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破壊的な一手となったM&A事例

2021.9.2

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著者: 長野泰和( @hiro_nagano )



先日ZIZAI社の子会社でありキャラライブアプリ『IRIAM』を運営するIRIAM社がDeNAに買収されるというニュースがありました。

DeNAの事業ポートフォリオとのシナジーが期待できる流石の一手だなと思いつつ、150億円もの大型M&Aだったことも耳目を集めました。国内のネット系スタートアップ業界で久々の大型買収です。

  1. 大企業が効果的なM&Aを駆使しながら成長する
  2. スタートアップのエコシステムも加速、マネーも循環する

という流れを日本でさらに拡大したいと以前から考えていました。国内においては最近やや停滞していた感があるので非常に良いニュースだと思いました。

ただ、課題となるのはM&Aによるサクセスストーリーの少なさです。日本のM&AはニトリHDによる島忠買収やコロワイドによる大戸屋HDの買収など同業種のM&Aがやや多く、シナジーを見込んだ戦略買収や新事業創造のための買収がやや少ない、もしくは成功事例が少ない印象があります。

先日とある事業会社の方と話していた時に「オープンイノベーションが重要というのは勿論分かってるけど、じゃあスタートアップを買収して大成功したっていう事例ってどんなのがあるんですか?」と質問され答えに窮することがありました。打ち合わせが終わった後にいくつか思い浮かんだものの、日本で誰もが大成功だねと言える事例が少ないと感じていました。

一方、USのM&Aのダイナミズムはほんと凄いです。単純にディールとしてインパクトがあるだけでなくその後破壊的な成功を収めているM&Aの事例が豊富だなと思います。のれんの課題やPMIの難易度などややこしい話題は一旦無視して、USの驚愕するM&Aをちょっとまとめてみたいなと思ったので見てください。これらのM&Aは一手が破壊的な効果をもたらす事例です。


1. GoogleのAndroid買収

Android×google

あまりにも有名な成功事例です。一昔前のM&A事例なので今やandroidは元々Googleが開発したOSであると思っている人もいるかもしれません。実は、元々iPhoneが誕生する前の、スマートフォンの概念がまだ浸透していなかった時代にGoogleはOS開発スタートアップであったandroidを5000万ドルで買収しました。それが結果的に世界最大のプラットフォームになるわけですから、あまりにも破壊的なM&Aの一手と言っても過言ではないでしょう。

それにしてもその後のスマートフォンがインターネットの中心になるのを見越して、iPhoneが世に出る2年前にこの買収を手掛けていたというのは結果論かもしれませんが、驚くべき戦略性で度肝を抜かれます。近い将来のあるべき姿から逆算で先を見越して先手でM&Aを仕掛けていくことの重要性を教えてくれる教科書のような事例だと思います。


2. FacebookのOculus買収

Oculus×FACEBOOK

まったく飛び地の新規事業を展開するためのM&Aとして典型的な成功事例としてOculusの事例をピックアップしたいと思います。当時、WhatsApp’sやInstgramの買収の大成功でgoogleに次ぐM&A巧者としての存在感を高めていたFacebook(創業者との揉め事がスキャンダルにはなったが)からチョイスしてみました。ただ、WhatsApp’sやInstgramの成功事例はSNSレイヤーとしてFacebookの事業の延長線上なので、とてつもない大成功ではあるけどやや事例としては面白みが欠けると思うのであえてOculusの事例をピックアップしました。

正直、個人的にはこの買収時点でのoculusのデバイスクオリティやVRの市場感はFacebook規模の会社の新規事業の展開として物足りなく感じていました。世の中的にもそういう論調が多かったように思います。それが今やOculus Quest 2はスタンドアロン型で6DoF対応したものがたった300ドルという低価格で一般家庭に普及するまでになりました。VRの市場規模がOculus Quest 2を中心に急拡大している今であればあの時点のFacebookの買収判断はGoogleのandroid買収のような破壊的な一手なんだと思わされずにはいられません。


3. GoogleのFitbit買収

Fitbit×Google

GoogleによるFitbit買収は衝撃のニュースでした。2180億円のこの買収の意図は明らかにユーザーデータ獲得・活用。Googleの巨大なビックデータビジネスの加速においてFitbitが保持するユーザーの生体情報はたいへん有意義なはずです。

しかし、ビックデータがGoogleなどテックジャイアンとに一極集中されていることへの批判が巻き起こっている中でこの露骨な一手を打つのか?と思わざるを得ない案件でもあり、反トラスト法(独禁法)違反の疑いで揉めたあげく、Googleはデータは広告に使いませんという誓約をすることにより買収完了しました。Googleはウェアラブルデバイスで儲けようなんて意図はこれっぽちもないはずです。ビックデータビジネスの帝国を築く上でのこの露骨な買収劇は批判も生みました。


4. MicrosoftのLinkedin買収

Linkedin×Microsoft

最も賛否両論の議論を巻き起こした巨大M&Aといえば、MicrosoftのLinkedin買収でしょう。

これも当時は批判的な記事が多かったと思います。実際にSNSレイヤーのサービス展開が得意ではないMicrosoftとLinkedinの相性が悪いとは個人的に思っていましたが、MicrosoftはLinkedinの独立性を尊重しながらしっかり成長させました。ユーザー数は買収時点の4.5億人から7.5億人へ、売上規模も買収時の$3.7Billionから2倍以上に拡大しています。Skype、Yammer、GithubなどMicrosoftの買収は巨大な成功事例が多いですが、2兆ドルという圧倒的な規模感のLinkedinの買収が現時点では成功となっているのはMicrosoftの買収戦略における存在感は大きかったと思います。まだまだMicrosoftの本業とのシナジー効果が発揮しきれているかと言うともっといろんなことができそうではありますが、少なくともLinkedinのSNSとしてのモメンタムが加速していることはシナジー効果発揮の最低条件であるため今後も両社の戦略的一手は注目です。


5. AmazonのWhole Foods買収

Whole Foods

ネット企業が非ネット系企業を買収して成功した事例としてはAmazonのWhole Foods Marketが想起されます。この買収はO2Oビジネスの加速という点とネット系企業と旧来からの小売業界の苦境のコントラストという点が印象でもありました。全米最大の小売業界の王者であったシアーズがChapter 11を申請したのが2018年です。シアーズ以外にもトイザらスやボントン・ストアーズなど有名な小売業者が軒並み破綻していく中に巻き起こった買収劇であるのがより印象を強くします。

ビジネスの連携としてはamazon prime会員がホールフーズ店舗で注文品受け取りなどが行えるようになっています。amazonのO2O戦略を担っているということで非常にロジカルなシナジーが生めていると思いますが、”software is eating the world”がM&Aの世界でも侵食してきている象徴的な事例だと感じます。


番外編. DisneyのPixar買収

Pixar

番外編も付け加えておきます。非ネット系で、衝撃のM&Aといえば、DisneyによるPixar買収でしょう。ABCのADから叩き上げでDisney中興の祖になったマイケル・アイズナーが当時まだ在命だったスティーブ・ジョブズと粘り強い交渉で勝ち取ったM&Aです。アイズナーはPixar以外にもマーベル・エンターテインメント、21世紀フォックス、ルーカスフィルムなど立て続けに買収を続けていきます。

ネット系の買収事例ではないですがこれをピックアップしたいと思ったのは、今や圧倒的な成功事例となったDisney+の成功の遠因になってるからです。Disney+のサブスクリプション会員は1億人を突破しています。あまりにも桁違いの大成功を修めた新規事業です。

このDisney+の成功の伏線となっていたのが過去の買収だったということです。おそらく、その時点ではここまで意図していなかったでしょう。とはいえ、結果的に最高の買収案件になりました。




取り急ぎ5選だけで書き下ろしました。

あくまで長野の個人的に印象に残っている5選なので皆さんが印象に残っている破壊的なM&Aについても教えてほしいと思っています。冒頭の会話のように日本におけるM&Aの成功事例の話題になった時に誰もが口を揃えるこの5選のような破壊的なM&A成功事例が出てくれば、より一層日本のスタートアップエコシステムが加速するでしょう。がんばります!

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