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Seven Seven Six: アレクシス・オハニアンの挑戦

2022.1.18

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本文:三浦 輝 (@hkr_miura)


紀元前776年、古代ギリシアの都市オリンピアで最初のオリンピックが開催されました。

4年に一度5日間に渡って開催され、全ギリシアの祭典とされた古代オリンピック。
「エケケイリア (聖なる休戦) 」と呼ばれたその大会期間中は、憎み争い合っていた国家同士も戦いを止めスポーツの祭典を共に楽しんだと言われています。

古代オリンピックには、ギリシア人の自由民であれば農夫から王族まで誰もが参加することができました。
全ギリシア世界から最高峰のアスリートが集結し、互いの力を競い合ったのです。

古代オリンピックの最初の勝者となったのは、オリンピア近くの村出身の料理人であったと言われています。

2020年、アレクシス・オハニアン「776 (Seven Seven Six) 」というVCを立ち上げました。

最初の古代オリンピックの開催年にちなんで名付けられた同社は、世界中の偉大な起業家を惹きつけ真に公平な社会を実現することを理想としています。

この記事では、Seven Seven Sixについて同社の投資先と共に見ていきます。

Seven Seven Six

Seven Seven Six

冒頭で紹介したように、古代オリンピックにはギリシア人の自由民男性の誰もが参加することができました。女性やバルバロイ(ギリシア人以外) の参加や観戦は限られていたものの、信仰と名誉のための公平な機会が皆に与えられていたのです。

Seven Seven SixのWebサイトには、同社の設立の理念が次のように書かれています。

In the interest of capturing the same ideal that fueled the first Olympics, to achieve greatness, but with the perspective to truly embrace equity, Seven Seven Six was born. 

最初のオリンピックの原動力となった「偉大さの達成」という目標を「真の平等」と共に達成するために、Seven Seven Sixは生まれたのです。

Seven Seven SixのHP(https://sevensevensix.com/)より

Seven Seven Sixの理念には古代オリンピックがギリシア世界中から優秀なアスリートを集めたように、世界中の優秀な起業家に投資し「誰もに公平な機会を提供するインターネット」を実現するという創業者アレクシス・オハニアンの思いが表れているように思われます。

誰もが参加することを認められた古代オリンピックの意思を引き継ぐSeven Seven Sixでは、パートナーの半数は女性で構成され、15%は黒人・または先住民族で構成されています。

Seven Seven Sixを立ち上げたアレクシス・オハニアンは、RedditInitialized Capitalを創業した起業家であり、投資家としても活動しています。

また、父親の育児休暇取得の制度化を求める運動に参加したり、BLMの波の中で自身のRedditでのポジションを黒人に継承したりするなど社会課題への積極的な取り組みでも知られています。

さて、Seven Seven Sixの投資先を見てみると「コミュニティ」や「インターネットによるエンパワメント」がキーワードとなっているスタートアップが多く見られます。

Seven Seven Sixの投資先
776の投資先一覧(Seven Seven SixのHPを参考に作成)

クリエイター・エコノミーやその他コミュニティ構築支援の事業を展開するスタートアップに多く投資を行い、またそれらをサポートするカメラ・レコーディングアプリやコーチングサービスにも投資を実行しています。

ここからはSeven Seven Sixのポートフォリオの中から3社ピックアップして紹介していきます。

Seven Seven Sixの投資先

ここでは、Seven Seven Sixの投資先企業の中から以下の3社について紹介していきます。

RiversideFM – スマホやPCを使ってスタジオ・クオリティの収録ができるサービス
EarlyBird – 親や友人が子供にプレゼントとして投資を行うことができるサービス
Papa – シニア層と生活をサポートする大学生を繋げるプラットフォーム

RiversideFM – スマホやPCを使ってスタジオ・クオリティの収録ができるサービス

RiversideFM

企業名:RiversideFM
本拠地:テルアビブ
設立年:2019年
調達額:約$1200万
HP:https://riverside.fm/ 

RiversideFMは、PCやスマートフォンを使ってまるでスタジオで収録したかのようなレコーディングを行うことを可能にするサービスです。

WebのブラウザーまたはiOSのアプリを使って、4K画質のビデオと高音質の音声をローカルレコーディングで収録することができます。

RiversideFMのレコーディングは、Gary VaynerchukとMark ZuckerbergによるWeb3/Metaverseに関してのYoutube動画の収録にも採用されています。

Podcastや動画配信などに利用されることが想定されており、簡単な動画編集機能やYoutubeやFacebookでのライブ配信機能、リンクによる動画の共有機能など様々な機能が用意されています。

リモートワークが浸透してビデオ会議の重要性が高まり、またクリエイターエコノミーに注目が集まり高品質な作品が求められるようになる中、誰もにスタジオ・クオリティの作品を制作する方法を提供するRiversideFMの存在感は今後も高まっていくことでしょう。

EarlyBird – 親や友人が子供にプレゼントとして投資を行うことができるサービス

Early Bird

企業名:EarlyBird
本拠地:シカゴ
設立年:2019年
調達額:約$710万
HP:https://www.getearlybird.io/ 

EarlyBirdは、親や親戚や友人が共同で子供に「投資」することができるサービスです。

“Your child’s journey to financial freedom starts here. (あなたの子供の金銭的自由はここから始まる。)” をミッションとして掲げるEarlyBirdは、「ギフト」として子供のために投資することを可能にします。

子供に「投資」する家族や友人は、まずEarlyBird上でアカウントを作ります。

そして、子供へのビデオメッセージやテキストメッセージとともに「ギフト」としてお金を入金します。

共同で出資されたお金は、EarlyBirdが委託する投資の専門家によって運用されます。

投資を受けた子供は18歳になるとお金を引き出すことができます。

子供はそれまでに送られたギフトに思いを馳せながら、旅行やビジネスの費用、学費などとして自分のために使うことができます。

アレクシス・オハニアンは、EarlyBirdへの投資に際して「次の世代に投資するための新たな方法が必要だ」と述べています。

日本では2022年4月以降高校での「投資教育」が義務化され、金融リテラシーの重要性は今後ますます高まっていくように思われます。

EarlyBirdが提案する「投資という新たなギフトの形」が、私たち日本人にとっても身近なものとなる日はそう遠くないのかもしれません。

Papa – シニア層と生活をサポートする大学生を繋げるプラットフォーム

Papa

企業名:Papa
本拠地:マイアミ
設立年:2017年
調達額:約$2億4120万
HP:https://www.papa.com/ 

「Family on-demand」を掲げるPapaは、大学生とシニア世代を結ぶプラットフォームを提供するユニコーン企業です。

サービスを利用するシニア層はPapaのアプリに登録し、必要な時に「Papa Pals」と呼ばれるギグワーカーとしてPapaで働く大学生を呼び出すことができます。

呼び出された学生「Papa Pals」は、買い物の付き添いをしたり、銀行まで車で送ったり、話し相手になったり、家事の代行をしたりと様々なタスクを行います。

Papaは2017年にアンドリュー・パーカー氏らによって共同創業されました。

Papaの起業アイデアは、共同創業者兼CEOであるアンドリュー氏の実体験に基づきます。

アンドリュー氏は認知症を患っていた彼の祖父(アンドリュー氏はパパと呼んでいた)と、彼の洗濯や車での移動をサポートしてくれる看護学生を繋げました。

アンドリュー氏の祖父は、入浴などは自分でできたため介護を必要としなかったものの、日常生活の中でサポートが必要になる場面があったといいます。

アンドリュー氏はこの体験から「日常生活のサポート」をサービスとして提供することに可能性を感じ、Papaを創業するに至ったそうです。

保険業者などと提携することでサービス利用者の層を拡大してきたPapaは、創業から4年で全米50州にサービスを拡大しています。

「人生100年時代」と言われる現代、高齢者の生活を向上させるPapaのようなサービスはますます私たちに身近なものとなっていくでしょう。


<参考資料>

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