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第三弾PMF CONFERENCE ーSaaS編ーイベントレポート

2022.2.7

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テーマ(2) サービスローンチ時の仮説とズレ

萩谷:今回はPMFカンファレンスということで、サービス初期の仮説など色々聞いていければと思います。まずは近澤さんからお願いします。

近澤:僕らは起業して最初の2年は、現在とは全く違って、翻訳に関するプロダクトを作っていて、その時にANOBAKAさん(当時KVP)から出資していただきました。しかし2年間はピボットにピボットを繰り返していて、転機になったのはアルケミストアクセラレーターでした。そもそも翻訳マーケットが難しく、マーケットサイズが小さかった。スタートアップにとってはマーケット選定が本当に大事で、アクセラレーターでも言われたのですが、とにかくマーケットサイズは大きければ大きいほうが良いということがポイントでした。自分がもともとエンジニアだったこと、市場がグローバルで大きかったことから、テストの自動化に行き着きました。

アクセラレーターの最初の3ヶ月は全く違うアイデアでプロダクトを作っていたのですが、ファウンダーに「売れないものは売れない」と言われ、100社ぐらいの見込み顧客と話しても全く売れず、何かが間違っていると感じました。話を伺った皆さんがおっしゃったペインポイントを抜き出してカウント順に並べると共通した問題が見えてきました。それが先程ご紹介した「エンジニアの人手が足りない」、そして「せっかく自動化できてもメンテナンスコストが高すぎて現実的に運用できていない」という点でした。この2つの問題が解決できれば大きなビジネスになるぞと感じ、そこから逆算してノーコードとAIのメンテナンスというところに落としました。そしてその日の夜のうちにスライドを作り直して、ペインポイントを並べて、ソリューションを提示して紙芝居のデモを作って、次の顧客のところに持っていったところ、全くお客さんの反応が違ったんです。前は「それは良いですね。できたら教えてください」程度だったのが、「いつできるのか、どういう機能があるのか、いくらなのか」など非常に具体的な質問に変わりました。こんなこと今までなかったのですが、2018年中にプロダクトが無いのに契約が3件決まりました。ここがPMFではなくソリューションフィットなのですが「これは何かが違うぞ」と思った瞬間でした。

萩谷:ちなみにその100社を周っていた当時、プロダクトはすでにあったんですか?

近澤:作りながら会社を周っていました。バーニングニーズを解決していればプロダクトがなくても契約が取れると言われていて、そんなもの都市伝説だと思っていたのですが、実際に契約が取れたことは衝撃でした。

萩谷:そのインタビューの中で課題点が出てきたということですね。

近澤:最初のヒアリングについては、自分のソリューションから話してはダメで、そもそもどんな課題を抱えているのか、どういう組織でエンジニアがどれくらいいるのか、リリースサイクルはどれくらいなのかということを聞いていると、自動化のエンジニアいないじゃないかという課題に行き当たりました。

萩谷:そこで契約した当時はコンサルも含めていたんですか?

近澤:そうですね、MVPというかプロダクトが無い段階で、これで売れなければ事業が成り立たないだろうプラスアルファでテストも自分が作り、Autify上で動かせるようにします。もしAutify上で動かなければそのテストコードを納品します。しかもその開発テストの構築費用は普通のエンジニアリングではあり得ないぐらい安く受けていました。ここまでやって契約が取れなかったらプロダクトは上手くいかないと感じていました。

萩谷:Autifyが参考にしたグローバル企業はあったんですか?

近澤:ありました。大きいところで2社あって、1社は今完全に競合の状態ですが、もう1社はもうそろそろ追い越せそうだなという状況です。

萩谷:ソリューションフィットから、また違う世界が見えた瞬間があると思うのですが、また後ほど伺います。村山さんはどうですか?

村山:先ほども言ったんですけど、あまりスタートアップ PMFしてやるぞというスタンスではなくて、コンサルをしながら自分がやっているものをシステム化したら売れるんじゃないか、というところから入りました。

BPRという業務改善の領域にいて、課題解決をひたすらやるということをしていたおごりだったのかもしれないですけど、こういうもの作ったら売れるぞということでほぼインタビューはしなかったんです。ベータ版リリースからPMFまで一年ほどかかりましたが、体制としては僕とエンジニア一人でやっていたので、少しずつ機能を改善していきました。ベータ版リリース時から半年ほど経ってやっと10社や20社に営業をかけて1社取れる、という感じでした。それからさらに半年経ってPMFできたかなと思ったのが、ビジネスサイドのメンバーを1人入社したんです。彼はドメインのエキスパートではなかったのですが、自分とそのメンバーが売るというモデルに変えてそこからどんどん売れ始めたという感じでした。そしてリテンションを見てみるとほとんど解約されていなかったという状況でした。なので近澤さんのような綺麗なエピソードは無いんですけど、そんなふうにコツコツやっていったという感じですね。

萩谷:村山さんはコンサルもされていたこともあって業界の解像度がそもそも高くてさらに課題点もわかっていたんですね。

近澤:アルケミストアクセラレーターでも言われたんですが、コンサルからその課題点を自動化するのは美しいパターンだなと感じました。最初はコンサルから入って課題点の自動化はBtoBは成功パターンの一つだと言っていました。

村山:ただ僕はスタートアップっぽくなく、いわゆるグロースという要素がなくて、ひたすらコンサルをし続けていたんですよ。10社20社くらいから依頼が来て、全く取捨選択をせずにひたすらコンサルをしていて、プロダクトアウトというのが選択肢としてあまりなかったので時間がかかってしまった。

萩谷:初期でPMFを目指すのであれば、そのようなコンサルから入って課題解像度を上げていくのはありということですかね?

村山:どういう成長のしたいかにもよりますけど、私は資金調達せずにPMFまで行ったので、コンサルでコツコツやりながら安全にいきたい人はそれもありかなとも思います。

萩谷:リリース後の最初の半年とPMFを感じるようになった一年後の差はなんだったんですか?

村山:機能の積み上げとコンサルをしなくなったことですね。コンサル業務をしていた時は、目の前の顧客にコンサルとしてソリューションを提案して、同じ顧客にもう一回機能を追加してプロダクト持っていくと、今でも買ってくれないんですよ。コンサルをせずに自分たちのプロダクトを買ってくれる顧客を選定してなかったということかもしれません。当時僕はセグメンテーションができていなかったんですけど、ビジネスサイドのメンバーは、コンサルをせずにそういうセグメンテーションができていたということですね。

萩谷:そうですね、そういう早めにプロダクトに食いついてくれる顧客を見つけるべきだったんのですね。そのような顧客セグメントを早めに絞り込むのは良いことなのか悪いことなのかということについてお聞きしたいです。栗原さんお願いします。

栗原:バーティカルSaaSと言われているので、業界特化で業界特有の匂いというか癖を言語化できているのかがPMFの大前提になっていると思います。そういう意味では僕は業界経験者だったので、課題に対する認識はわかっていると顧客から分かっていると思われていたのは大きかったなと思います。バーティカルSaaSは会社の思想と合致しているかというバリューマーケットフィットみたいなものがあるのかなと感じていました。

最初2年間ぐらい1人でやっていて、最初のお客さんができるまでに1年ぐらいかかったんですけど、そのお客さんに月額2万円の契約をしていただいたんですよ。2万円って地域の個人塾からしたら小さくはない額だったんです。でもその時の僕たちのプロダクトはしょぼくて、3年後ぐらいにその人になんでその時契約していただけたのか聞いてみたら、「それは栗原さんだからですよ。」って言っていただいたんです。この人なら大丈夫だろうと思っていただけたからなんですね。お金を使ってもらうと本気でプロダクトを使用してもらえるので意見をいただけるんです。その要望をアジャイルでどんどん改善していった結果、PMFしたというイメージがあります。当時は開発能力も本当に低かったので機能もひとつしか無かったため、改善するというよりも機能自体を増やしていっていました。最初の顧客を捕まえて、要望をしっかり聞きながら自分達の価値判断でプロダクトを鍛えていくと、PMFに近づくんじゃないかと思います。

萩谷:その1社のお客さんに合わせて作っていたんですよね。SaaSのプロダクトの議論で、たくさんのお客さんの意見を聞きすぎて無駄なものを作ってしまうことがあるというのが時々挙がるのですが、その1社の要望が本当に的確だったということですか?

栗原:そうですね、それもそうですし、自分自身が判断できたことが大きかったなと思います。業界のことがわからなければいらないものも取り込んでしまうと思うんですよ。そういう意味では、バーティカルSaaSは業界経験者が出なければ難しいかなと思います。

萩谷:まさにそうですね。HorizontalSaaSの場合はリテラシーが高いアーリーアダプターが多いからそう言ったところに差し安いんですけど、バーティカルSaaSの場合はお客さんのリテラシーが低いことが多いので、巻き込んでビジョンを伝えていかなければいけないということですよね。では1社しっかりヒアリングしてプロダクト磨き込んでマーケ踏んでったらお客さんがついてきたという感じですかね。ありがとうございます。

萩谷:近澤さんにお聞きしたかったんですけど、ソリューションフィットからコンサルして、プロダクトを磨き込んでMRRが100とか200くらいになった間はどのような感じでしたか?

近澤:そう意味で言うとお二人が言っていたように、あるタイミングですごい売れだした時期がありました。2019年の3月にクローズベータローンチして最初の3社の契約が取れて以降は無かったのですが、8月くらいから一気に契約が取れだして。とある機能の追加をしてデモをしたらユーザーが感動してくれるようになったことが要因だと思うのですが、そこらへんからプロダクトとしてマーケットにフィットしてきたなと感じていました。マーケットがあった状態からインバウンドで問い合わせが多くて、アウトバウンドにお金を使ってないんですよ。そこからさらに改善しだしたら、Twitterで評価していただきだしたり、利用してくれてるお客様が良い評価をしてくださったり、お願いしてないのにお客様がプロダクトについてブログを書いてくれるようになりだして、開発したものがお客さんに満足してもらえるというPMFの1サイクルを感じたのが2020年の頭ぐらいでした。

萩谷:PMFする段階でプロダクトを磨いていく中で、キラーになる機能があるんでしょうね。そのあたりの開発の優先順位の決め方も気になるんですけど、ローンチしたときの仮説とのズレはあったんでしょうか?

近澤:仮説とのズレはほとんど無いと思いますね。ズレとはちょっと違うんですけど、セグメントをあまり切らず、来たものにサービスを売ってしまえというスタンスだったので、一時期チャーンレートが増えたことがありました。フィットするセグメントを決めるためには顧客企業のリリースサイクルは大事だなと感じました。アジャイル開発していない企業だと、リリースが落ち着いたので解約させて下さいと言われることも多かったですね。年間契約ひとつにして、それまでやっていなかったフリートライヤルを導入して、フィットする顧客を探すようにしました。そうなると、アジャイル開発していないと費用がペイオフしないので、リテンションが改善されました。体力のある会社ならトライアルなしでもとりあえず契約しちゃうところが多かったので、そこに甘えていましたね。

萩谷:幅広く当たっていかないとわからないことはあるから、失敗では無かったですよね。

近澤:そうですね。ストレッチしたセグメントを考え続けること、仮説を持ってセグメントを再定義し続けることはやはり非常に重要であると感じました。

萩谷:そこに気づかずに諦めずに続けて失敗するスタートアップもありますから難しいですよね。強いところを決めて伸ばすことも大事ですね。

近澤:やっぱり、お金をしっかり払ってもらって、ちゃんとプロダクトを使ってもらうことが大事ですね。アーリーの方々の話を聞くと、無料でサービスを提供している人が多い。まずはお金を払ってもらいましょうというアドバイスをさせていただいています。課題を本気で解決しようとしてないとお金を払えないので、誰の意見を聞けばいいのかというのがわかります。

萩谷:村山さんは、仮説とのズレについてはいかがですか。

村山:ローンチ後の話になるのですが、当時RPAやAI-OCRがバズワードになっていて、そこの流れに乗ろうとして、自動でAIが色々やってくれるというコンセプトのプロダクトを作る方向にいったんですね。もちろん、そこで複雑なことをやろうとするお客さんがいるのですが、AI-OCRも完璧ではないため、必要以上に仕分けをして違う判定をしたりしまって、完全にニーズに答えることはできていませんでした。しかしそのRPAが完全かそうではないかは、売れゆきとは関係なかったんです。どちらかというと請求書や処理した内容をメンバー内でしっかりシェアできて、適切に少ないステップで修正することでトータルの業務コストを下げたいというニーズの方が強かった。結果的にRPA自動化文脈ではなく、どうやって業務をコントロールしていくかを目的にプロダクトの形を変えていくという方向になりました。

萩谷:それは面白いですね。その当時RPAが流行っていて、「ざっくり業務オペレーションがまるっとできます」という感じで始まりがちですけど、狭いピンポイントのニーズに刺している方が良いということですね。

村山:そうですね、どちらかだと思います。セグメンテーションがしっかりできていて、全てのタイプの請求書には対応できないけどある一定のタイプの請求書なら全て自動化できますというコントロールニーズの方が強いなと感じて切り替えました。やはりそこでどっちも決めずにやってしまうとやはり迷走してしまうかなと思います。

萩谷:実際にその仮説がズレてきたと感じて、切り替えたのはいつぐらいだったんでしょうか?

村山:PMFが終わった時ぐらいですね。 PMFと言いながらも、あるお客さんからすると高機能で快適だけど、無駄に仕分けすぎてしまって使いづらいという意見もありました。ユーザーが増えてきて、機能が積み上がった結果そういう問題が起こりました。

萩谷:売り方やオンボーディングプロセスが変わったんですか。

村山:オンボーディングの変化もコンサルアプローチを辞めた時期と重なっていて、コンサルアプローチは、そのお客様が実際に使っている請求書を使って1か月程かけてしっかりトライアルしてもらってたんですけど、契約数はあまり影響しませんでした。どうしたかというと、自社で用意したサンプルでトライアルしてもらうようにしたんです。それでも業務はイメージできるし、リードタイムは短くなるし、売れ行きにほとんど影響はありませんでした。コンサルアプローチが引き起こした問題は確かにあったので、一旦俯瞰してABテストをしっかり繰り返すことが大事だと感じました。

萩谷:それで売れるお客さんが初期ターゲットで、そこで振り分けができたということですね。栗原さんはいかがですか。

栗原:シードでKVP(現:ANOBAKA)さんから資金調達をした当時は、バーティカルSaaSという言葉もなかったんですよ。完全にニッチなところを相手にしているSaaSだと思われていたようです。ピッチの資料では、マーケットは確かに小さいけれど、プラットフォーム化するから大きな絵を描けますよということを言いました。プロダクトはコンスタントに伸びてはいたんですけど、初期の頃に言っていた二の矢三の矢というものをなかなか出すことができませんでした。というのも、プラットフォーム化というのは、単純に機能を乗っけるというよりも、集客に持っていったりメディア化したりというように、新しく別の領域に挑戦するというイメージだったんですね。これが非常に難しくて、もともとの想定よりも2年くらい遅れていました。これは仮説とは違った点ですね。スタートアップでも、イノベーションのジレンマのようなものがあって、現在のプロダクトが伸びているからといって評価されるかわからないこの新しいプロジェクトをする必要があるのかというように、社員がコミットできないことが起こってきて、結果的に創業者が直々にやらないと新しい機能は伸びていかないのかなという悩みもあります。

萩谷;そうですね。特にバーティカルSaaSとなると上場に向けてさらに第二第三の矢が新しく必要ですね。今は体制的には栗原さんががっつり入って新しくプロジェクトしているということですか。

栗原:初期のプロジェクトであればがっつり入ったり、実際に現在もトップセールスをしていますね。自分自身のリソースの配分も難しいなと思います。

萩谷:業界の理解度が高い現在の状態でもバーニングニーズを見つけるのは難しいですよね。自社とのシナジーがあるかというところも考慮しないといけませんしね。

栗原:そういうシナジーのあるスタートアップがあれば、それこそM&Aをした方がスピード感はあるんじゃないかという風にも思います。

萩谷:PMFを仕掛けているシナジーのある企業を早めに買収するということも大事ですね。シードの後の話になっちゃいましたけどここも面白いところですよね。Autifyもそういうウェブからモバイルのテストを始めてそういった新しいPMFとかはありますか。

近澤:栗原さんが仰ったことも本当にわかります。Autify for webからmobileは、バリュープロポジションは変わらないのでジャンプは大きくないんですね。バーニングニーズがあることはわかっているので、正しいソリューションを当てれば売れるだろうというある程度精度の高い仮説はありましたし、実際にプロダクトを作る前にmobile版も契約を取ることができました。

100M(US$)のARRを目指していくとなると、プロダクトのサービスポートフォリオを広げていかなくてはいけないなと思っているので、具体的には、2023年までにバリュープロポジションが全く違うものを作って包括的に開発のライフサイクルをサポートする位置づけにまわっていきたいと考えると、違うバーニングニーズを見つけなくてはいけないと思っています。その時のAutifyの本来のビジネスの規模を考えると、どういう位置付けの事業を立ち上げて、どういう投資対効果があるのかということを考慮しなくてはならないので難しいですね。mobile版は自分のやり方を踏襲して共同創業者に立ち上げてもらったので、全く違う領域となるとそ創業者が引っ張っていくという判断になっていくのか、他の人に任せるのかという判断も難しいですね。

萩谷:ゼロイチで立ち上げができる人材も限られていますもんね。これについてはお酒でもずっと飲みながら話したいぐらいなんですけど、次のテーマにいきたいと思います。

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