INSIGHT

インサイト

ニュースレターが切り開くクリエイターエコノミーの未来【theLetterインタビュー】

2021.10.18

RSS

本文およびインタビュアー: 中( @eni_naka )



昨今、クリエイターエコノミーというマーケットが注目されています。

クリエイターが自身の音声、映像、文字コンテンツを発売したり、グッズを販売しマネタイズするツールのスタートアップがユニコーンになっています。その代表銘柄と言えるSubstackは、個人が有料ニュースレターを配信できるプラットフォームで、ニューヨークタイムズやThe Vergeなどのメディアの人気ジャーナリストや個人のジャーナリストをはじめトップのライターが参画しトップ層は数億円単位を稼ぎ出しています。

ニュースレターという、一見レガシーなソリューションがなぜ急に注目され始めたのか。Substackと同じくニュースレター配信サービスのtheLetterを運営する株式会社OutNowの濱本氏・荻田氏に話を伺いました。

アメリカではSubstackの勢いがすごいですよね。Y CombinatorやA16zなどTier1のVCが数十億円の金額を投資しています。ニュースレターツールの創業者として、なぜ今ニュースレターという媒体が注目されていると思われますか?

濱本:ファーストパーティデータが注目されていることが1つ目の理由ですね。

そして、メールを直接送ることができる関係、つまりは顧客と直接つながっている状態になることができるニュースレターは、ファーストパーティデータの入り口として注目されています。

AppleやGoogleのサードパーティCookieを廃止する流れや、パンデミックで広告市場が上下したことによる広告モデルの不安定さが背景にあって、個人であれメディアであれ、ファーストパーティデータの重要性が再認識されました。そして、誰もが持っているメールアドレスで簡単に関係を結べるニュースレターは直接課金のモデルとも相性がよく、メールが再注目されることになりました。

2つ目の理由は、特定のプラットフォームに依存しないことです。これまで、プラットフォーマーの規約変更やアルゴリズム変更1つで売り上げが吹き飛ぶこともありました。YouTubeであれTikTokであれソーシャルブログであれ、同じことが起きています。クリエイターにとって、プラットフォームを変更すると0からのスタートになります。そんな中で、メールアドレスとかメールアプリって誰でも持っていて特定のプラットフォームに依存しないので、データとして優秀なんですよね。SNSなど他の発信ツールと併用してメールアドレスを収集できることも魅力です。

3つ目は、複数サービスや複数プラットフォームと併用しながら集客ができることです。

自分の顧客の中でも、TwitterはあまりやっていないけどInstagramはやっていますとか、Facebookは全くやっていなくてYouTubeばかり見ていますとか、色んなパターンがあります。消費者によってユースケースや使っているサービスがバラバラな中で、ニュースレターはほぼ唯一独立してプッシュでコンテンツを届けられる手段だと思っています。それが技術の進化とクリエイターエコノミーとガチッとハマったと考えています。


色々サービスがあった中でSubstackが後発で勝てたのは何故だと思いますか?

濱本:先ほど述べた、ニュースレターが注目されている点の3つをいいタイミングで満たしたからかなと思っています。メディア業界にペインが深い人たちがいて、その人たちがマネタイズをする方法が顕在化していなかった中で、Substackを通して従来の3〜4倍の年収になるみたいなストーリーを作れたのが大きいと思います。

あとはシンプルにお金かなと思っています。

ニューヨークタイムズの記者なら年収1000万くらいはあったはずです。そういう人たちを引き抜こうとしたら倍の金額を提示したりしないといけないですけど、それを出せたところは大きいですよね。Substackは、シノシズムという中国系のニュースレターを最初に成功事例として出したのですが、株主にまで巻き込むことができていて、本気のコミットを引き出せたのではないでしょうか。

一方で、日本のクリエイター達が使うサービスは素人っぽい人から始めることが多いと思います。成功しているクリエイターエコノミー系のサービスは、テレビやメディアなどでプロとして活躍していた人の代替手段として使われ成功を収めている、というストーリーが中心になっていると思います。


当然マクロで見るとメディアのビジネスモデルの転機もありますよね

濱本:私たちが対象としているターゲットの1つであるプロのライターさんやジャーナリストさんは、日本であれ海外であれメディアがこのままだとまずいということを皆さんわかっています。現場もそうだし、マーケットの数字でもわかっていると思います。

日本でも、老舗メディアの業績も芳しくなく、独立できる人は独立した方がメリットが大きい状態に一部なってきていると思います。ニッチなカテゴリでも500人,月1000円のニュースレターを登録してくれれば月50万円稼げますから、彼らにとってもそこまで大きいハードルではないんですよね。


そういったSubstackの盛り上がりを見て、Tech giantがニュースレターに参入する動きがあると激しいと思います。彼らの思惑とSubstackが果たして勝ち残れるかはどう分析されてますか?

濱本:FacebookどころかGoogleも来ちゃいましたからね。

彼らの意図は、自分たちがクリエイターエコノミーの大きな価値である「ディスカバリー」のところを担っているけど、自社の収益としてキャプチャできていないことへの懸念だと思います。Twitterは真剣にクリエイターコミュニティ企業になろうとしていますよね。

例えばTwitterはいかに既存のビジネスを守り、広告主を守りながら、クリエイターエコノミー企業に進化できるかが肝だと思います。これはずっと無料でやってきたものを課金します、となるのでユーザーの習慣を変える必要があるんですよね。その習慣をいかに早く変えるかが肝になると思います。これだけ使われているサービスの習慣を変えるのは難しく、ニュースレターやスペースとの連携を上手くしたとか、手数料が安いというメリットだけではSubstackとかのサービスには勝てていないのが現状かなと思います。外部リンクを遮断するみたいな強硬手段もありますが、ユーザーが離れるのですぐには意思決定できないんじゃないでしょうか。

一方で、クリエイターエコノミー系のサービスはTwitterなどのSNSとの併用が基本になっています。SNSへの依存が強みでも弱みでもあるので、データの独立性の良さを殺さずにサービス内にディスカバリーの機能を作り、どれだけワークさせるかが重要ですね。

ジャック・ドーシーが語る、未来の実験的メディア:WIRED ICONが選ぶ「次」の先駆者たち(4) | WIRED.jp
ジャック・ドーシー(WIREDより)


ジャックドーシーはなぜ本気でクリエイターエコノミーに向かってきたと思いますか?

濱本:彼本人が決済系の会社の代表でもあるじゃないですか。直接課金の可能性を知っているというバックグランドがあるからだと思います。Twitterは相当な価値を生み出しているのにキャプチャーが下手、お金に変えられていないんですよね。株主にも言われるだろうし、自分でもわかっていると思うので、クリエイターエコノミーにソリューションを見出しているのかと思います


クリエイターエコノミー企業になると言ってから株価が倍以上に上がっていますし、マーケットの期待感も見えますよね。昨今のクリエイターエコノミーの盛り上がりはどう思われますか?特に日本国内のマーケットにおいてクリエイターエコノミーはどうなっていくのでしょうか?

濱本:国内は圧倒的に成功事例が足りていないと思います。インターネット上の無形商材がほとんどだと思うんですけど、マスにはまだ怪しげなものと思われている側面がありますよね。

プロとしてテレビで活動していたとか、映画を作っていたとか、メディアに寄稿していたような人たちがインターネットで直接自分のオーディエンスとつながってマネタイズするという事例が足りていないなと。海外はその転換が起きているので、既存産業のクリエイターがざわついているんですよね。最初のヒカキンを作らないといけない。YouTubeも最初に10人くらい成功者が出てきて、その後にYouTubeの撮影を始める人がたくさん出てきたじゃないですか。今だとテレビ業界のプロである芸能人たちがたくさん参入してきています。動画を編集して投稿するのってすごいめんどくさいのにそれをあれだけ沢山の人にさせているっていうことがすごい。あれは強い成功事例があって、成功事例の人たちが儲かっているからだと思っています。クリエイターエコノミー企業は上手にすごい事例を作っていかないといけないと思います。


成功事例が大事なんですね。アメリカと日本という違いはあれど、クリエイターエコノミー企業の伸び方の方法論って何かありますか?

濱本:ちょっと前のスタートアップのグロースのさせ方ってアルゴリズムや技術にレバレッジをかけてグロースさせていくやり方で、グロースハックもコードを書くことでやっていたイメージですよね。クリエイターエコノミーのハックはクリエイターに選ばれることだと思います。クリエイターは、サービスを使う前にどんなクリエイターがどんな風に成功しているのかを知りたがります。なので、それを作れているかどうかと、それをどこまで外に出せているかが重要になっています。プロダクトは絶対に重要だけど、プロダクト以外のところでのプレゼンスが求められていると思います。Substackも Clubhouseも最初はお金を使ってでもユーザを捕まえて、その人たちに集中してコンテンツを作って貰っていたんですよね。テクノロジーのレバレッジだけでなく、営業や成功事例を作ることなどのコミュニティ施策が上手な人が最初のメンバーに必要だと思います。


コミュニティとか泥臭いCSとかが重要なんですね。言葉を選ばず言うと、クリエイターの方は変わっている方が多いと思いますが関わり方のコツなどはありますか?

リスペクトすることですね。僕らが直接関わる方は本を出していたりテレビに出ていたりする方々で、プロ中のプロなので、そこに敬意を払うことです。そして、その価値をインターネットに反映させる手助けをするということですね。


最後に何故お二人が日本のニュースレターマーケットで挑戦していくのか

我々二人は、クリエイターエコノミーという言葉が流行する前からずっとこのマーケットにこだわって事業に携わってきました。

荻田は美容師個人に着目する「HAIR」事業の責任者、シェフ個人に着目する「ヒトサラ」開発をやってきたことを通して、技能を持った個人とそのファンを直接テクノロジーでつなげることに強い興味を持っています。

私濱本も、音楽業界やマンガ業界のクリエイターを支援するような事業に携わってました。

お互い、クリエイターがファンと直接つながれる世界になったのに、なぜ彼らに収益の1割程度しか入ってこないのか疑問でした。そうした課題感から、荻田と二人でPatreonのようなメンバーシップのサービスをつくったり、アーティストがビートを売れるマーケットプレイス、小説家が編集者にピッチできるサービスなど、クリエイターエコノミーという言葉が生まれる前からクリエイターエコノミー系サービスにこだわってこれまでピボットを繰り返してきて、今があります。

ニュースレターは、個人やスモールチームが自身のオーディエンスとコミュニティを築く入り口と捉えているので、テキストメディアという枠組みを超えていくような広がりがあると考えています。

theLetterは10月18日正式ローンチしましたので興味ある方はぜひご登録お願いします。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000037666.html

ANOBAKAコミュニティに参加しませんか?

ANOBAKAから最新スタートアップ情報や
イベント情報をタイムリーにお届けします。