入までの猶予を作ることがこれまで以上に大切です。
これまで以上に競合の出現が早まり、時間との勝負になってくるので、大資本との戦い方を考える必要があると思います。

また競合を排除するのではなく、どうすれば一緒に市場全体を盛り上げていくかを考える必要があると思っており、今後より横断的な連携が必要になってくると思っています。

例えば、オンライン診療の初診化検討に関しても、業界全体で意見書などを集めて一致団結したからできたことであり、業界が敵対視することは健全ではないと思っています。

ただ、これからオンライン特化型事業に参入する場合は、レッドオーシャン化が早期化する可能性が高いです。これまでよりもオペレーションの丁寧さやプロダクトの作りこみを疎かにするとユーザーさんが一気に離れるリスクがあります。

以上の観点から、よりプロダクトのクオリティを初期から担保する必要があると考えています。

-いかに競合参入までの猶予を作るかが大切になってくるわけですね。そんな中、スタートアップが大資本に勝てるポイントはありますか?

大きく分けて2つの勝てるポイントがあると思います。

1つ目は意思決定のスピードの早さです。
現在の市場環境はあらゆる業界で変化のスピードが早く、そこに以下に素早く適応できるかが勝負になってきます。その点、スタートアップは柔軟でスピーディーな対応ができるので競合優位性があると思います。
逆に市場変化のスピードを自ら上げていけるようなスタートアップになれると、イニシアチブを持って事業展開ができると思います。

2点目は目線感の違いです。
大企業側としてはどうしても垂直立ち上げによる売上と利益を求められます。
足元で成果が出ないとそのサービスを大企業がやる意味みたいなものが薄くなり、撤退を余儀なくされます。
一方でスタートアップの場合は中長期で勝つために、足元の赤字はある程度許容される文化があります。
経済学におけるJカーブ効果を期待さていることが優位性になっていくと思います。

-インタビューを終えて

オンラインフィットネス市場は今回の社会情勢を強く受ける業界で、その分かなり早い段階での議論が行われており、リスクシナリオを1年以内と1年以上と短期と長期の視点が考えられていて危機意識が非常に高いと感じました。

また蒋さんは【共存共栄】を1つのテーマ掲げていましたが、オンライン単独では成立しない業界においてオンラインとオフラインの棲み分けを業界全体でどう取り組むか?取り組めるか?が大切だと感じました。ヨガフィットネスという従来オフラインでしか存在し得なかった市場がアフターコロナの社会においてはオンラインも市場の重要な構成要素になっていくというのを実感しました。

SOELUに関して言えば「ヨガなんて店舗でやるもんでしょ」という否定的な意見を言われ続けながらもこの2年ほどかけて丁寧にPMFしてきたことが現在の躍進に繋がっています。蒋さん自身も「オペレーションの丁寧さ」「プロダクトクオリティ」が成功の鍵だったと語っている通り、オンライン経済が見直されているとは言っても単純にオンライン化するだけでは受け入れられないという視点は示唆に富みます。

KVPでは引き続き、オンライン経済圏の再評価に関して投資各社と議論を深めていこうと思っています。

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