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嘘も方便とスタートアップ

2021.5.14

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どうも、ANOBAKAの長野(@hiro_nagano)です。ちょっとポエムっぽい内容ですが、VC始めた時に感じた感情をどこかでまとめたいなと思ってたのでぜひ読んでください。スタートアップの業界における「嘘と方便」というお話です。



嘘つきの多い業界だな〜


というのが私が初めてスタートアップの業界で仕事を始めた時の素直な感想でした。

20代の頃事業会社の現場で仕事をしていると業務上嘘をつく場面というのはほとんどなかったので、VCとしてスタートアップに関わりだしてからそこにいる人たちのメンタリティが事業の現場にいる人たちと違うことにだんだん気づきました

「他の投資家も興味津々です!」(→実際は一度面談しただけ)

「経営陣のチームワークは固いです」(→実は喧嘩中)

「ユーザーこんな増えてます!」(→アクティブ率は低い)

「なんと業界大手のA社との業務提携決まってます」(→ほんとは決まってない)

上記に挙げたのは分かりやすい例ですが、大きい事から小さい事まで言ってることの真贋定かじゃない状況が多いというのは現場で事業開発しているのと大きな違いでした。

でも実際これは悪意のある嘘なのか?というとそういうわけではなくて、創業者はそれをほんとに信じているケースもあるから話がややこしい。時にそれはビックマウスと呼ばれたりしてスケール感の大きな起業家に見える側面もあったりします。


ビッグマウス、妄想癖、詐欺師、ポジティブマインド、大ぼら吹き…


色んな言い方、見られ方をすることがありますが、自分の体を張って起業している創業者には信じる力が大事です。自分自身や自社事業やメンバーを信じる力というのは創業者にとって根本的に重要な力です。その想いが背伸びして時に希望と現実を混同することがある。それが私がスタートアップの業界で初めに嘘が多い業界だなと感じた原因であり、必ずしも全否定されるものではないというのがだんだんわかってきました。

テスラが生み出す革新の源泉は、工場の「秘密の2階」にあった──元幹部が明かす「ものづくり」への執念 | WIRED.jp
テスラ(WIREDより)

海外でもセラノス事件のような嘘で塗り固められたスキャンダルもあれば、今やカリスマ起業家のイーロン・マスクも2018年頃はユーザーに約束した生産をすることができず倒産の危機にあるような時代がありました。(※セラノスとイーロン・マスクの事例はあまりに極端かもしれませんが。)

直近で純利益5兆円という日本企業としての金字塔を打ち立て称賛されているソフトバンクGにしても、ビジョンファンドがWeWorkやUber前CEOのトラビススキャンダルで苦境の時はボロクソに言われてました。(人の評価というのは移ろいやすい…)

私の友人でも学生の頃に起業してHTMLすら理解していなかったのに大手の会社にHP作りませんか?って営業して、案件とってきてからHTMLを勉強していた奴がいました。横から見ていて危なっかしいなと思いながらもそいつは短期間でHTML、CSSをマスターして納品し、その経験でいくつか案件とってたりしました。(そんな彼もいまや立派な経営者)


会社の一社員としてやっているとあえてリスクをとって嘘つくことのインセンティブよりもデメリットの方が大きいですし、どちらかというと性格の問題になりますが、起業家にとっては、特にシード期なんかは、薄氷の上を歩くような思いで事業を創っていっているので、むしろ嘘をつくというより自分の言葉を実現させていくというメンタリティで言葉を選別していっているというのが実際です。

その嘘のような未来を実現させる起業家を人々はカリスマと呼び、実現度が低いと詐欺師と呼ぶ。このようなリスクの上での起業家の言葉というのは意図的に選択されているのです。

もう少し因数分解するとその言葉がポジティブに受け入れられるか詐欺師と呼ばれるかは下記の要素に左右されるかなと思います。

  • エビデンス

→裏付けされたエビデンスがあるかそれとも薄弱な上で語ってるか?

  • 言い回し

→その言葉は脚色されていないか? 例えば「○○とのアライアンスは絶対にクロージングできます」と言うか「○○とのアライアンスをクロージングできる自信はあります」と言うかみたいな微妙なワードチョイス

  • 自覚

→根拠薄弱なのは分かっているがあえて自覚して盛っているか、自分でもその区別がつかなくなっているか?

このように起業家の評価は成功していればビッグマウスな起業家がカリスマと呼ばれることもあるし、失敗すれば詐欺師と罵られるしと毀誉褒貶激しいものです。そんな中でゼロから事業を創っていく起業家が放つ言葉というのは必要性があるという側面もあるのかもしれません。良いか悪いかは別にしてそういった前提に立って起業家のメンタリティを理解すると彼らの言動の理解にも繋がると思います。

ANOBAKAでも常に非常に多くの起業家とお会いしているわけですが、もちろん真贋を見極める感覚は研ぎ澄ませつつ、その彼らの言葉を実現させていけるような存在でありたいと思っています。

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